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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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堕天使の笑顔

 俺とソフィアの融合魔法は全てを貫き、隔離障壁で囲われていたはずのこの部屋を破壊していた。真正面には巨大な大穴が生じ、建物の外側にある青い空がはっきりと見え、風が吹き込む。

 それと共に理解する。堕天使ロスタルドが融合魔法によって消滅した……誰もが認識した直後、エイナ達は例外なく座り込んだ。


「あー……しんどかった」


 アルトが腹の底からはき出すように呟いた。それにキャルンが笑みを浮かべ、


「お疲れ、アルト」

「まったくだぜ。前線に立つのはわかっていても、やっぱしんどかったな」

「だがきちんと作戦は遂行した」


 クオトがニヤリと笑う。


「奮戦したからこその結果だ。酒場でこれを肴に騒ごうじゃないか」

「お、いいな……ルオンさん、これで終わりなんだよな?」

「アランの一件があるから完全に解決とはいかないけど……堕天使との戦いは、終わりだな」


 そう告げた後、俺はアンヴェレートへ向き直る。倒れていた彼女は、ようやく起き上がったところだった。


「大丈夫か?」

「……倒してくれて、礼を言うわ」


 そして彼女は地面に座り、


「これで、心置きなく消えることができる」

「――え?」


 呟いた矢先、彼女の体から魔力が……霧散し始める。


「おい、アンヴェレート――!?」

「レスベイルに結構な力……あ、もちろん天使の力よ。それを注いだことに加え、今回の戦いで相当な力を外に流したからね。もう体を維持するほどの魔力は残ってないのよ」

「――消えることも、想定の内だったんですか?」


 唖然となるソフィアに対し、アンヴェレートは笑う。


「ええ、そうよ」

「……どうして、そこまで」

「色々と理由がある、とだけ言っておくわ。自らを犠牲にしても、倒したかった相手……それだけの話よ」


 その言葉には、得も言われぬ強い感情と、また同時に達成したことによる満足感があった。

 成すべき事は終えた。だから消える……そんな風に感じられた。そういえば彼女は以前「堕天使との戦いでどうなるか、確実なことがある」と言っていた。それがおそらくこの結末ではないか。


「それにね、あなた達に味方したといっても私もまた堕天使であり、天界の面々は私を許そうとしないでしょう。私はロスタルドに特攻し、無残にもやられた……そんな風にしておくのが、無難よ。あなた達の立場も悪くならないしね」

「……本当に、ありがとうございました」


 ロミルダが礼を述べる。俺もそれに合わせて頭を下げた。


「アンヴェレート……あなたがいなければこの戦いは困難を極めたと思う。本当にありがとう」

「私は私がやりたいようにやっただけよ。ま、あまり気にしないで」


 にこやかに語るアンヴェレート――その瞬間、堕天使としての力がはがれ、ごくごく普通の女性に変じる。

 もう力も残っていない。ああ、本当に消えるのか――そんな風に思った。


 彼女はどこまでも満足げな表情を浮かべる。仲間達はそんな彼女に視線を注ぎ、ただひたすらに言葉を待つ。


「……あなた達と最後に戦えたこと、私としては良かったわ。不謹慎かもしれないけれど、共に鍛錬を重ねていた時、楽しいとさえ思えた」


 アンヴェレートは微笑を湛え、俺達に語る。


「心残りは……ないとは言わないけれど、ずっと一人だった私が最後こうして共に戦う人に恵まれたのだから、よしとしようかしら」

「アンヴェレート……」

「ただ、そうね……一つだけ……ルオン」


 呼ばれ、俺は近寄る。座る彼女は手招きしてさらに近寄れと指示を出す。

 そして眼前まで寄ると、彼女は耳元でささやいた。


「――それだけ、お願いするわ」


 内容を話した直後、彼女はそう告げた。俺は小さく頷き、


「ああ、任せてくれ」


 その言葉で、彼女は満面の笑みを浮かべ――心残りがないように。


「私は、ずいぶんと幸せな終わりね……行けるのが天国か奈落の底かわからないけれど、あなた達の活躍を応援しているわ。頑張って」


 優しい言葉の直後――彼女の体に淡い光が生まれ、溶けるように消えていった。

 長い沈黙。誰もがアンヴェレートがいた場所を見据え、硬直する。


 そんな静寂を破ったのは――俺だった。


「……戻ろう。そしてデヴァルスさんに報告しよう」


 そう告げ、俺は先んじて部屋の外に出るべく歩き始めた。






 建物内の魔物などは全て消え失せ――あるいは天使達に倒され、何事もなく入口まで戻ることができた。そこに備わっていた魔法陣を抜けると、宮殿が目の前に現れ、その入口付近にデヴァルスやネルの姿が。


「ご苦労。報告は既に届いている」

「ああ……長かった戦いも終わりだな。けれど」

「アンヴェレートのことだな。俺は消えることを予め聞いていた」


 はっとなる。視線を合わせると、彼は笑った。


「堕天使という自らの立場のこともあるし、ここでロスタルドもろとも消えるのがベストだろうと語っていた」

「それは……」

「わかってる、納得がいかないってのは。ただ消える必要はないと語っても、彼女はこの戦いで退場すると、心に決めていたんだろう……結果として、天界の面々に俺もとやかく言われるようなことにはならない。本当に助けられたし、感謝しないといけない」


 肩をすくめるデヴァルス。


「後のことは任せてくれ。ルオンさん達は、しばらく宮殿内で休んでいてくれればいい」

「アランについては?」

「居所はわかっている。話す機会があるのなら、すぐにでも用意できるさ」

「……わかった」


 俺は頷き、仲間達を見回す。全力で戦った結果、たった一戦であっても疲労が窺えた。


 ここを出てからそれほど時間は経過していない。しかしそれでも仲間達は全力を出し切り、張り詰め武器を振るった。もしかすると俺とソフィアの魔法完成がもう少し遅ければ、違う結末を迎えていたかもしれない。


「……色々思うことはあるだろうけど」


 俺は仲間達に告げる。


「けど、今は休もう」


 全員頷く。そうして、堕天使との戦いは終わりを告げた。






 アンヴェレートについては、ロスタルドと単独で戦い滅んだ――そういうことで処理され、天界側も納得したようだった。

 ロスタルドの本拠に踏み込んだ天使にもそう言い含めたらしい。デヴァルスも「信頼できる面々なので心配いらない」と告げ、彼女については片が付いた。きっとデヴァルスはアンヴェレートがこういう結末を迎えることを知っていたから、その準備をしていたんだと思う。


 仲間達はその日泥のように眠り、翌日から鍛錬を開始した。もう敵はいない――けれど彼らは武器を振らずにはいられなかったようだ。

 そうした光景を見ながら俺は、宮殿の外でソフィアと共にデヴァルスから話を聞く。


「大方堕天使の騒動については終了した。ルオンさん達がいなければ、とんでもないことになっていただろう。本当に感謝するよ」

「いや、俺達としても今回の戦いを通して色々と学んだし……ただ」

「ルオンさんの課題についてだな」


 そう、最後は融合魔法という新たな技法で堕天使を打ち砕いたが、魔物へ攻撃が効きにくいという問題そのものは解決していない。


「それについては、ルオンさんの魔力を解析しているし、そう遠くないうちに道具などが開発できるはずだ」

「本当か?」

「ああ……とはいえ神に挑むとなれば、そうした道具が通用するかどうかはわからないぞ」


 そう言った後、デヴァルスはニヤリとなる。


「ま……研究は続けていくつもりだ。ルオンさんの礼を込めて」

「ありがとう」

「協力してくれた礼としては、足りないくらいかもしれないが」

「ならお互い様ということで」


 こちらの言葉にデヴァルスは「そうだな」と同意した。


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