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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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彼の役割

 一度融合魔法を試した結果、課題も見え始めた。


「ロスタルド相手にこれを使うのはいいけど、こんなの近距離で炸裂させたら仲間が巻き込まれるぞ」

「そこは私と鎧天使がカバーすればいいでしょ」


 と、アンヴェレートの発言。鎧天使とはレスベイルのこと。


「ロスタルドを拘束する際、魔力に流れを作りましょう。さすがにこんな出力の魔法を受け止めることはできないから、流れを作ってロスタルドにだけ当たるように上手く仕向ける」

「できるのか?」

「まあね。ただ、拘束する時と同様レスベイルを借りることになるけれど」

「ああ、それは構わないよ」


 融合魔法に集中する場合、そっちまで気が回らないからな。


「よし、方針は決まったな」


 デヴァルスが手をパンと叩く。


「先ほどルオンさん達がやった融合魔法……その時間を考慮してエイナさん達は戦術を組み立てる」

「もちろん俺達も短縮するよう努力はするぞ」

「それはもちろん。ただし敵の本拠かつ堕天使と決戦の最中に準備をするんだ。何が起こるかわからないのを考慮に入れると、差し引きゼロくらいで考えるのが丁度いい」


 うーん、わからないでもないけど……しかし相当長かったぞ。耐えられるのか?


「というわけでエイナさん達、正念場だぞ」

「無論だ」


 エイナが応じる。全員、作戦を遂行させようという気概に満ちている。


「加え、本拠に入り込んだ後はかなり厳しい戦いになるだろう……堕天化を防ぐ対策も準備中であり、メカニズムについては解明でき始めたため、こちらはおそらく問題ない。とはいえロスタルドとの直接対決についてはさすがに厳しいからな……ここはこの場にいる面々に頼むことになる」

「わかってる」


 俺の言葉にデヴァルスは再度「頼む」と告げ、


「昼に聞いたが、エイナさん達にこちら側で武具を提供させてもらう。ロスタルド討伐……成功させようじゃないか」


 その言葉で、ひとまずこの場は締めくくった。






 さて、新たな課題も見つけたことで俺とソフィアの修行も気合いが入る。やっていることは地味極まりないけど……ただ翌日以降、改善の兆しが出てきたのも事実。


「慣れてきたのかもしれませんね」


 ソフィアが言う。確かにそうかもしれない。


 また、修行の最中デヴァルスから逐一報告が入る。現在ロスタルドと、アランについても目立った動きはなしとのこと。アランは……居所についてはどうも転々としているらしい。


「町の中で潜伏していたりもするからな。こっちもそうなると表立って動くことが難しい」


 彼はそういう動き方もできるが……例えば魔物を狩って力を得ている、といったこともない。ただ彼は俺と同様、物語としてこの世界のことを知っている人物。おそらく次の手だって考えているはずだ。注意はしなければ。

 ロスタルドについても、本拠地がどこかまだ確定できていないが、少なくとも表に出て活動しているわけではないらしい。本拠にこもり迎え撃つ準備を進めている……それが筋か。


「一番の懸念は堕天化だが……ロスタルドは天魔に施した以上の手法で天使達をさらに堕天化させるんじゃないか?」


 そういう疑問も抱いたが、デヴァルスはニヤリとなった。


「堕天化する原理がわかり始めたからな。魔力に干渉しているのは間違いないため、逆に言えばそれさえ防げば問題ないってことだ」

「なるほど……けれどロスタルド当人は――」

「原理がわかっているため大丈夫だとは思うが……それでもやはりロスタルド本人と戦う場合は危険だ。普通の天使ではそもそも敵わないし、力で押し込んで無理矢理堕天化、なんてこともあり得る」

「デヴァルスさんも顔は出すなよ」

「無論だ。俺は今回後方で指揮を執らせてもらう」


 ま、それが無難だろう。


 そういうわけで着々と決戦準備は進んでいる……エイナ達にも新たな武具が渡され、それを用いてアンヴェレートと訓練中。修行が一段落したところで覗いてみると、かなりの時間彼女を食い止められるようになっていた。


 ポイントは、エイナ達がひたすら攻め続けること……力の差があろうともアンヴェレートにとっては多勢に無勢。攻勢に出たエイナ達に対し、どうしても防戦一方となる。

 しかし、隙を見つけた瞬間彼女も的確に反撃を行う。


「はい、これで終了よ」


 アンヴェレートの雷撃がクオトへ突き刺さる。彼の動きが一瞬緩んだ時……それは隙と呼ぶにはずいぶんと短い時間だったが、それでもアンヴェレートにとっては反撃できるだけの余裕があったということ。


「まず食い止める際の前提として、やられないこと。一人の動きが鈍れば他もかなりしんどくなるわよ」


 一人分の攻撃が減ったため、エイナ達は徐々に守勢に回っていく。こうなると態勢を維持するのも難しく、エイナ達は一人ずつ仕留められていく。

 時間は……俺達が魔力収束を果たした時間に対し、およそ半分くらいか。


「最初の頃よりだいぶよくなっているわね。たった一日でこれだけ成果が出ているのだから、今のところ順調よ」


 全員が座り込む中でアンヴェレートは解説する。


「とはいえ、一度誰かが負傷すれば状況が悪化するのは困りものねえ」

「一人欠けても問題ないように動けと?」


 エイナの質問に、アンヴェレートは小首を傾げ、


「うーん、こういう場合選択肢はいくつかあるのだけれど……まず負傷した場合でも問題なく動けるようにするとか」

「動けるようにする?」

「例えば痛みを感じないようにする。クオトさん、雷撃で足にダメージを与えたけど、痛みで動きが鈍ったのよね?」

「そうだな……この痛みを消せばいいってことか?」

「まあそれも一時しのぎだけどね。あとは、そうねえ。例えば魔法か何かで傷を癒やすにしても、時間が必要よね?」

「時間稼ぎを目的としているわけだが、その中でさらに時間稼ぎが必要になるのか」


 俺のコメント。うん、字面にするとややこしい。


「エイナ、負傷した場合など戦況を立て直すための仕込みをしておくべきってことじゃないか?」

「治療でどうにかなる怪我であればいいが」

「そこは心配しても仕方がないし、エイナさん達が頑張らないといけない点ね。一人でも欠けたら、稼げる時間が大幅に短くなる……それはおそらく融合魔法失敗を意味するからね」


 茨の道だな……こればかりはエイナ達に頼るしかないし、今後に期待するしかない。


「相手の意表をつき、多少なりとも時間を稼げる手法……と、そうだ」


 アンヴェレートは手をポンと叩く。


「ルオンさん、リチャルさんを呼んでもらえない?」

「……リチャルの力を借りるのか?」

「ええ、それらしい方法を思いついた」


 彼の魔物を利用するってことか? 疑問はあったがアンヴェレートはそれ以上語らず「早く」と呼んでくるよう催促する。


「わかったよ、ちょっと待っていてくれ」


 宮殿内へ入り、リチャルの部屋へ行き扉をノック。彼が出てくるとアンヴェレートが呼んでいる旨を伝え、外へ。


「リチャルさん、今現在即座に魔物を作ることはできる?」

「多少は……とはいえ強い魔物は無理だぞ」

「それは問題ないわ。別にロスタルドに傷を負わせようなんて考えてはいないし」


 どういうことをするのか気になったが……やがてアンヴェレートがリチャルと話し合う。その間エイナ達は待機。加え俺達にも一瞥はするが特に言及はなかった。


「では、そういうことで」


 短い会話の後、アンヴェレートは言う。するとリチャルは頷き、


「大役だな……ま、存分にやらせてもらうさ」


 笑みを浮かべる。ここまであまり活躍のなかった彼だが、この戦いで重要な役割を与えられることとなった。


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