転生者対峙
戦いが終わり数日経ったある日、俺はネルの案内に従いとある町へと辿り着く。
「彼が宿泊する宿はこれです」
「ありがとう」
メモを渡され、俺は礼を述べる。その場所を確認した後、静かに歩き始めた。
通りにはずいぶんと人が多く、笑い声がそこかしこから聞こえてくる。それを耳にしながら俺は真っ直ぐ歩く――アランと会うために。
「レスベイル」
一言呟く。すると俺の体の中の魔力が少しだけ、揺らいだ。
名を呼べばいつでもその力を発動できるようになっている――アンヴェレートから力を継いだことにより、レスベイルのありようも変化した。彼女が持っていた天使の力を活用し、もしアランが暴れ出しても周辺に被害がないように手はずを整えることができる。
その準備を名を呼んで行うと共に、ガルクの声が聞こえてきた。
『ルオン殿、我にも気配を感じ取ることができるぞ』
「そうか……逃げるような真似はしないみたいだな」
彼が俺のことを気付いているのかは不明だけど……。
そうした中で俺は一つ考えていた。まだ誰にも話してはいないけれど――
「ガルク、提案があるんだ。レスベイルについて」
『天使が力を結集して作り上げた武具。それをレスベイルに渡す、だろう?』
答えをガルクが提示した。まあ予測はしていたか。
『うむ、我もそれでいいと思う。レスベイルが相当な力を有することになった以上、それが正しい選択だ』
「エイナ達には悪いけどね……でもまあ、納得はしてくれると思う」
デヴァルスもこれに同意するだろう……俺達がシェルジア大陸へ戻り、さらに魔界へ行くために動いている間、作成してもらおう。
そうした結論に至った直後、とうとうアランが宿泊している場所へ辿り着く。何の変哲もない宿。俺は一度建物を見上げてから、中へと入る。
内装もそれなりで、印象は結構いい。店員に呼び止められると「知り合いがいる」と返答し、迷わず階段で二階へ。
アランは気付いているのか……この時点で暴れ出さないとも限らないが、彼が動く気配は一切ない。
階段を上がりきると、靴音を発しながらある扉の前へ。そこが紛れもなくアランの部屋。俺は躊躇いもなくノックをする。
反応がなければ開錠の魔法で……と思っていたら、
「どうぞ。開いています」
返事が。ノブに手を掛け中に入ると……窓際で椅子に座り、こちらに視線を向けるアランの姿があった。
「……その様子だと、気付いてはいたみたいだな」
「ええ」
返答を聞きながら中に入りドアを閉める。相手は無表情で、こちらを見据え沈黙する。
俺もまたどうするかしばし考え、奇妙な静寂が一時部屋の中を支配した。
やがて声を発したのは、俺。
「ここに俺が来た以上、用件はわかっているんだろ?」
「……自分がどうなるかを聞いていい?」
「保有している能力を封じ、終わりだよ。これまで宴で魔物を狩ってきた功績と、ロスタルドとの戦いでやらかした件……その辺りをチャラってことで」
「力そのものを封じるか……まあ確かに、それが一番無難な回答だろうね」
ゆっくりと立ち上がる。戦闘でも始めるか――と思っていたが、アランはそれを制するように手を突き出した。
「力はほとんど残っていない。それに『霊喰らい』が通用するほど甘くないのはわかってるよ」
彼の傍らには剣は置いてあるが……それを抜かせる前に決着をつけるか、あるいは剣の能力を活用できないように剣術で封殺するか。考えていた案はそんなところだ。
実力的にアランと俺とでは差がある……それは彼もよくわかっている。だから無闇に抵抗はしない、って感じだろうか。
「だからまあ、実質選択肢はないも同然だろ?」
「……確かにそうだな」
頷く俺。それを彼は不服と思ったようだが、口には出さない。
「……けどそうなったら、俺の願いは叶えられない」
「堕天使の力を手にして、具体的にどうするつもりだったんだ?」
「強くなってみたかった。それが全てだよ」
端的な答え……なおかつ強い語気を伴っていた。
「……強くなるために努力するのは自由だ。けれど、そちらは秩序を乱そうとした。だからこうした状況がある」
俺の言葉にアランは「そうだね」と応じる。
「天使としては抵抗できないよう無力化する……それが最善と考えたわけだ」
「野心が消えていない以上、な。正直なところ、そこについては天使達に任せるつもりだし、これ以上とやかく言うつもりはない」
「なら、なぜあなたがここに来た?」
「訊きたいことがあるからだ……転生したことについて」
話題に対し、アランは肩をすくめた。
「物語のこと? 君の介入で物語は破綻した。もう意味を成さないけれど――」
「そこじゃない……戦いの最中、情報をとるため俺はあえて黙っていたが、どうやらあんたと俺とでは前世暮らしていた世界が違う」
――その言葉は、少なからずアランも驚いたらしい。目を細め、
「なんだって?」
「先の戦いで口にした物語の題名。それは俺が知っているものとは違う。それに加え、そもそも俺の世界には魔獣やら魔法なんて概念もなかった」
「……なるほど、それがどういうことなのか知りたいと?」
「色々推測はしているよ。けれど、もしそっちが何か知っているのなら、情報をもらえないかと。まあ捕まえようとしている人間からの要求だ。虫が良すぎると思うかもしれないが」
正直、あんまり期待はしていない。けれど転生を行った存在……神とやらに少しでも近づければ、と思いこうして尋ねた。
「なるほど、ね」
呟くアラン。その表情はこちらに興味を持ったもの。
「悪いけど、こっちは何も知らないよ。転生した経緯なんて、想像もつかない」
「そうか……」
「今度は逆に問いたい。そうやって情報を得ようと動いているのは……この世界に眠る神様について調べているんだろ?」
「ああ、そうだよ」
「いずれ神はこの世界を壊す。もっとも、その理由は俺にもわからないけれど」
……その辺り、彼が知っている物語でも紡がれてはいなかったか。
「倒す気なのかい? 神様を」
「どうするかはわからない。けれど、それも候補に入るとは思っている」
淡々と答えた俺にアランはやれやれといった様子で、
「そうか……でもその方法までは、思いついていない様子だね」
「方法……?」
「どうやらその辺りについての情報は持っていない」
――俺はアランを見据える。彼は笑みを浮かべていた。
「いや、こっちも断定したことは言えない。ただ、物語を読んでいて、作者はこういう風な設定にしたんだ、と気付いたことがある。いや、確信と言ってもいい」
「それは――」
問おうとしたその瞬間だった。
突如、視界が歪む。罠かと思ったがアランは驚愕し、俺と視線を重ねた。
さらに部屋にも変化が。突然光に包まれたかと思うと、その全てが消え去り――俺達は、真っ白い空間の中に立っていた。
「な――」
アランが瞠目し周囲を見回す。一方俺は冷静だった……なんとなくだが、ネフメイザと最後に戦った時のことを思い出し、これはあの時と同じだと考えたためだ。
「――繋がったか」
そして、声。ただそれを聞いてアランがビクリとなった。
理由は明白。なぜなら、
「予定外……だけど、まあ構わないか」
声の主は横から。視線を転じ、その姿を確認する。
その人物は――アランとまったく同じ姿をしていた。




