つかの間の休息
話し合い以降、開戦まで三日しかないため魔族達は準備に追われることになった……その一方で俺とソフィアは洞窟内でゆっくりと過ごす。戦争準備の手伝いをするにしてもほぼ部外者だし、下手すると迷惑にもなりかねない。クロワも「休んでいてくれ」とのことだったので、その言葉に従い用意された部屋で体を休めることにした。
で、この間にソフィアと相談する。どういう魔法を使うのか。
「最上級魔法は、確実に魔族ごと吹っ飛ばしますよね」
「だろうな。ということは上級魔法だけど……」
ソフィアが使える魔法を考慮しなければならないけど……例えば光属性『グングニル』とかだと爆風が拡散するし、変なところに着弾するとこれも魔族を消し飛ばしそうだよな。
「大勢力の魔族だから強いとは思うけど……うーん、敵の強さを考慮した場合、俺達が個別に魔法を撃ってもよさそうか? ソフィア、その辺りどう思う?」
「選択肢の一つではありますが……一気に敵を消し飛ばすにはやっぱり融合魔法を使うのが良いと思います。ただ敵の布陣や魔族の位置によってどの魔法を使うのか変わってしまいますね」
――例えば魔族が後方にいるのなら、『グングニル』を用いても魔族まで被害がいく可能性は低そう。しかし真ん中とかにいた場合、前衛だけを吹っ飛ばしてクロワと直接対決にもっていくとかになるわけだが……それ、加減が難しいのでは?
「なら融合魔法を用いたとしても、ある程度範囲が限定されることがわかっている魔法にするか」
「そうですね。それがいいと思います」
「以前は光魔法だけだったけど、ソフィアが使用するものを考慮すると、雷属性とかにするか。確認だけど、最上級魔法は使えるのか?」
「はい」
……いつの間に、とは訊かなかった。彼女は旅の最中でも修練を欠かしていないし。
「なら、それについて話し合うか……魔族の居場所を想定して」
「そうですね」
というわけで作戦会議を開始……融合魔法については最上級魔法を行使するために訓練していた過程で他の魔法を試したりもしたので、光属性以外でも使用はできる。
よって、俺とソフィアは色んな場合を想定してどの魔法を使うのかを協議……俺が使える魔法とソフィアが使える魔法には差があるので何でも使えるわけではないけど……一通り案を出して終了したのは、およそ一時間後くらい。
「――とりあえず、このくらいでいいか」
「はい。後は戦場で臨機応変に対応、ですね」
まあ、堕天使との戦いとは異なり魔法を溜める時間くらいはきちんとあるだろうし、作戦の達成は難しくないだろう。気になることは俺達が立ち回ることでクロワが魔王になることにどの程度影響するのかだけど……ま、彼らが大丈夫と言っているわけだし、ここは信用するしかないか。
結果、話し合いも終わったのでやることもなくなったのだが……こうなると話は自然とシェルジア大陸の件に。
「エイナとか心配してるだろうな」
「でしょうね……連絡手段がないですし、できるだけ早く帰らないと」
「時間掛かった場合どうなるんだ?」
「たぶん……というか間違いなく、私達のことをどうにかお城に入れるために皆さん頑張るかと思います」
「つまり、俺達を外にあまり出さないようにするってことか……正直、もう遅いような気もする」
ソフィアは沈黙してしまう……なんというか、行方不明になった時点で勝負はついてしまったように思える。
「ソフィアの予測は、二人が行動するとどこに行くかわからないから、目的はあるのはわかるけどできるだけ城にいてもらいたい、ってことだろ?」
「はい、そうです……今回の件でそうなってしまうのは理不尽な気もしますが」
「こっちとしては不可抗力だからなあ……」
ともあれ、そういう事態になってしまったら――
「……アンジェの予言に基づいて動くとしたら、大陸を渡る必要はある」
「はい」
「そういう旅は認めてもらえないか、厳重に護衛をつけるか、か……」
まあそれでもいいんだけど……そこでソフィアは微妙な顔をした。
「どうした?」
「いえ、そうした旅となった場合は必然的に私は従者ではなく王女として旅をすることになるでしょうから」
「たぶんそうだろうな」
「……ルオン様の方が緊急事態において判断できる能力がありますし、私としては現在の形が望ましいと思うのですが」
……うーん、別に固執する必要はないと思うんだけど。
それに、王女という立場を利用することもできる。アンジェの予言によると、リズファナ大陸に俺が求める情報を持つ存在がいる。ここでソフィア――王女という立場を利用してリズファナ大陸へは公的な訪問という形を取り、情報を得るというやり方もある。
難点としては情報を持つ存在が、前世で詳しいことを知り得なかった『エルダーズ・ソード』最新作とどう影響するのか……前世のゲームが『神』の仕業によるものなのかはわからないが、各大陸で起こった出来事はゲームの要素が多く含まれていた。となれば最新作も関係していると思っていいし、情報を持つ存在が最新作の主人公達と関わる可能性は十分考えられる。だから干渉していいものなのか疑問が残る。
ちなみに早く帰るというのは、最新作の出来事がいつ起こるかわからないので、注視したいという面も絡んでいる。現在元の世界の情報が何も得られないので、もしかしたら現在進行形で『エルダーズ・ソード』最新作のシナリオが動いているかもしれない……ここは運か。
「しかし、帰還したら絶対大騒ぎ……するよな」
「現在進行形で大慌てになっているでしょうね……」
「せめて連絡くらいは取りたいけど……」
さすがに無理か……どうなっているのか想像したくないなあ。
「まあいい……とにかく俺達はクロワを支援してこの魔界から脱する」
「はい……ただルオン様、皆さん私達のことは好意的に見ていますが――」
「わかってる、注意はするよ」
クロワ達を完全に信頼できる日が来るのかわからないけれど……もし裏切ったら、という可能性を考慮して立ち回り方を考えておくべきか。
魔界の事情をよく知らないから、仕方がない……こういった考えをするのはなんだか申し訳ない気持ちにもなるけど、こっちとしても必死だから、どうしようもないと割り切ろう。
「……魔王候補について、今回の激突でどれほどの強さなのか、ある程度は把握できるはずだ」
俺の言及にソフィアはコクリと頷く。
「魔王を超えるなんてことにはならないと思うけど、候補となる存在がどのくらい強いのか……それを見極め、魔界制覇を成していくのがベストだな」
「そうですね……あとはクロワさんの頑張り次第、ですか」
「自信はあるようだけど……な」
手を組んでわからないことばかりだし、クロワのことを見極める上でもこの戦いは重要なものとなるだろう。
――そうした様々な思惑を秘める中、俺達は戦争までの数日間休息をとることとなった。紛れもなく嵐の前の静けさであり、また魔界の戦いでも重要な局面となる以上、気を引き締めなければ、と思った。




