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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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最初の攻防

 戦闘開始直後から、俺とソフィアは並び立ち融合魔法の準備を開始する。余計なことはせず、できる限り勝負を早く終わらせる――


「ほう?」


 直後、ロスタルドは呟いたかと思うとアンヴェレートを見据えた。


「貴様の差し金か?」

「あら、どうしてそう思うの?」

「この魔力の流れ……確かお前は複数名を用いた魔力融合について研究していたはずだ」


 すると、アンヴェレートが笑う。


「私に対して辛辣な態度で興味がないという風なのに、ずいぶんとまあ憶えているのね」

「あの頃は、他者の研究についても興味を持っていたからな。それをただ単に記憶していたまでだ」


 ロスタルドが両腕に魔力をまとわせる。


「単純に魔法の威力が加算するわけではなさそうだ……相乗効果を狙ったか。止めねばならないな。攻めは得意ではないが」


 一歩前に出る。同時、それを阻むかのように――アルトが出た。


「させるか!」


 直後、彼が握る大剣からまばゆい白い光が。ロスタルドはそれに反応し、彼の剣戟を右手で受ける。


 それにより生じたのは、炸裂音と光が拡散しロスタルドへ降り注ぐ光景。彼が握っている剣は、魔力を注ぐと衝撃波を放つ能力が備わっている……天使の武具であるため普通の魔物ならこれで沈むくらいの威力らしいが、ロスタルドには通用しない。


「ここに来た以上死ぬ覚悟はできているのはわかった」


 ロスタルドは光を浴びながら言う。


「だがそれは、蛮勇だぞ」


 堕天使が手をかざそうとする。だがそれを阻んだのは、ディーチェ。


「ふっ!」


 わずかな息づかいと共に放たれた斬撃は、アルトを狙おうとした腕に当たった。先ほどのように衝撃波などは生じない。ただ、彼女の剣は魔力を振動させる効果が付与されている……それにより、ロスタルドの動きに揺らぎができた。


「それぞれの武具に特性があるのか」


 呟きながらロスタルドは構わず攻撃しようとするが、そこへ再度アルトの剣が叩き込まれた。衝撃波により、動きが揺らいだ腕が大きく押し戻される。

 本来なら、仲間達がロスタルドの攻撃を食い止めるのは難しい。しかしディーチェの剣が持つ振動により動きを鈍らせ、さらにアルトの衝撃波――二つが組み合わさったことで、攻撃を押し留めることができるようになった。


「単純な力では無理というわけか」


 それはロスタルドも認識したらしい……とはいえ彼が行ったのは、さらなる魔力の収束。


「人間、教えてやろう。堕天使の前では、小手先の手段など無意味だと」


 来る――が、この時点で俺はアンヴェレートに対しさすがと呟きたくなった。

 理由は、ここまで彼女の予想通りだからだ。


(例えばルオンさんとソフィアさんを狙おうとして、それをエイナさん達が阻むわけよね)


 鍛錬している時の、アンヴェレートの口上を思い出す。


(もし攻撃を跳ね返されたら……取り得る選択肢は二つ。一度仕切り直すかさらに強力な力で押し潰すか。ロスタルドは堕天使として相当な力があるし、なおかつプライドもある。十中八九さらなる力でエイナさん達を倒そうとするわ)


 そこで彼女が笑ったことも思い出された。


(まあそれでも油断はしているでしょう。そこが大きなチャンスよ……彼に一太刀浴びせるのには)


 現在ロスタルドはエイナ達など眼中にない。俺やソフィアに狙いを定めており、エイナ達はあくまで「ついで」という雰囲気。そこが、仲間達の狙い目だ。

 ダメージを与え「油断していると刺される」という認識を与えたなら……目標をエイナ達に切り替えるはず。ある意味そこからが本番だ。


 ただもし、それでもあえて俺とソフィアを執拗に狙う方針なら、厄介なことになるかもしれないが……。


 ロスタルドはさらなる魔力収束を行う。この部屋を覆うほどの魔法を行使しこちら全てにダメージを――という可能性もあったが、手はずではアンヴェレートがレスベイルと共に対応する予定だ。彼女によると拡散した魔力を束ね、逆利用する魔法らしい。


 だがロスタルドはそれを読んでいるらしく、そんな魔法を使う素振りは見せない。あくまで直接攻撃――この場合アンヴェレートは反撃できない。なおかつ彼女は見た目上俺とソフィアを守る形をとっており、動けない。


 現状、ロスタルドを押さえることができるのはエイナ達だけ……先陣を切ったのは、アルト。


「おおおおっ!」


 雄叫びと共に振り下ろされた大剣。それがロスタルドの拳と正面衝突し――衝撃波が飛び散る。

 アルトもロスタルドの魔力を大剣越しに受けた形だが……その衝撃は、彼が持つ防具が吸収してくれたようだ。身体強化の武具などの影響もあって、踏みとどまる。


 どうやらロスタルドはそれについては少し驚いたらしく……拳が止まった。

 そこへ、横手からディーチェとキャルンが襲い掛かる――!


 両者は声を上げながら突っ込む。まずキャルンが肉薄し短剣を振りかざす。それもまた天使からもらった武具――切れ味が相当なことに加え、羽のように軽い短剣。

 キャルンの短剣は、それこそ凄まじい速度で振りかざされる。以前と比べ倍以上の速度で――短剣にも身体強化の能力が備わっていたはず。それにより、一時ロスタルドが呻くほどの応酬となった。


 そしてディーチェもまた――ラッシュを加える。とはいえ以前魔物の巣で見せたような炎を伴う剣戟ではない。彼女の剣はその技を高める効果があったはずだが、まだそれを示すことはない。


「ちっ……!」


 舌打ち。ロスタルドは思わぬ妨害に苛立っている。

 間違いなくアルト達の攻撃は通用している。さらに言えばまだエイナやクオトは動いていないし、ロスタルドとしては面倒だと感じたことだろう。


 そしてキャルンとディーチェがまったく同じタイミングでフィニッシュを決める。それによりわずかに身じろぎしたロスタルドに対し、アルトがさらに押し込めるべく大剣を振りかぶる。


「食らえ!」


 一言。キャルン達の攻撃により動きが大いに鈍ったロスタルドは、その剣戟をまともに受ける。

 防御はおそらくしていたはずだが……結果堕天使は後退。その場で佇み、アルト達を値踏みするように一瞥した。


「……そうか、少なくとも私を押し留めるくらいの役目は担えるか」


 ロスタルドは語る……が、その口上からまだアルト達をどこか侮っている。


「後方にいる主役達は後陣に控え、まずは取り巻きが相手をする。準備が整うまで、時間稼ぎをするわけだ」


 手は読まれている……が、これは想定内。


「少なくとも、今の攻防で十二分に力を持っていることはわかった。少なからず私を押し留めることができるくらいには」

「どうかな? 案外俺達だけでやれるかもしれないぜ?」


 アルトが告げる。挑発だが、ロスタルドは乗らない。


「まだ時間はある。ゆっくりと攻めるとしよう」


 ――これは好都合だ。


 現在、俺とソフィアは順調に魔力収束を行っている。時間は訓練通りであり、このままいけばアルト達が食い止めてくれる時間内には収まる。

 もっとも、本気になったロスタルドにどこまで対抗できるのかわからない……が、堕天使はまだ余裕があるとして、腰を据えてやるらしい。


 ロスタルド的に、自ら退路を断っていることもあるため慎重になっているのだろう……そう結論づけた矢先、ロスタルドの拳に再度漆黒がまとう。


「さて、人間達よ。もう少し楽しませてくれよ」


 そう告げ、戦いが再開した。


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