融合の実践
俺とソフィアの魔力を融合させて強力な攻撃を生み出す……そんな思わぬ提案から一夜明け、それを言い出したアンヴェレートの指導の下、実践に入ることになった。ちなみに他の仲間は既に帰還し、情勢を聞いて別に修行を開始している。これにはロミルダも参加しており、彼女自身色々と思うところはあった様子。
「というわけで、始めましょう」
「なんか楽しそうだよな」
ソフィアと並び立つ俺は、向かい合って立っているアンヴェレートに告げる。なんというか、堕天使モードではない彼女は、気さくなお姉さんといった案配(といっても見た目的にやや幼さは残るけど)で、瘴気を内に抱えているようには感じられない。
「そう? 私の研究成果がこんな形で生きるとは予想もしていなかったから、こうして日の目を見ることになったのは嬉しいかも」
「……一応言うけど、まだ採用するか決まったわけじゃないぞ?」
「実際、ほとんど決定よ」
自信を覗かせアンヴェレートは言う。
「結論から言うと、魔力については問題ないわ。デヴァルスに急ピッチで作業しろと言った結果、一日でわかったわ」
「……ずいぶんとまあ、無茶をするな」
「戦いに関わることだから、そのくらい頑張ってもらわないとね」
どこかで泣いている天使とかいそうだな……。
「人間同士でも、私の技法が採用できるのは確定ね。あともう一つ面白いことがわかったわ」
「面白いこと?」
「検査の終わりに、あなた達二人の魔力が混ざり合うとどうなるかの検証もしたのよ。その結果、あなたの堕天使に対する攻撃能力……本来は減退するはずなのだけれど、混ざり合うことでそれが起きないことがわかったわ」
……朗報なのだが、どういう原理だ?
「さすがに一日で理論を完全に説明はできないけれど、どうやら二つ以上の魔力が混ざり合うと多少なりとも質が変わるようね。その結果、ルオンさんが持っている特性も変化すると」
「ってことは、これを極めれば十分ロスタルドに対抗できると」
「正解」
ならやるしかなさそうだな……他に案もないし。
「そういうわけで、本格的に始めるわよ」
「わかったよ……ものすごくウキウキしているのが気になるんだが」
笑みで応じるアンヴェレート。瘴気が消え失せているにしろ、なんだか怖いのは確か。
「さて、混ざり合うのは確定したから具体的な方法だけど、これも技術だから訓練が必要よ。その気になればかなり距離があっても同調とかできるようになるけど、そこまでいくには相当な時間が必要ね」
「……便利そうだけど、そこまで要求はしないよ。で、何をすれば?」
「手をつなぎなさい」
……魔力同士を組み合わせるのに肌接触が必要ってことかな。
「わかったよ、はい」
左手を動かして、隣にいるソフィアの右手を握る。ん、待て。
「あ、ソフィア。これだと剣とか持てなくなるな」
「戦闘の際どういう風にやるかは後に相談ということでよろしいのでは?」
「……手をつなぐ時点で剣云々とか会話をするのは、さすがと言うべきかしらね」
アンヴェレートがどことなく呆れたように呟く。よくよく考えてみるとあんまり手とか握ったことないなとか思ったりもしたのだが、正直今更って気もする。
ソフィアはどう感じているのかわからないけど……彼女は真剣な眼差し。うん、余計なことを考えるのはやめよう。
「ここからどうすれば?」
「魔力を魔法を出すみたいに少し収束して。それを肌が触れている手に集中させる。まだ放出とかはせず、体の内で維持してね」
言われたとおりにする。手をつないだまま静かに魔力収束を行い……それを左手に集める。
「二人ともきちんとできているわね。それじゃあ第二段階。それを外部に少しずつ流す……といっても、魔力を相手と繋がっている手に注ぐような感じで」
「それ、直接体の中には入らないよな?」
魔力というのは基本、肉体と同じく防衛機能みたいなものが働いている。例えば外部から魔力が押し寄せてきた場合、体の中にダメージがいかないようはね除ける特性がある。
ただしこれは基本的な特性で例外はいくらでもある。例えば瘴気。これは人の五感を想像するとわかりやすい。単なるにおいや嫌な音でも気分を害することがあるように、魔力に触れるだけでも何かしら変化が起きることがある。
また、魔法などの場合はこの魔力の基本的特性を無視するような効果が備わっているし、そもそも物理的に効果を及ぼすものに変化させているので、基本的特性についてはあまり気にされることもないのだが――
「ええ、そうね。相手に魔力を流すだけでは弾かれて外に魔力が放出されるだけ。何も相手の体の中に魔力を注げと言っているわけではないわ。あくまでイメージとしてそういう魔力の流れを作ってほしいのよ」
「わかりました」
ソフィアは同意。俺も「わかった」と返事をして指示されたように魔力の流れを形作る。
といっても俺が語った通り、その魔力はソフィアの体の中には入らず、外へ……ここでアンヴェレートが俺達に近寄り、繋いでいる手に右手をかざした。
「この技術を活用する場合、前段階でとある魔法を使うわ。といっても維持する必要はなくて、言わば魔力を融合する準備をする手はずを整えるといったものだけど」
「それは教えてくれるんだよな?」
「もちろん。でなければ使えないし」
アンヴェレートが魔法を行使。といっても見た目に変化はない……のだが、
「ん、これは……」
「気付いたようね。二人は現在相手の体へ魔力を注ぐようなイメージで魔力を発しているけれど、両者の魔力は絶対に交わらない。例えるなら水と油のようなもの。私が行使した魔法は、両者の魔力の質を少し変えて二つを混ざるようにした」
「この特性の変化により、俺が持っている堕天使に攻撃が通用しない特性も変わるってことか」
「おそらくね。さて、両者の魔力の流れは結びついて一定方向になっているのがわかるかしら?」
……言われてみると確かに。さっきまではお互い交わらなかった魔力の流れが一つになっている。例えるなら先ほどまでは二本の川がそれぞれ勝手に流れていただけだが、今は一つになり大きな川となった感じか。
「事前準備は終了。といっても慣れないうちは油断した隙に流れがぐちゃぐちゃになっちゃうから、気をつけて」
そう解説しつつ、アンヴェレートは新たな言葉を口にする。
「それでは第三段階。この状況下で魔法を使ってみて。あ、魔力の流れは作ったから、手は繋がなくても指先程度触れていれば大丈夫よ」
まあ手を握っていては上手く魔法も発動できないだろうしな……慣れている魔法なら体の周囲どこでも発動とかできるんだけど、今回はソフィアと魔力の流れが合わさっている場所から発動しなければ意味もないし。
「ソフィア、離すぞ」
「はい」
ゆっくりと手をほどく。魔力の流れはまだ続いている。とはいえここまでずっと少量とは魔力を注ぎっぱなしだ。魔力量的に問題ないとはいえ、かなり神経を使う。
「光弾を放つ魔法でいいか?」
「はい」
返事が返ってきたので俺は『ホーリーショット』を使う準備を整える。ソフィアもまた準備を進め、下級魔法であるためそれほど時間も掛からず終わった。とはいえ普段と比べれば相当時間が掛かっている。初めてである以上仕方がないとはいえ、これをどうにかしないことには実戦で使えないな。
「魔法を行使する場合、二人が息を合わせて使った方がいいわよ」
アンヴェレートのアドバイス。俺は頷き、ソフィアとタイミングを合わせ――魔法を、解き放った。




