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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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決戦の朝

 そうして俺達は、決戦の日を迎えた――準備を済ませ、全員顔を合わせて朝食をとる。

 誰もが無言ではあったが、恐怖に怯えている様子の者は一人もいない。誰もが自分の役目を全うし、勝利する……そういう決意があった。


 俺は改めて仲間の様子を観察する――まずソフィア。俺と共に作戦の要に当たるわけだが、いつもの様子で朝食をとっている。その顔は今日戦いに出るという風ではなく、肩の力が抜けているのもわかった。

 次にエイナ。こちらはやや対称的で少しばかり力が入っているように見られる。とはいえ格式ばった態度を示す彼女としては許容範囲だろうか。


 リチャルは……思わぬ大役を任されることになったようだが、彼自身は特に緊張した様子はない。それと彼については本拠に飛び込むようなことはしない。ロスタルドの時間稼ぎ役として支援する以外にも、デヴァルスに仕事を頼まれたらしい。


 他は、クオト。仲間の中で一番食うのが早くなおかつおかわりまでするという……というかおかわり二回目だ。どれだけ食うのか。

 彼が一番喋るしいつも誰かに話し掛けるのだが、さすがに今日はやらない。仲間の様子を見て、頭の中で作戦を思い返しているのかもしれない。


 彼とは逆に一番食の進みが遅いのがディーチェ。元々遅いのだが、今日はそれに輪を掛けて、ゆっくり噛んで食べている。さすがに最後の食事だとか思ってはいないだろうけど……彼女については緊張しているのかも。


 他には、目立つのがアルトか。クオトと並んでよく周囲に話し掛ける彼だが、今日は落ち着いている。話によると今回の作戦、彼がかなり前に出ることになる――ロスタルドの状況によって変更するみたいだが、場合によっては彼が戦いの要だ。色々思うところがあるのだろう。


 さらに、その隣で黙々と食事を進めるイグノスは、穏やかな表情。今回の作戦、後方支援という観点で見ると彼以外いない。魔法を使うという意味ではロミルダもセルガも該当するが、両者とも攻撃特化。セルガは一応余裕があれば支援に回るとは言っていたが……アンヴェレートとの演習においてもそういうケースは少なかったようだし、厳しいだろう。


 その一方でやや落ち着きがないのはキャルン。彼女自身今回の鍛錬を通して強くなっているけれど、彼女としては「私が参戦していいのか」という雰囲気。もっとも臆している風はなく、やる気であるのは間違いないようだけど。


 そしてセルガは――彼はこれまでと同じようなペースで食事をとり、今まさに食べ終えた。やるべきことはやりきったという表情であり、そこに不安は一切ない。


 この食事の席では、昨日と変わらぬ調子で戦場に向かおうとしている雰囲気が強い……が、その中でとりわけ今日の戦いについて意識を向けているとわかるのが、ロミルダ。食べ進めるペースについてはいつも通りだが、その視線というか気配が、昨日までと明らかに違う。

 アンヴェレートによると、ロミルダについては最後まで遊撃という形で戦うことにしたらしい。通常は同じ後方で戦うセルガやアンヴェレートが指示を送る予定だが、戦いが進めば彼女自身の判断で対応することが多くなるはず。


 ロスタルドの動き方によって、どうするかはある程度レクチャーされているみたいだけど……問題は、そうした助言以外の行動になった時だ。アンヴェレートは「大丈夫」と言っていたし、ソフィアも「信頼していい」と語っていたが……いや、二人がそう言うのだ。俺も同じように信じよう。

 なお、この場にデヴァルスやアンヴェレートはいない。準備を進めているらしく、食堂の外からは物音も聞こえる。


 やがて、全員が食べ終える。少しの間沈黙が流れ、


「……行くか」


 俺が呟くと、全員が立ち上がった。


 全員が一度部屋に戻り改めて支度を整え、外へ。そこで俺達と同じように準備を済ませたデヴァルスが立っていた。


「戦意は……問題無さそうだな」

「ああ、いつでもやれる」


 こちらの言葉に、デヴァルスは「心強い」と応じる。


「他の天使達は現地へ向かう手はずを整えた。まず天使が先行し本拠に仕掛ける。一歩遅れてルオンさん達が出てくれ」

「相手に俺達のことを勘づかれている可能性は?」

「天界から出ないまま準備を進めたから、今日襲撃があるって確信はないだろ。もっとも一度ルオンさん達と交戦し、居所をつかんでいるって前提で動いているとは思うから、まあ備えはしているはず」


 作戦としては、俺達は真っ直ぐ本拠地で待ち構えるロスタルドの所へ行く。基本的に遭遇する敵の迎撃は先行する天使や俺、アンヴェレートが担当し、できる限り仲間の負担を少なくする予定なのだが……果たしてどこまで上手くいくか。


「ところで、アンヴェレートは?」

「ここにいるわよ」


 デヴァルスへの質問に対し、後方から声。振り向けば瘴気を消した一般人モードの彼女が。


「こちらも準備できているわ。ルオンさん、悪いけどレスベイルを呼んでもらえる?」

「最初から出しておくのか?」

「ええ。突入直後から頑張らないといけないかもしれないから」


 それもそうだな……俺はレスベイルを呼び出す。アンヴェレートの指示に従うよう命令を送って、


「頼むぞ」

「ええ、任せて」


 にこやかに語る――そこで俺はなんとなく彼女が張り詰めているような気がした。まるで、何かを決意しているような。


「全員、準備は整ったな」


 けれどそれについてはデヴァルスが口を開いたため尋ねることはできなかった。


「天使達が動き出した後、こちらも応じる。俺は天界に残るような形となるが、魔法で念話ができるようにはしておく故、何かあったらすぐに報告を」


 全員頷く。いよいよだ。


 ここに至り全員が緊張し始めた様子……だがやはり恐怖に顔が染まっているわけではない。

 デヴァルスが近づいてくるネルと話を始める。段取り自体は問題なく進んでいるようなので、今のところは順調。もしそれを逸脱した時――例えば天使達が堕天化し、まったく動員できないとかになったら――


「そう心配する必要はないと思うわよ」


 ふいにアンヴェレートが告げる。


「色々懸念するのも無理らしからぬことだけどね」

「……顔に出ていたか?」

「ええ。天使達だって百戦錬磨の存在だからね。堕天使に後れを取り続けるわけにはいかないでしょうし、頑張るわよ」


 ――もしかすると、一番眉間に皺を寄せていたのは俺かもしれない。


 ここでソフィアが俺の顔を覗く。その顔は「大丈夫です」と言っているようであり……俺は笑い返した。


「よし、準備が完了した」


 デヴァルスの呟き。そこで全員が剣などを抜き、いつでも突入できる体勢に入る。

 直後、俺達の真正面、地面に光が宿る――転移の魔法陣か。


「天使達がまず本拠近くに転移し、ロスタルドのすみかへ踏み込む。そこからこの転移魔法陣に接続し、直通でルオンさん達は進軍してもらう」


 解説と共に、デヴァルスは手で魔法陣を指し示す。


「現時点で天使達が動き出している。もし堕天化云々が問題になるなら、現時点でおそらくこっちにも情報が回ってくるが、連絡なしだから突入までは問題なくできたんだろう」

「――デヴァルス様、報告が入りました」


 ここでデヴァルスのもう一人の側近、リリトが口を開いた。


「堕天化の力を行使する天魔を発見。しかし問題なく迎撃したとのこと」

「おし、ひとまず堕天化についてはクリアだな」

「そして転移魔法陣を設置したと」


 その直後、魔法陣が一際輝いた……それはまさしく、突入の準備が整った合図であった。


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