魔力融合
この世界からの干渉によって、前世に『エルダーズ・ソード』という物語が存在していた……そんな推測は少なからず俺に衝撃を与えたが、わかったからといって現在どうすることもできない。
よってこの件は保留するしかないのだが――
「ルオンさんが悩んでいるところ悪いが、話も一段落したから俺は仕事に戻るぞ」
デヴァルスはそう言って立ち上がった。
「調査を行い、ロスタルドとアラン両名の居場所を捕捉する。それまでは待機……いや、訓練していてくれ」
彼は部屋を出ていく。その一方でソフィアやリチャルはこの場に留まり、俺の言葉を待つ。
「……まあ、なるようにしかならないんじゃない?」
そう告げたのは、俺達と同じように残っていたアンヴェレートだった。
「今ここで議論しても仕方のない話よ。この世界の神様が仮にルオンさんの前世と深い関わりがあったとしても、こちらからどうにもできないんだから考えても無駄よ」
「それはそうなんだけどさ……」
「それにほら、神様が実在する世界において影響を確認することが難しいくらいなのよ? 物理的な干渉とかは無理なのではないかしら」
それも一理あるか……。
「そして現在、神様に対抗しようと色々策を巡らせている途中なんでしょう? それで納得しなさいよ」
……無茶言っているような気もするけど、彼女の言葉は正しいか。
「そうだな。まずは目先の戦いを済ませよう」
「そうね。で、修行の時間になったわけだけど、どうするの?」
「どうすると言われても……やれることとしてはそれぞれの技法を強化するって感じだろ」
「提案があるんだけど」
意味深なアンヴェレートの言葉。壮絶に嫌な予感がする。
「あら、その顔は何? 不満があるの?」
「不満も何も……まあいいや。その提案っていうのは?」
「仮にルオンさんが本来の力を出してロスタルドと戦うことができるようになったとしても、彼を打倒することは厳しいのではないか、と思うのよ」
「……根拠は?」
聞き返すとアンヴェレートは笑い、
「具体的にどうと語るのは難しいけれど……一つ確実に言えるのは、交戦して逃げた時点でロスタルドは、ルオンさんやソフィアさんの強さを理解した。よって何かしら対策を施すのではないか、ということね」
ああ、それは同意する。相手の能力などまだ判然としない部分もあるからな。こちらとしても前以上に何かしら考えないとまずいか――
「そこで提案よ」
「提案ねえ……内容は?」
「次戦う際、今以上に威力のある技を開発しないといけないわけよね? しかもそれは技術を高めて少し威力が上がった……とかではなく」
「そうだな」
「私もそう思います」
同意するソフィア。
一朝一夕で解決するような問題ではないのだが、ロスタルドがいつ何時動き出すのかもわからない――
「実を言うと私は、とある研究をしていてね」
唐突にアンヴェレートは語り始めた。
「あなた達、魔力融合というのは知っている?」
「融合?」
「わかりやすく言うと複数の存在の魔力同士を結びつける技法のことを言うの。利点としては既存の魔法に対し効果や威力が上がる……それも相乗効果でね」
あ、言いたいことがわかったぞ。
「つまり、あれか? 俺とソフィアの魔法か何かを融合させれば解決だと言いたいのか?」
「ロスタルドの裏をかくくらいのことをやらない限り倒せないでしょう? ならこのくらい突拍子もないくらいでいいんじゃない? 幸いロスタルドは私の研究を知らないし、意表を突けるわよ」
……やり方はどうあれ、確かに裏をかかなければいけないというのは同意する。
「研究していたからそういう案が出たのは理解できるけど、それ簡単にできるのか?」
「たぶん大丈夫よ」
ものすごく不安になる言葉……まあそういう手法があるのだとしたら、やってみて損はない……のか?
「それを仮にやるにしても、具体的にどうすればいいんだ?」
「まずは魔力同士相性がいいかどうかを確認するところから始まるわね。あとは……そう、ルオンさんの魔力により威力が減じてしまう可能性もあるから、それも確かめないと」
「前者はいいとして、後者は確認ってできるのか?」
「ずいぶんと質問が多いわねえ」
「案としてはありかと思ったが、次の戦いまでそう時間があるわけでもない。できることなら確実性が高い手段をとりたいからな」
こちらのコメントにアンヴェレートは「なるほど」と応じる。
「わかったわ……まあ検査くらいならそう長い時間掛からないだろうし、少し試してもいいのではないかしら」
「……ソフィア、どう思う?」
「案としては私はいいと思いますよ」
賛同するような意見。ふむ、それなら――
「デヴァルスさんとも少し話をしてみて、感触がよければそれでいこうか」
「いいわよ。私は全面的に協力するわ」
「それはロスタルドを倒すために……アンヴェレートの目的を成し遂げるために協力するってことでいいんだよな?」
俺はなんとなく確認の問い掛けをする。すると彼女はにべもなく頷き、
「ええ、もちろんよ」
不敵な笑みを見せた。彼女の行動方針、それは紛れもなく一貫しているのだと確信できた。
アンヴェレートに提案された内容をデヴァルスに相談すると、驚くほど簡単な答えが返ってきた。
「いいんじゃないか」
「……ずいぶんあっさりしているな」
「防御面はこっちも手助けできるが、攻撃面はあまり協力できないからな。ロスタルドを討てる手段として俺自身も悪くない回答だと思うぞ」
デヴァルスも好印象か……他に具体的な案があるかと言われると微妙だし、ひとまずその技法が使えるかどうか確認するくらいはいいか。
というわけで、アンヴェレートと合流し検証を始めることにする。まず俺達の魔力を調査のために少しだけ渡す。
「結果が出るまで一日くらい掛かるから、それまでにどんな風にこの技法を利用するか決めましょう」
「利用?」
「融合できるからといって、何でも組み合わせることができるってわけでもないから」
「普通に考えれば魔法を利用するのが一番だろうな」
「そうねえ。できれば同一属性かつ、同じ系統の魔法が望ましいのだけれど」
「同一属性ってのはわかるけど、同じ系統って何だ?」
「例えば雷属性の魔法を組み合わせる場合、天から降り注ぐか使用者の手の先から放つ場合だと融合するなんて無理だからね」
ああなるほど、そういうことか。
「うーん、俺とソフィアの魔法って得意分野があんまり一致してないからな……こういうのって双方得意魔法の方が威力も上がるだろ?」
「それはそうだけど、適合すればいいんじゃない? どこかで妥協することも必要よ」
「ソフィア、どう思う?」
「そうですね……アンヴェレートさん、堕天使相手だと耐性のある属性、弱点の属性などはあるんですか?」
「相当な瘴気を抱えているから、闇系統に耐性があるようにも感じられるけど、実際そこまでってほどではないと思うわ。元天使ってことで光とかにも強そうに見えるかもしれないけど、天使と堕天使は魔力的にもはや別物と解釈していい。基本はどの系統でも問題ないわ」
「ならルオン様の得意な光にしましょうか」
「俺に合わせていいのか?」
「私が合わせるより、威力も高まるかなと」
「私が研究していた融合魔力は、使用者同士の魔力が釣り合っていないといけないってわけではないからね。力押しをするならそういう方がいいでしょうね」
光か……それで魔法なら最上級魔法『ラグナレク』以外にないのだが、ソフィアは――
「私自身、ルオン様が保有する魔法を習得できましたし」
「……覚えたのか?」
「はい、お見せする機会はありませんでしたが……」
驚くべき発言。それにアンヴェレートは手を叩き、
「決まりね。お二人の融合魔法……是非完成させましょう」
そう笑顔で俺達へ述べた。




