深淵へ
「目先の問題として残るのは、アランについてだな」
デヴァルスは一度咳払いをして仕切り直し、俺やソフィアに話を続ける。
「もっとも、彼は現在悪さをしているわけではない……居場所は捕捉しているからすぐに会うことだってできるが、どうする?」
「俺が会っても問題なさそうか?」
「現在どういう心境なのかはわからないから、どうとも言えないな……場所は町中であるため下手なことはできない。例えば人気が少なくなった時とかに話をするか?」
うーん……レスベイルを使えば暴れだそうとしても封殺できるだろうし――
「いや、町中でも構わないよ。会うまでは観察を続けてくれ」
「了解。では次の話だが……ルオンさん達は、これからどうするんだ?」
――その点については、ソフィアとも相談した。ロミルダやリチャルは俺達の方針に従うようで、言及などは特になかった。
よって、
「一度シェルジア大陸へ戻ろうと思う」
「お、何かあるのか?」
――俺とソフィアが駆け落ちしたことになっている話とか、色々と面倒事が待っているわけで。上手く誤解をとかないといけないとか色々あるんだけど、一番は、
「……神と戦うかどうかはわからないけれど、未来に存在する悲劇を防ぐためにも、各種族が力を結集した武具が欲しい。その中で精霊と竜は粋を結集した武具を得ることができたし、天使の物もデヴァルスさんがやってくれる……次は――魔族だ」
「魔族にまで手を広げるか……とすると、魔界へ行くのか?」
魔界、というのは一口に言えば魔族が暮らす領域のこと。天使が天界という領域を構築しているのと同様、魔族にも領域が存在している。
ただし、その全容は基本的にわからない――ゲームで魔界を訪れることはなかったし、どういう場所なのかを語られる機会だって存在していなかった。
「それに、魔界へ行く道筋はあるのか?」
デヴァルスの問い掛けに、俺は肩をすくめた。
「あるよ……シェルジア大陸から北西へ進むと、ゼナス島があるだろ?」
――そう遠くない位置に存在する孤島であり、そこに魔界の入口が存在する。面積はそれなりで、シェルジア大陸の国々などとも交流があったりする。
「そこに、魔物達が暮らす迷宮がある……なぜそんな場所があるのかとか謎も多いんだけど、その最深部……そこには魔界への扉があるんだ」
「そこへ行く、ということか。ルオンさん達なら楽勝だな」
実力を考慮してそう言っているのかもしれないが……正直そこはどうなのか。まあどちらにせよしっかりと準備をする必要はあるだろう。
「その場所も、物語として存在していたのか?」
「ああ……といっても今までみたいに壮大な話ではないけどね」
『エルダーズ・ソード』のシリーズ三作目に該当する。副題は『アビス・ガーデン』。主人公は迷宮探索を行う冒険者であり、島で仲間達と交流をしながら攻略を目指す。
迷宮自体はいくつも存在し、それを制覇していくことでシナリオが進んでいく……最終的に先ほど語った魔界の扉がある迷宮を制覇すれば、ゲームクリアとなる。
ちなみに主人公はカスタマイズが可能であり、名前などはもちろん性別や体格なども自由に設定できた。仲間についても名前や容姿などを設定できるので、そういう意味で自由度の高い……というより、古き良きロールプレイングのシステムだった。
なので、重厚なシナリオを持つ他のシリーズ作品と異なり、三作目はどちらかというと番外的な位置づけとなっている。まあやりこみ要素なども存在するため、転生前の世界では迷宮に潜り続けている猛者もいたくらいには、人気のある作品だった。
「迷宮については、いくつもあるけど俺達の狙いは魔界の扉がある迷宮……そこだけを目指せばいいから、時間はそう掛からないと思う。本当の問題は魔界の扉を抜けてからだ」
「その先は、何もわからないということですね」
ソフィアの言葉に俺は小さく頷いた。
「物語の中では魔界の扉に入ることはなく、封印した……今どうなっているのかわからないけど、もし魔物が湧き続けているのなら、封印はされていないと考えていい。もし封印されていたなら、それを解除して入り込む」
「魔界へ入った後の準備をする必要がありますね」
「そういうこと……ただ魔界について一切情報がない。それが一番の問題だけど、そこについては心当たりがある」
ソフィアも俺の発言を理解したようで、声を上げた。
「オルディアさん……ですか」
「ああ、魔界で過ごしていた彼から情報をもらえばいい」
そういう意味でも、シェルジア大陸へ戻る……ただ現在彼はどうしているのか。
「ま、捜索については大陸へ戻ってからだな。俺達が次にやることは、魔界へ赴くための準備と、そのために一度シェルジア大陸へ戻ること」
「魔界では何が起こるかわからないだろう」
そうデヴァルスは口を開く。
「そっちが戻っている間に、こちらも何かしら道具でも作っておこう」
「本当か? それはありがたいな」
「うん、これで一通り話は終わったかな……ルオンさん、他に質問とかはあるか?」
「今のところは……」
「なら俺は、アランに会うための段取りをしよう」
デヴァルスが去って行く。それを見送った後、俺はソフィアへ口を開いた。
「……シェルジア大陸へ戻ったら、今後どうするか一度話し合おう」
「話し合う、とは?」
聞き返した彼女に対し、俺は空を見上げ、
「決して今後は俺一人で戦うとか、そういうことを言っているわけじゃないよ。ただ魔界へ行く……そこについては何が起こるかわからないし――」
「お一人で、というのは反対です」
強い言葉だった。俺は予想していたので別段驚きはしないけど。
「ルオン様なら、どうにかできる……そんな風に多くの人が思っているでしょうけれど」
「……魔界というのがどういう場所なのか俺もわからないからな。俺としても仲間は多い方がいいかもしれないけれど、だからといって今までのように一緒にとは言いにくいよ」
俺は小さく息をつき、提案を行う。
「なら、シェルジア大陸へ戻り、王と話をする……王は俺の行動に賛同してソフィアと共に旅を続けてきたわけだけど、さすがに今回ばかりは相談したい」
そもそも、今までだって危険なこともあったからな……その辺りのことも説明しないと。
「わかりました。ではそれで」
「ああ……エイナ達はどうするんだろう?」
「たぶんエイナについてはついていくと言い出しそうですけれど……一度戻るのですから、その辺りしっかり整理しても良いでしょう」
魔王との戦い後、半ばなし崩し的に俺は城を出て旅を再開した。そういったことについて整理する段階に来たのかもしれない。
それに、明確な目標もできたわけだし……旅を始めた直後とは目的も違っているからな。その辺りのことを含めて一度話し合わないと。
ただなんとなく誤解云々のことで嫌な予感がするんだけど……でも一度戻らないといけないのは確かなわけだし。
「ここでやることは、アランの一件だけだな」
「ルオン様、彼については――」
「頼みがある……俺一人で、行かせてもらえないか? その方がたぶん、彼も話ができると思うんだ」
根拠はなかったけれど……するとソフィアは少し沈黙し、
「彼については、事情もあるようですし……良いと思います」
「悪いな。彼のことが終わり次第、帰ることにしよう」
そう提案し――ソフィアは頷き了承した。




