切り札の魔法
俺とソフィアは並び立ち、融合魔法の準備を始める。まずは魔力収束と詠唱から。
前方に存在する魔力障壁は、数えたら全部で二十層……さすがにこれを突破するのは無理だろう。
「どこまで破壊できるか楽しみだな」
にこやかに語るデヴァルス……本当に楽しそうだな。というか天界の長である以上、こんな準備を嬉々としてやるのもずいぶん変な話である。
「それじゃあルオンさん、ソフィアさん、始めてくれ」
言われ、俺とソフィアは魔力を融合させる手順へ……だが、
「……重い」
そういう感想を抱いた。どういう表現がいいのか少し頭を悩ませた後、そういう言葉が漏れた。
最上級魔法であるためか、魔力が流れを作り融合させるまでの手順自体、時間が掛かる。というか、
「これ、いつ終わるのでしょうね」
ソフィアも感想を述べる。うん、本当に時間が掛かる。まさしく牛の歩みである。
「この準備時間が、そのままロスタルド戦に際し食い止めるに必要な時間になるわね」
後方からアンヴェレートが告げた。
「誰か計測してる?」
「私が」
デヴァルスの隣にいるネルが手を上げた。次いでアンヴェレートが、
「この時間を基に、鍛錬の内容を考えるべきかしら」
「しかし、場所などによって条件も変わるだろう」
と、これはエイナの発言だ。
「敵の本拠地かつ、ルオン殿やソフィア様の体調や状況……それらを勘案し、余裕を持たせた方がいい」
「ええ、そうね。となればエイナさん達も相当気合いを入れないといけない……というのは、わかるわね?」
「ああ」
確認の質問にエイナは答える。背後なので見えてはいないけど、他の仲間達は頷いていることだろう。
「ルオンさん、あとどのくらい?」
「わからないけど……」
返答した直後、徐々に魔力が膨れあがっていく。
流れができはじめ、外へ放出する準備が整っていく……が、この段階まで進むのにそれなりの時間を消費している。
結論から言うと、現段階で『ラグナレク』の融合魔法を行使できるのは二十分前後はかかるのではなかろうか。
その旨をアンヴェレートに伝えると、彼女は「ふむ」と呟いた。
「やっぱり時間が必要ね……しかも融合させるのに魔法の維持が必要だし、戦闘している間にとなると、集中力だって今よりも散漫になると思うし」
長く見積もって三十分くらいか? 儀式系の魔法を使う場合はこのくらいの時間必要なことはザラにあるけど、目の前で堕天使が戦っている状況を勘案すると、致命的な遅さだ。
「まあ最悪そのくらいの時間戦えるように準備をしないといけないのだけれど」
「そちらはどうなのだ?」
エイナが唐突にアンヴェレートへ問い掛ける。
「魔法を当てるために、堕天使を拘束しなければならないはず」
「それは私とルオンさんの大天使様が連携するわけだけど……あ、そうね。ルオンさん、天使を呼び出してもらえる? その状態で天使がきちんと動けるかどうかも試したいわ」
「わかった。レスベイル」
呼び出す。そもそも魔力自体は分離しているので、融合魔法を使う際は問題にならない。
「指示を与えたら動くようにしておく」
「わかったわ、ありがとう……ふむ、とりあえず大天使様を呼んでも魔法については問題ないわね」
アンヴェレートはコメント――しかし、延々魔法を使うために準備をするというのは、相当神経を使う作業だ。
それはソフィアも同じようで、よくよく見れば首筋に汗が浮き出ている。
「ソフィア、大丈夫か?」
「大丈夫、です……」
維持に神経を使っているのか、返答についてもどこか上の空。
つまり、魔法を発動させるにはこうした集中し続けなければならないわけで……しかも先ほどアンヴェレートが言ったように、戦闘する最中に。
仲間が時間稼ぎするといっても、何時間も戦闘し続けられるわけではないだろう。融合魔法完成までの時間を短縮するにしても……一度収束に失敗すれば二度目はなさそうな気がする。
この辺りは慣れかもしれない……そんなことを考えながら準備を進め、やがて、
「……終わった、けど」
ようやく――ただ今まで試していた魔法とは異なり、手先から発するタイプではないので魔力の流れも少し変わっている。まあこれで威力が減ったりとかはたぶんないと思うけど。
「どうぞ」
デヴァルスが手で示す。俺は一度ソフィアと視線を重ね――頷いたので、魔法を、
「行くぞ――!!」
解き放つ。直後、ズアッ――と、総毛立つほどの魔力が漏れ、頭上の空間が歪み始めた。
そして現れる光の剣……サイズは変わっていない。だがその見た目は違う。俺の『ラグナレク』のように白銀を基調としているのだが、取り巻く魔力は青白いものが存在している。その刀身の腹部分にも青が混ざり合い、まさしく融合したのだと理解できた。
これは間違いなく、俺とソフィアが放つことができる最高の攻撃だろう……そう確信させられるだけの力がある。
「ソフィア、タイミングを合わせて射出するぞ」
「はい」
彼女の返事と共に、俺はカウントを刻み始める。十から始め、数字が少なくなっていくごとに体に緊張が生まれていく。
凄まじい魔力を湛えた一撃。これを解放すればどうなるのか――さすがに二十という数の障壁を突破できるとは思えないが、それでもさっきの記録は超えるだろう。
ひとまず、先ほど俺とソフィアが同時に撃った際の結果を超えればいいだろうか。仮に障壁全てを突破したら……その向こうは高い山がそびえ立っている。あそこまで届いて残った魔力で山を少し削るくらいだろうか。
「……三、二、一」
カウントが終わる。
「――撃て!」
魔力を解放。同時、白い光の塊が障壁へ向け、放たれる――!!
俺とソフィアは軌道が変わらないよう魔法を維持するだけで精一杯……刹那障壁に着弾。抵抗はほとんどなく、一つ目の障壁を易々と突き破った。
次いで二、三と続きそこで視界が真っ白になった。まるで太陽の光が降り注ぐかのようであり、全てが白に染まり、隣にいるソフィアですらほとんど見えなくなるほどの――
直後、轟音が響いた。さらにガラガラと何かが崩れる音がする。何事かと思った矢先、一際巨大な音と閃光が俺達を包んだ。
内心不安になりながら、魔法が終わっていく感覚を抱き……俺とソフィアは同時に腕を下ろす。
「大丈夫か?」
そこでデヴァルスが近づいてくる。まだ真正面に光があり全容は窺い知れない。
「ああ、なんとか……けど」
気付けばソフィアと同様首筋に汗。いや、腕とか足も力が入っていたのか汗が。
「えっと、結果は――」
「いやあ、予想以上だよ」
デヴァルスが言う……予想以上?
そこでようやく光が途切れ、
「……え?」
ソフィアが呆然となった。俺もまた目の前の光景を見て、絶句する。
まず、魔力障壁。二十という数の防御壁が全て破られていた。この時点で二人が別々に放つよりも威力が高いとわかる。
さらに、後方の山……そこに魔法が着弾したらしい。だからこそ先ほど崩れるような音がしたわけだが……えっと、
「山が、抉れてるぞ……」
「うん、そうだな」
言葉通り、山が見るも無残な姿に……これが、最上級融合魔法の力のようだった。
「まだ魔力に無駄があるから、さらに威力を高めれば山ごと吹っ飛ばせそうだな」
無茶苦茶な威力……こんな魔法をぶっ放していいのかという問題はあるけれど、少なくともロスタルドに対する切り札になることは間違いなかった。




