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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女の帰還

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最果ての村

 俺とソフィアが騎士ノークの兄、フォンと共に訪れたのは一軒家。中は簡素ながら作りはしっかりしており、内装はシンプル。


「まず、あなた方の身に起こったことについて説明致します」


 フォンが口を開く。テーブルを挟んで席に着き対面する形だが……家具なども存在しているのだが、少し加工が荒い気もした。職人が作ったわけではなく自作?


「ここへ来た経緯については問いませんが、間違いなく……あなた方は『神隠し』に遭遇してしまい、ここを訪れました」


 ……うん、彼に言われ改めて認識する。見事『神隠し』に遭遇してしまった。本来意図せずここを訪れることになるんだろうけど、俺達は自分達の力で『神隠し』と相対した……まあ、その、帰れなくなったけど。


「ここには様々な大陸の出身者がいますが、どうやら『神隠し』に遭遇した人間は等しくここへ連れてこられるようです」

「つまり『神隠し』とは、ここに来ることを意味するのか?」


 俺の質問にフォンは首を左右に振った。


「それ以外の要素もあるでしょう。魔物化や濃い魔力を身に受け体が灰になるなど……『神隠し』については様々な理由はありますが、そのうちの一つが、この場所に迷い込むこと。そしてこの地……私達は『最果ての島』と呼んでいます」

「島?」


 聞き返すと、フォンは苦笑する。


「といっても、本当にここが島なのかわかりませんが……この村から西と南には海が広がっています。船などが往来しないか監視役もいますが、今まで一度として船を見かけたことはありません」

「北と東はどうなっているんですか?」


 ソフィアが尋ねる。フォンはそこで立ち上がると、戸棚から何かを取り出し戻ってくる。

 それをテーブルの上に広げる……地図だ。ただ簡素なもので、村を中心として東西南北に何があるのか記してある程度。


「この村……『最果ての村』と呼んでいますが、この村を中心に荒野が広がっています。元々枯れ果てた土地だったようですが、現在はかなり改良し今では作物などもきちんと育つようになっています」

「そういった作物は、この島に存在していたものですか?」

「いえ、持ち込みです……あなた方と同じく『神隠し』に遭遇した人達の持ち寄りにより、大規模な農園を形成できました」


 そうフォンは返す。


「加え、家畜なども存在していますよ……暮らし向きはそう悪くありません。少なくとも村民全員が食べていけるだけの食料は確保できています」


 『神隠し』などという不可思議な現象にあっても、人はこうしてたくましく生きている、か……。


「戻る方法については?」


 俺が尋ねると、フォンは首を左右に振った。


「わかりません。そもそもここがどこに存在する島なのか……いえ、さっきも言ったように北と東側は手を出していないので島なのかもわかりませんが、一つ確実に言えるのはこの村に留まっていても絶対に脱出はできない、ということです」


 そう述べたフォンは、どこか力なく笑う。


「現在この村は独自に発展し、『神隠し』に遭遇した者達同士で子孫すら残しているような状況です。こうして村を形成したならそこを守りたくなる。ここの暮らし自体そう悪くはないので帰ろうと頑張る者もそう多くはない」

「……なんだかずいぶんとよさそうな村だけど、その様子からだと悩み事も多いみたいだな」


 俺の言葉にフォンは「ええ」と同意する。


「気候なども年中穏やかなので、天災に見舞われるようなことはほとんどないのですが、一番大きいのは魔物ですね。北と東側から時折来訪する魔物達によって、村人が犠牲になる場合があります」


 そこでフォンは地図に目を落とした。


「村の東には、砂漠地帯が広がっています。多少なりとも探索をしましたが、魔物が跋扈しているため調査も進まず、現在に至るまで規模などは把握できていません」

「北側は?」

「深い森です。『神隠し』に遭遇した騎士団などが調べに入ったことも過去にはあるようですが……」


 言葉を濁した。なるほど、森に潜む魔物などの餌食になったってことか。

 この『神隠し』について……俺達は自発的に踏み込んだわけだが、フォンを含めここにいる人々は偶然ここに辿り着いてしまった。そういう人は当然一般人が大半で、剣を握るような人間はごく稀ってことだろう。


 ただまあ、この家屋があるように森から資材を得ているみたいなので、魔物を警戒し防衛するような戦力は多少なりともあるってことかな……どちらにせよ地理的にわかっているのはこの村周辺だけで、他は自力で調べなければいけないと。


「わかった……それで俺達はどうすれば?」

「滞在は許可します。寝泊まりできる場所を紹介しますので、ひとまずそこでお休みになってください。ただ来訪者に対しては独自のルールがありますので、それに従ってもらいます」


 そう言いながら彼は俺達と目を合わせた。


「まず十日ほど、自由に過ごすことのできる期間を設けます。十日過ぎた場合は、何かの仕事をしてもらう必要があります」

「何をするのか自分達で決められるのか?」

「人手が足りていない場所、ですね。お二方は見たところ冒険者のようなので、必然的に護衛任務などになるでしょう」


 ……フォンは学者だけど、ソフィアのことを見ても何も反応がないってことは彼女について知識はないようだな。まあその方が混乱もないだろうし、やりやすい。

 そして、この場所についての情報をもらうたびに面倒なのだと俺も納得できる……とにかくここから脱出できる方法を考えないと。ガルクとかが血眼になって探していると思うので、待っていても大丈夫な気がしてくるけど……。


「わかりました。どうするかは相談させていただきます」


 ソフィアが締める。フォンは「お願いします」と告げ、話し合いは終了した。






 フォンの家を出てすぐ、俺とソフィアは相談を始めた。


「どうする? まずは森や砂漠を調べるところから?」

「他に選択肢はなさそうですし、それでいいと思います……問題は、果たして帰れる方法があるのかどうか」

「そこが問題だよな……ともあれ、できることからやるしかないな」


 十日間は調査に集中できるみたいだし、その間にある程度どう動くか結論を出しておきたいところ……森や砂漠については規模にもよるけど、数日で調べることができるだろう。


「とりあえず、また騒動だな……しかも今回は面倒な展開」

「早く戻らないといけませんね」


 ソフィアの言葉に俺は同意する――騎士ノークとか大丈夫だろうか。他にもロミルダを残していることが気掛かりだ。

 ま、それでも今回の敵は魔物とかみたいだし、今までの戦いと比べれば――


「というわけで、早速……いや、その前にこの場所について聞き込みでもするか?」

「そうですね。情報集めも良いかと思います」

「なら、すぐにできるからまずはそこからだ」


 というわけで、行動開始……最果ての地から脱出するための活動を開始した。


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