同類
アランが見せるその暗い笑みが何を意味するのか……こちらが沈黙していると、
「この剣の詳細、転生したから知っていたでは納得がいきませんか?」
「……俺は、デヴァルスさんと協力する見返りに色々と要求していてね」
ここで口を開く……まずは会話で出方を窺う。武器について知っているのは、デヴァルスを利用させてもらう。
「その中で強力な武具を求めていたため、天使に関わる武具についても色々調べてもらった。その剣は資料にあったし、特徴的だったから憶えていたんだよ。前の大戦で、封印された剣……今のお前みたいに天使に反する存在に使われてしまう魔剣であり、大戦の際に封印されていた。そっちの言う前世とやらに、姿を見せたとは考えにくい」
アランは目を細めた。俺の説明は、アランの「なぜこの武器を知っているのか」についての説明になったはずだ。
「だがアランは剣を手にした……封印場所を知っているのはごくわずかだとデヴァルスから聞いた。転生したにしろ、何かしら情報源があったはず……そう考えるのが妥当じゃないか?」
――その言葉にアランは肩をすくめる。
「嘘ですね」
「何?」
「その言い分は嘘だと言いたいんですよ。堕天使がこの剣を語った時、表情が一変した……それはおそらく、この剣があるはずがないと確信したものだった」
「……そんなに驚いているように見えたか?」
「少なくとも、魔力は揺らいでいた」
彼なりに、魔力察知能力があるということか。
「先ほどの言葉、こちらの出方を窺う方便といったところですか?」
……カマを掛けているのか、それともアランもまた出方を窺っているのか。
ともあれ、こちらから水を向けなければ動かないか?
「ルオンさんの驚き方は、この剣を持つことがどういう意味合いなのかをしっかりと理解していた様子だった……つまり、ここにあるはずがないと」
「何が言いたい?」
沈黙が生じる……とはいえ、俺もアランも先にどちらが切り出すかを窺っているような状況であり、どういうことなのかわかっている。
つまり――
「……同類でしたか、あなたも」
「同類、ねえ」
「あなたもこの世界の知識を得て、転生したのでしょう?」
――そして彼は、予想外の言葉を吐き出す。
「この『賢者の聖域』の世界に」
……その言葉を理解するのに、俺は多少の時間を要した。
魔力が揺らいだかどうかはわからない。だがアランが反応しなかったのを見ると、どうやら動揺を上手く隠せたようだ。
――おそらく『賢者の聖域』とは、物語の名前なのだろう。つまりアランはこの世界が『賢者の聖域』という物語の中だと語っている。
俺が知っている『エルダーズ・ソード』という単語ではない。
「……一つ訊くが、前世では何をしていた?」
「本当に兵士でしたよ。城下の門を守る、ただの衛兵。戦場に出たというのは嘘でしたけどね」
「平和だったんだな、お前が住む所は」
「そうかもしれませんね。魔の民……この世界では魔物でしたか。その駆除はありましたけどね」
――違うと、確信できた。
俺のいた前世の世界じゃない。彼はまったく違う世界から、俺が知っている同じ物語の世界に転生を果たした。
これは一体どういうことだ……? 例えば俺以外の転生者がいるのではないか――そんな可能性を考えた時もあった。だが俺とは違う世界から転生してきた存在がいるとは、予想もしていなかった。
ともあれ、この情報は後で検討しよう……沈黙を守っていると、アランはさらに問い掛けてきた。
「あなたは、どういう前世でしたか?」
ここは同じ世界から転生したと解釈させた方がいいだろうな。
「……アランが名前も聞いたことがないような場所さ。そこで普通に暮らしていた。事故で死んでこの世界に辿り着いたけどな」
「そうですか。これは面白いことになりそうですね」
――ただここで疑問が一つ。俺が保有している知識と彼が保有している知識、果たしてどちらが上なのか?
いや、そもそもこの世界のことを物語として隅々まで把握していたとすれば、俺やソフィアのことを知っていてもおかしくない……はずなのだが、彼が俺に対し何かしらあるような素振りはなかった。
となると、彼が知る物語の中で俺達の大陸――ひいては魔王との戦いをどこまで把握している?
「ふむ、あなたは別の大陸にいたことからも、違う物語の影響によって転生したのでしょうね」
どこか確信を伴った声……俺はなおも沈黙し続ける。
彼の世界にもどうやら俺やソフィアのいる大陸の物語は存在していたようだが……それを彼は読んでいないのか?
俺はゲーム『エルダーズ・ソード』の世界にやってきて魔王と戦ったわけだが……前世で見聞きした事柄に左右して転生した場所が変わるのか? 俺はそれこそやり尽くした『スピリットワールド』の大陸に転生し、魔王を倒したが――アランもまた、似たような経緯が?
「詳しく語らいたいところですが、そのような余裕はなさそうですね」
アランが呟く。それと共に魔力を発した。
来る――俺はレスベイルに指示を出そうとした。隔離障壁を構成し、逃げられなくする――
「ルオンさん、あなたの目論見はわかっています」
アランが呟く。
「それに対し、俺にできることは一つだけ……!」
魔力解放。同時にレスベイルが魔力障壁を構成し、
大気が震えた。剣や体の中に眠っていた魔物を喰ったことで得られた魔力全てを、今ここで解放している。
「……そんなことをすれば、もう力は残らないんじゃないか?」
「構わないですよ」
そう告げるアランの顔には、笑み。
「まだアテはありますからね」
声の後、吠える。獣同然のそれを聞いて俺は何をしようとしているのか理解する。
彼は――魔物へ変じようとしている!
即座に刀身にありったけの魔力を注ぎ、彼へ斬撃を放つ。アランの魔力は下手するとレスベイルの障壁を砕くだけの力。けれど俺の剣戟がそれを相殺すれば――
斬撃が決まる。魔力が弾け轟音をもたらし、周囲の地面を砕いていく。
その中でアランは平然としている――いや、刃を身に受け傷を負っているはずだが、血など噴き出さない。
生じるのは瘴気……もう既に彼は、
「次会う時、どうなっているでしょうね」
アランが呟く。俺はそれに対し無言で剣を振ることで応じた。刹那、彼の体が砕かれていく。それを見ながら俺はどういう手段で障壁を突破するのかを理解する。
彼の体が消える。消滅――ではない。あえて剣を受け、自らの体を粒子と化した。
そしてその粒子がレスベイルの魔力障壁をすり抜ける――捨て身の撤退戦術。矛盾しているが、そうとしか形容できない逃走手段だった。
「……とはいえ、完全復活までは時間が掛かるだろ」
息をつく。それにデヴァルスなどはアランの魔力を分析していた。それを利用すれば居所を探ることもそう難しくない。
逃げられてしまったが、挽回の余地はある……色々考えたかったがひとまず後回しだ。
アンヴェレートは……使い魔を利用して観察していたが、彼女もまたロスタルドを取り逃がした。
いや、この場合わざと追わなかったと表現するべきか。
「あとはソフィアの方だ」
デヴァルス達は無事なのか。俺は移動魔法を行使し、全速力で天界へ戻ることとなった。




