それぞれの剣
ロスタルドが魔力を腕にまとわせた直後、動いたのはアルト。やはり彼が先陣を切って戦う役割……本人からすれば、恐怖してもおかしくない。
だが、その動きはよどみがない。大剣を振り、堕天使へまたも挑む。
「貴様の魔力の底はある程度読めた」
腕をかざすロスタルド。大剣が触れ――ガキン、と止まる。
「多寡を知れば、それで終わりだ」
魔力が防御する腕に集まる――衝撃波が拡散するが、今度のロスタルドには通用しない。
キャルンやディーチェが横槍を入れようとするが、それをロスタルドはもう片方の手をかざし、牽制する。
「まずは、一人――」
「さすがにそれは見くびり過ぎじゃないか?」
アルトが言う――同時、アルトの魔力がさらに高まった。
その変化にロスタルドは訝しげな視線を送り――同時にアルトは大剣で腕を弾いた。思わぬ斬撃に堕天使は後退しようとするが、そこへアルトが追撃を掛ける!
足を前に出し、勢いをつけた剣戟。狙いは真っ直ぐで当然防御はされる――そこでロスタルドは察しただろう。これでは先ほどと同じ状況。
だからなのか、彼は再度後退を選択した。左右からの同時攻撃を回避。それは少なからずキャルン達の攻撃が痛手になることを表している。
だがこれは、罠だ――
「穿て」
後衛にいるセルガの呟き。それと同時、両手を突き出した彼から、光が溢れ、放たれた。
真っ直ぐアルトの横をすり抜け――後退を選択したロスタルドを追うように接近し、
「な――」
驚愕の声。同時、白が堕天使に直撃し、彼を中心に白い火柱が生じた。
見た目は派手だが、彼の真骨頂である儀式系魔法を利用したものとは少し違う。そもそもここは相手のフィールドであるため、大地などに自分の魔力を格納して――といったやり方は、魔力を仕込むのが敵に筒抜けだろうし、下手すると奪われるため使えない。
無論、それに対する代替策はしっかり立てているが。
アルト達はここで一度引き下がった。作戦は成功……元々訓練でやっていた連携だ。最初はアルト達三人だけで対応し、次に同じだと見せかけてセルガの魔法を加える。
これで全員一丸となって攻めるつもりなのだと、ロスタルドは理解したはず……先ほどまで余裕はあったが、今度はどうか――
「……アンヴェレート、貴様は動かないのか?」
白い火柱が途切れ始めた段階で、ロスタルドが声を発する。
やがて白がなくなり、健在な姿を現した時、アンヴェレートは応じた。
「あなたの苦戦を見ていると、私の出番はあるのかしら?」
「その口ぶりからすると、よほど人間達を信頼しているようだな」
吐き捨てるようにロスタルドは述べる。先ほどよりも、明らかに警戒の度合いが上がっているな。
となれば……俺とソフィアはなおも準備を続ける。まだ時間が掛かるな。ひとまず訓練通りの時間で収束できれば――
「焦らない」
小声でアンヴェレートが告げる。俺はそこで一度息を整え、小さく頷いた。
「いいだろう、少しはやるようだ。そこは認めよう」
ロスタルドが語る。同時に彼の背後に、漆黒が。
「人間として、どうやら私を食い止める……いや、その気概は滅ぼす勢いか。だがそれでも、届かないぞ」
闇が膨れあがる。広範囲攻撃ってことだが、そこで動いたのは――ロミルダ。
彼女は突如両手を左右に広げ、魔力を解き放った。
刹那、紫色の光が彼女を中心に生じ、それが闇と対するように膨れあがって大波となる。濁流のごとくロスタルドへ殺到し、アルト達をすり抜け到達しようとする。
「面白い力だ」
だがロスタルドは余裕。漆黒と紫が正面から衝突し――相殺する。
漆黒は一気に力を失い、また紫も効力がなくなる。とはいえ相手の攻撃をきちんと防いだ。十分な成果だ。
「防御はアンヴェレートかと思っていたが、二段構えか」
ロミルダ自身は遊撃の立場だが……攻撃よりもロスタルドの動きに合わせ魔法を使うような形が多いだろう。訓練でもそうだったし、今回のように相手の攻撃に対し相殺する魔法を構築……アンヴェレートも同じように準備しているが、それだけでは心許ない。だからこその、ロミルダ。
アルトが走る。三度仕掛けようとしたが、ロスタルドは全身から魔力を発し、受ける構え。
彼はそれでも構わず大剣を薙ぐ。するとロスタルドは、防御もせず突っ込んでくる。
直後、アルトの剣がロスタルドの体に当たる。衝撃波が生じ、ロスタルドの動きを鈍らせる――が、それだけだった。
アルトの目の前にはロスタルド。衝撃すらも殺し、まずは彼に狙いを定め、
「――待ってたぜ」
クオトだった。いつのまにか彼は、ロスタルドの背後に回っていた。
相手はそれに気付いたと思う。けれど当初の予定通り狙いはアルトのまま。
このままではクオトが仕掛けてもアルトに拳が届く――が、これもまた想定通り。
クオトの斬撃が、ロスタルドの背に叩き込まれる。直後、
「ぐっ……!?」
うめき声。効いている、そう思わせるに十分な反応だった。
その痛みが、一時ロスタルドの動きを鈍らせる。拳も攻撃が中断し、届く前にアルトは後退に成功する。
クオトもその時点で既に堕天使の間合いから脱している。キャルンやディーチェは……演習なら再度同時攻撃を仕掛けていたが、深追いはしなかった。ダメージはあったにしろ、それは微々たるもの、という認識をしているに違いない。
ロスタルドは首を一瞬だけ背後に向けたが、倒すべき相手がいないことを確認して即座に一歩引き下がった。
「……思ったよりも、鋭い一撃だったな」
「どうも」
クオトが言う。彼の顔には笑みが。
――目の前の堕天使にも通用する武具、となると天使側もそう多くない。加えて人間にも扱える物とくれば、その数はひどく少ない。
しかし、その中で一つ……堕天使のように瘴気に反応して威力が高まる剣が存在していた。これならロスタルドにも傷を負わせられる――その考えは、正解だったようだ。
もっとも、クオトが注ぐ魔力と組み合わせても勝負を決するダメージにならないことはわかっていた。それでもエイナ達はクオトに剣を持たせた。その理由は、一気に間合いを詰めることができるその能力。時にトリッキーな動きをする彼なら、意表を突いて先ほどしてみせたように奇襲を仕掛けることだって可能だから。
先ほどの攻防により、連携だけでなく単独でダメージを与えられる存在がいると理解した……しかもこちらはまだエイナとイグノスが動いていない。まだ手は残されている。
そこでロスタルドは沈黙した。ことごとく自分の狙いが読まれ、また攻撃を封じられている。その事実を考慮し、
「ずいぶん、アンヴェレートと協議したようだな」
――彼女が一番ロスタルドのことを知っている。序盤戦は彼女の読み通りに進行し、クオトの剣によってダメージもしっかり与えた。
「よっぽど私を恨んでいるか……まあ当然か」
「全ては、この時のために」
アンヴェレートが語る。そこにあった表情は、どう猛な笑み。
「まだまだあるわよ、あなたの裏をかく策は」
「……そうやってこちらを術中にはめようという魂胆か。なるほど、広範囲攻撃を封じ、接近戦だけに絞ればこうやって立ち回れる……それは理解できた」
――アンヴェレートは演習時に言っていた。ここまでくれば俺やソフィアではなく、エイナ達を標的にする。
つまりここからさらに辛くなる……踏ん張れるか。
「ならば、こちらも相応の礼を尽くそう」
そう宣言し――ロスタルドの周囲に、闇が膨れあがった。




