思わぬ効果
エイナ達の鍛錬はアンヴェレートに任せることにして、俺とソフィアは宮殿内でひたすら魔法訓練を行う。最上級魔法を行使する際は当然ながら外へ出るべきだが、現段階ではまだ下級魔法。ひとまず室内でも問題ないだろう。
で、融合自体はすんなりいくのだが、やはり時間が掛かる。
「慣れるまで結構大変だな」
「そうですね」
同意するソフィア。彼女としても色々やっているみたいだが、その成果は現在のところ現れていない。
一日目だからこんなものかもしれないが……俺もソフィアも力も技術もあるはずだが、それでもこうした技法を使いこなすには時間が掛かる……というより、アンヴェレートのこの技術が特殊であるという解釈をすべきか。
何度も下級魔法を行使し準備時間の短縮を頑張ってみるが……一向に早くならない。まあ始まったばかり焦っても仕方がないか。
「ルオン様、休憩しませんか?」
ふいにソフィアが問い掛ける。時計がないので具体的な時間はわからないが、少なくとも二時間くらいは経っていそうな雰囲気。
「ああ、そうだな」
「何かお飲み物でも」
「そろそろ昼食の時間だろうし、それまで待とう」
その場に座り込む。ソフィアもまた同じように座り……目が合った。
「まだ始めたばかりだけど、感触はどうだ?」
「難しい、ですね……可能性はありますけど、ロスタルドの発見が早ければ、間に合わないなんてこともあり得ます」
「だよな……」
融合というのはアンヴェレートから提案を受けた段階で結構いい案のような気はしたのだが、この調子だと普通に戦った方が早い気もしてくる。
「……ソフィア、現在下級の魔法で融合できるか試しているわけだけど、他の魔法については習得しているか?」
「青い槍の魔法ならば」
『ホーリーランス』だな。それなら、
「一度そっちの魔法を試してみないか?」
「構いませんよ。それで午前は終わりにしましょうか」
よし、最後に一仕事……というわけで『ホーリーショット』ではなく『ホーリーランス』で試すことに。
魔力収束を済ませ、同じ要領で融合を図る――のだが、さっきにも増して時間が掛かる。
「やっぱり威力なんかが上がると準備も時間が掛かるな」
「魔力が多いから時間が掛かるのでしょう」
なら、対策としては――頭の中で考える間に魔法を撃つ準備が整う。
「ソフィア、一度使ってみるぞ」
目標は、少し先にある壁。宮殿全体に魔法が掛けられて防御能力が高いことに加え、この訓練場周辺ではさらに強固。『ホーリーショット』では余裕で弾かれていたので、おそらく『ホーリーランス』であっても問題はないだろう。
さて、手順通りに事を進め、あとは発動という段階になって……違和感に気付く。
「なんだか、変じゃないか?」
「先ほど以上に魔力の流れが大きいように思えます」
ソフィアが言う――魔力を融合した場合、二つの川が交わり大河となるイメージなのだが、どうやらより強力な魔法を使う場合、その大河がさらに広大になるらしい。
つまり、融合できる魔力が多くなるって解釈でいいのか? これはつまり、
「魔法が強力であればあるほど、威力がより高まるってことか?」
「私達にとっては都合がいいですね」
確かに……と、気を取り直し魔法を放つ構え。
「行くぞ――」
合図と同時に放つ――その直後、
ズアッ、と一瞬体が総毛立つような感覚と共に、魔力が手先から一挙にあふれ出す。大河の流れに従い、ソフィアと結びついた魔力が一気に外へ――
「ルオン様!」
ソフィアが叫ぶ。このまま発動すべきかどうか悩んでいるのだろう。だが、
「このまま発動だ!」
どの程度の威力があるのか確かめなければ――刹那、視界が青く染まる。
それは単独で放つ『ホーリーランス』とは比べものにならないものだった。光の大きさも当然ながら、射出されるであろう光の槍も……その大きさは、まるで大砲。
いけ――そう心の中で呟くと同時、光の槍が収束し、壁に向かって放たれた。巨大な光の塊が一瞬で壁際まで到達し、
次の瞬間、宮殿を鳴動させる衝撃と轟音が真正面で炸裂した。
広い室内に反響音がこだまする。粉塵が舞い俺とソフィアはしばし呆然となる……中級魔法で、魔力の収束もそれほど高いわけではなかった。それにも関わらず、これだけの威力。驚愕するには十分すぎた。
「……予想以上ですね」
ソフィアが述べる。俺が頷くと、ソフィアはやや沈黙を置いて、
「しかし……やってしまいましたね」
「発動だと言ったのは俺だし、構わないよ。後で俺からデヴァルスには謝っておくよ」
煙が晴れてくる。訓練場の壁は一部分が大きく砕かれ、えぐれている。
例えば俺が単独で放った場合、壁に存在している魔力を抜いて壁を破壊するにしても、ここまでにはならないと確信できる。二人の魔法が合わさった結果、壁の防御能力を平然と消し飛ばし、目の前の惨状が起きた。
……強力な魔法になればなるほど威力が高まる。つまりそれは威力に比例してこの融合魔法の威力が上がるという話。これがわかったのは大きな収穫……なのだが、
「どうしましたか!?」
ネルが飛んできた。これはまあ、仕方がない。
「あー、すみません。魔法の練習をしていたら……」
と、説明を行っている間にデヴァルスも現れる。
「おお、ずいぶん派手にやったじゃないか」
「ああ、うん、まあ」
「神殿の建材はかなり魔力を打ち消すからな……室内で相当強力な魔法でも行使したのか?」
「いや、中級クラスの魔法なんだけど」
「……中級?」
こちらも簡単に解説。するとデヴァルスは口元に手を当て、
「ほう、それは興味深いな」
「予想以上の効果が出るかもしれないってことか?」
「だろうな。最上級に位置する魔法を組み合わせたらどうなるんだろうな?」
……正直、中級魔法でこれなのだ。仮に最上級魔法『ラグナレク』を使用したらどうなるのか……下手すると周囲の構造物とかも崩壊するのではなかろうか。
ともあれ、この融合魔法が相当なポテンシャルを秘めていることはわかった。ならばより技術を洗練し、ロスタルドとの戦いに使うことができれば――
「えっと、訓練場がこの有様だけど、どうする?」
「ひとまず外でやってもらうしかないな。ああ、外ではアンヴェレートがルオンさんの仲間とよろしくやってるぞ」
「……他の天使達にバレてないようしたのか?」
「もちろんだ。そこについては抜かりがないから心配するなよ」
デヴァルスは笑う。ま、天界の長のやることだ。心配するだけ無駄かもな。
「早速頑張っているから、様子を見に行ってもいいんじゃないか? あ、ただそろそろ昼食の時間だ。一区切りつけて全員で食おうじゃないか」
「わかった。ソフィア、行こうか」
「はい」
俺とソフィアはデヴァルス達にこの場を任せ、外へ向かう。
「間違いなく、切り札となりますね」
歩いているとソフィアが言及。俺は深々と頷いた。
相当な威力を出せるとしたら、ロスタルド以外にだって通用するかもしれない。もっと応用を利かせれば、神にだって通用するかも……さすがに期待しすぎだろうか?
ただこの技術が相当価値のあるものなのはわかったし、道は定まった。今まで以上に気合いを入れて鍛錬することにしよう。
改めて決意する間に外へ。宮殿の外――俺は魔力障壁が相当な範囲を包んでいるのを確認。デヴァルスの魔法だな。
そうした中で、アンヴェレートが……瘴気をまとわせ立っていた。




