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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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最大の敵

「よし、全員突入準備」


 デヴァルスの指示により俺達は動き出す。先頭はアンヴェレート。その一歩後方に俺がいて、その後ろに仲間達。俺の使い魔であるレスベイルは最後尾。これはアンヴェレートの指示だ。


「リリト、報告を随時受け取っているな? 問題ないと判断した時点で俺に言え」

「はい……ひとまず入口周辺は制圧したとのこと」


 現時点で天使達だけ動いているが、今のところ問題なしか。


「天魔とも交戦しているようですが、撃破できているようです」

「ここまではいいな……ネル、手はず通りに頼むぞ」

「はい」


 指示を受けネルは頷く――そして、


「デヴァルス様、いけるとのことです」

「よし、ならルオンさん」


 俺達へデヴァルスは告げる。


「頼む……ロスタルドを」

「ああ」


 返事と同時、アンヴェレートがまず魔法陣の上へ。直後、その体が光に包まれ、姿が消える。

 次いで俺とその後方にいる仲間達が動き出し、魔法陣の上へ。一瞬浮遊感に包まれ――気がつけば宮殿前の草原ではなく、黒を基調とした城の中にいた。


「ここが、ロスタルドの……」

「行くわよ!」


 アンヴェレートが叫ぶ。同時、俺は周囲を見回す。おそらくここはエントランスであり、真正面にはいくつもの通路が見える。

 なおかつ天使の姿も何人か……すると天使の一人がこちらに首を向け、


「ルオン様、アンヴェレート様ですね? 事情は把握しております。正しい通路はこちらです」


 そう言って兵士は手で一本の通路を示す。俺達はそこへ向かって突き進み、廊下へ。


 右手は壁だが、左には柱が立ち並びその隙間から外が見える構造になっている。視線の先にあったのは広大な山脈――太陽の日に照らされたそれらの自然風景は、一時ここが敵の本拠だと忘れさせるほどの迫力があった。

 あと風景を見る限り自分達がいる場所よりも高い山がない。今いるここが最高峰ってことか。ここはデヴァルスの情報通り?


「天魔は天使さん達がずいぶん倒してくれたようね」


 ふいにアンヴェレートが呟く。周囲に敵はいないが……遠くから爆音が聞こえてくるので戦っているのは間違いない。

 ひとまず堕天化対策については機能している様子。第一関門はクリア……いや、待て。


「誘い込んで天使達を一斉に堕天化させるなんて可能性もゼロじゃないか?」

「あり得るけど、それならエントランスに踏み込んだ時点でやってるでしょう。その方が戦力も減らないし、上手くいけば転移魔法陣を逆走して天界へ攻め込めるし」


 ああ、確かにそうだな。


「現時点では順調、といったところかしら」


 俺はアンヴェレートの横顔を窺う。笑みを見せてはいるのだが、これまで見てきたものと比べずいぶんと硬質。

 敵の本拠である以上、当然という解釈もできるが、他の仲間達とは少し違うような――笑みで取り繕っているような印象を受ける。


 復讐相手との決着がつく正念場である以上、やはり体に力が入っているか……そんな風に解釈した矢先、廊下を抜け広い空間に出た。

 そこで天使達が天魔と交戦している。ただ数で優位な天使が天魔を押し切っており、被害もほとんどなく対処できている。


「……ふむ、妙ですね」


 ソフィアがここで呟いた。


「一見、予想外の戦力により敵側が対処できていない、と解釈するのが妥当でしょうけれど……」

「上手くいきすぎてる感はあるな」


 俺が応じる。仲間達もそれで気を引き締め直したか表情が変わる。


「アンヴェレート、どう思う?」

「そうね……ルオンさんが先ほど言ったように天使達を堕天化させるために奥へ誘い込む場合、一箇所に固まっていない天使を全員堕天化させるには、それこそこの拠点全体を覆うほどの魔法がなければ厳しい。けど、私からはそんな魔法が仕込まれているようには思えないわね」

『我も同意だ』


 ガルクの声。いつものように右肩に姿を現した。


『我の目からは、天使達に押されている……これについては演出のようにも見えるが、かといって明確な罠があるようにも思えん』

「うーん、ロスタルドにはまだ何かあるってことか?」


 これ以上ややこしくするなってツッコミを入れたいくらいなんだが……。


『可能性は、そうだな……ロスタルド自身天魔については戦力と見なしておらず、天使を自分のところまで誘い込むために利用するなど、意図があるのかもしれん』

「堕天化させるために?」

『そうかもしれないし、そうではないかもしれん』


 真意については訊くことはできないし、こればかりは仕方がないか。


「……まあいい。順調に進んでいるなら、先へ行こう。どういう状況にせよ俺達はロスタルドがいる場所――そこをひたすら目指す」

『うむ』

「ま、そういうことね」


 アンヴェレートは一度肩をすくめ、


「とはいえ、この空間内にも通路がいくつもある……けど」


 ニヤリとなった。正解の道がわかったらしい。


「こっちよ」


 ある程度奥まで到達し、ロスタルドの気配がわかったみたいだな。俺は彼女の先導により進んでいく。天魔と交戦しようか一瞬考えたが、天使達は「先へ」告げ俺達を戦わせることはなかった。

 どういう説明をしたかわからないが、デヴァルスはきちんと俺達のことについて話を通している……堕天使アンヴェレートがいるので思うところはあるかもしれないが、それを表に出さず任務を遂行している。


 ならば、俺達はそれに報いるまで――考える間に、重厚な黒い鉄扉が目の前に現れた。


「奥にいる存在というのは、どうしてもこういう演出をしたがるものなのね」


 アンヴェレートが呟く。たぶんこの扉の奥にロスタルドがいて、その部屋は玉座の間とかそんな感じなんだろう。


「ここまで何の障害もなく来れたのは運がいいわね……全員、覚悟はいいかしら?」


 彼女の問い掛けに一同頷く。それに笑み――やはりどこか硬い――を見せ、彼女は扉に触れた。

 途端、ゆっくりと開く。重々しい音が通路に響き、奥の部屋が姿を現す。


「ひとまず、予想通りだな」


 ロスタルドの呟き。部屋は一番奥に玉座らしき場所があるので、やはりそういう部屋らしい。


「天使ではなく、アンヴェレート……お前を始めとした人間を切り札とする」

「予想していながら、あえてこちらを進ませたのには理由があるのかしら?」

「配下を増やすなど戦力増強するよりも、私自身がさらに強くなった方がいいと判断したまでだ。お前達さえどうにかすれば、目論見が達成できそうだからな」


 ――なるほど、俺達との戦いに備えることに注力したわけか。


「あなたにとって人間とはさして障害になるような存在ではない……そう思ってもおかしくないけれど」

「冗談だろう。前の戦いであれだけの力を見せられ、警戒しない者はいない」


 ロスタルドはそう応じると、視線を俺へ。


「前回の勝負の続きといこう。神に挑む者……どちらのやり方が正しいか、今ここで決めようじゃないか」

「ああ、望むところだ」


 広間の中へ。全員が入り終えると、扉がゆっくりと閉まった。


「私の意思か、私の魔力が途切れない限り扉は開かない。最後までやり合おう」

『――この部屋全体に、魔力障壁が取り巻いているな』


 ガルクの声が頭に響く。


『おそらく隔離障壁……自分の退路を塞いでいる形だが、我らも逃げることができん』

「ここで、絶対に決着をつけるという意思表示か」


 ロスタルドは――そうまでして俺達を潰さなければ、まずいと断じた。

 つまり、彼は俺達を最大の敵と見なしたわけだ。


「人間、そしてアンヴェレート」


 ロスタルドは告げ、両手に魔力を集める。


「どちらが上か――勝負を始めよう」


 力を解放。また同時に、仲間達も動き出した。


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