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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女の帰還

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王宮へ

 バールクス王国の首都は魔王との戦いで一度は征服されてしまった……が、魔族側も人々に圧政を加えたが町全体を壊滅させるようなことはなかった――もっとも見せしめのために犠牲者などは生まれているが――ため、解放されてからそれほど経過していないにもかかわらず、都はとても盛況だった。


「復興は確実に進んでいるか」

「はい、そうみたいですね」


 そう返答するソフィアの顔は嬉しそうだった。ま、当然か。


 さて、ソフィアは現在フード付きの外套をかぶりあまり目立たないようにしている。王女としては世間にその姿を公開したわけではないのだが、魔王との戦いで彼女のことを知っている人はかなり多くなっているからな……城へ到達する前に騒動があったら面倒なので、それを防ぐための処置である。


「こちらです」


 先導はエイナ。格好は変わらず騎士としての出で立ちをそのままにしているが、人々が見咎めるようなことはない。

 そんな彼女は都に入ってもどこか表情は硬い……ソフィアの指摘後俺は彼女について少しばかり観察していたが、確かに肩に力が入っているような気がする。


 堕天使との戦いに挑む時と同じように……とまではいかなくとも、これから始まることに対し何かしら危惧を抱いている――そんな風に見える。


 ただ、例えばソフィアはもちろんのこと俺に危害を加えるような出来事、みたいな感じにも思えない。そうであったならエイナも警告するだろうし、何よりソフィアの父親であるクローディウス王が歓待と言っているのだ。そこは間違いないと思うし、裏はないだろう。


 なら、なぜ彼女は……疑問に感じながらも進んでいく。周囲を見回すと、建物の中には戦いにより破壊された箇所も見受けられるが、その多くが修繕作業に入っている。


「ソフィア様が旅をされる間、この国にも様々なことがありました」


 ふいにエイナは話し始める。


「といっても大きな出来事はありませんし、問題があっても内々で解決できる程度のもの……まだ混乱は続いていますが、陛下のお力で国は安定し始めています」

「魔族の生き残りが姿を現した、ということもない?」


 ソフィアの問いに、エイナは「大丈夫です」と応じた。


「他国ではあったらしいですが、国内で異常はありませんでした」


 ……魔王の命を受けて政治中枢へ入り込んでいた魔族とかもいるだろうからな。現在国々はそのあぶり出しとかをやっているのかも。魔王が消え去った以上魔族だって活動する理由なかったりするわけだけど、その辺りどうなのだろうか。


 そんな俺の心の声を代弁するように、ソフィアはさらに尋ねる。


「私達は旅をしていて王様とかに関わろうとしなかったのだけれど……混乱もあったのでしょう?」

「そのようですね。さすがに公にされていない部分も多いようです」


 完全に解決するのはいつの日か……まだまだ先は長そうだな。

 ん、待てよ――もしやその辺りのことを手伝ってほしいとか、そういうことなのか? そんな風に考えると妙に納得がいく。神霊とも協力関係の俺なら適役だろうし。


 ただバールクス王国で起きていないって話だけど……人目があるから真実は話せないとか? 変に勘ぐっているような気もするけど、魔族絡みで何かあるとするなら、俺も迷わず協力しよう。

 そんな風に考えている間に、いよいよ城へ近づく。一番盛況な大通りから離れ少しずつ人が少なくなっていく。


「……城には正面から入るのか?」


 なんとなく尋ねると、エイナは頷いた。


「歓待という形なので」

「それにしても、さっき謝ったのは……」

「それは、悪いが話せない。ただルオン殿に危害を加えるようなことにはならない……それだけは約束できる」


 う、うーん。とりあえず彼女の口から大丈夫だという保証が得られるのであれば、こっちとしてはコメントしようもないけど。


「エイナ、本当に大丈夫なの?」


 ソフィアの問い掛けにエイナは「はい」と答えるのだが、やっぱり顔は硬い。


 ……ここまで彼女に促されるままに来たわけだけど、なんだか不安になってきた。いや、命の心配をしているわけじゃないし、いざとなればどうとでもなるわけだが、不安になってくる。

 本当に大丈夫なのだろうか……そんなことを思っていると、とうとう城へ到着した。


 城門前に行くと、門番がこちらを見て驚き、一礼してから城の中に入っていく。


「既に連絡はしていますので、直に迎えがくるでしょう」


 エイナが言う。さて、どういう反応があるのか。


 やがて、騎士やら重役らしき重そうなローブを着た人がぞろぞろと。そんな光景に俺とロミルダが面食らっている間に、全員がソフィアの前に到達すると、跪いた。


「王女、お帰りなさいませ」


 先頭にいる男性が代表して告げる。


「そして、英雄ルオン……こうして再びこの地を踏んでいただいたこと、感謝致します」

「あ、ああ……」


 ちょっと声がうわずりながら応じる。歓迎されている……よな? 少なくとも嫌な気配もないし。


「デイル、まずはお父様とお話をさせてほしい」


 ソフィアが優しく告げる。デイル――それはどうやら先頭の人の名前らしく、男性はしっかりと頷いた。


「はい、重々承知しております。ではルオン殿……と、そちらの方は?」


 ロミルダのことだ。当の彼女はビクリと一度肩を震わせた。そんな彼女にソフィアは『大丈夫』と告げ、返答する。


「旅で知り合い、同行してもらった人」

「そうですか。遠路はるばるお越し頂きありがとうございます……では皆様、温かい食事とベッドを用意しております。どうぞ中へ」


 柔和な笑みを伴いデイルは語る……やっぱり嫌な雰囲気はないな。歓迎すると手紙にはあっても、廷臣達はそう思っていない――みたいな可能性もあったけど、そんなこともなさそう。

 しかし、やっぱりどこか引っ掛かる……俺は小さく息をついた後に「行こう」と指示を出し、全員歩き始めた。






 で、所変わってとある客室……落ち着かないくらい大きな部屋で、俺はただひたすらどうするか考える。ちなみにこの場にソフィアやロミルダはいない。ロミルダについてはさすがに一人にするのはまずいと認識し、ソフィアが責任を持って彼女を連れて行ったので、たぶん大丈夫。


 そして一人部屋に佇む俺……どうしよう。と、色々頭を悩ませていると、ノックの音が。


「どうぞ」


 使用人だろうかと声を掛け、扉の向こうにいたのは、


「久しぶりだな、ルオン殿」


 ――まさかの、クローディウス王だった。

 思わぬ登場に動揺し、思わず跪こうとする。しかし、


「いや、そのままで構わない」


 手で俺を制すと扉を閉め、こちらへツカツカと近寄ってきた。


「旅を続ける中ですまないな、ルオン殿」

「いえ、その……王女についても話をしなければならないタイミングに来ていましたから」

「ソフィアと呼べばいい。遠慮はいらないさ」


 笑いながら語る王に対し、俺は生返事をするしかない。

 こうやって面と向かって会話する以上、意図があるはずだけど……席に着きながら王の顔を窺う。柔和な笑みを湛え、こちらの考えを読ませないような雰囲気があった。


「さて、ルオン殿。まずは長旅ご苦労だった……といっても、まだ続くようだな」

「はい、ソフィアに聞きましたか?」

「いや、まだソフィアとは話していない。先に貴殿へ通しておこうと思ったのだ」


 俺が先? 疑問に思ったが、ひとまず話を進めることにする。


「それで、エイナは手紙で概要を説明したようですが……どの程度把握を?」

「次の目的地が魔界である、ということくらいか」

「わかりました……まず経緯などを説明します」


 そうして俺は、遺跡で偶発的に転移した以降の出来事について説明する。内容的に驚嘆すべきものであったはずだが、王は存外冷静に受けとめていた。


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