あってはならない剣
突然のアランの裏切りという状況で、俺は思考する……いや、この場合裏切りとも少し違うか。
そもそもロミルダが何かしら勘づいていた。おそらくそれは彼が保有していた魔物の魔力を第六感で捉えていたからと解釈できる……そして彼自身、おそらく目的を果たそうと俺達に近寄った。
「なぜ、こんなことをした?」
試しに問い掛けてみる。それにアランは何も答えない。
まあ馬鹿正直に答えてくれるわけはないか。
「……攻撃するというのなら、申し訳ないがこちらも反撃するぞ」
「ええ、どうぞ」
一言。それと共に彼の足が前に出て――ほんの一瞬で間合いに到達した。
けれど俺も即応。放たれた剣戟が交錯し、金属音を周囲に撒き散らす。
感触からして、まだ本気ではないな……俺がとれる選択肢はいくつもあるが、果たしてどうする?
アランが切り払う。流れに沿いこちらは一度後退。出方を窺おうとして――
刹那、アランから漏れる魔力が一際大きくなる。それはまさしく巨大な魔物と相対するようなものであり――
「終わりです」
冷酷な声音。巨大な魔物の魔力……それを刀身に凝縮した一撃であることがわかった。
なるほど、確かにこれなら巨大な魔物を狩り続けることができたのも理解できる。例え巨大で相当な力を有している魔物であっても、その魔力を一極集中するなどといったことはおそらくできない。しかしアランにはそれができる。巨獣の魔力を利用した一撃ならば、確実に魔物の身を抉り倒すことができただろう。
だが――俺には通用しない!
剣同士が激突する。先ほど以上の金属音がこだまし、さらに腕に掛かる力が相当なものになる。
直後、耐えきった俺に対しアランが瞠目する。その様子から一撃で勝負を決める気だったか……力を奪っているということは即ち自らが魔力を生み出しているわけじゃない。つまりそれを使い果たせば終わる。
できるだけ消費を減らすには当然、初撃で決めるくらいの力でなくてはならない……が、アランは見誤った。俺に関する情報は保有していたに違いないが、それを考慮に入れてなお無理だったか、あるいは十分だと確信し判断ミスをしたか。
どちらかはわからないがアランが放出した魔力は相当なもの。しかも瞬間的なものであるため、鍔迫り合いとなる現状では徐々に力を失い俺が押し返す。
「くっ!」
即座にアランは撤退。今の衝突でどうにもならなかった以上、次の出方は当然決まっているが……。
「余裕そうですね」
「どうかな。案外限界ギリギリだったかもしれないぞ?」
アランの言葉に俺はわざと挑発的な物言いをしてみる。それに彼は目を細め、再度魔力を刀身に注ぐ。
俺は動かない……というより、まだ果敢に向かってきている以上、このまま魔力を使わせた方がいい。保有している魔力が少なくなれば、それだけ逃走などに費やせる魔力が減るため、逃げられる可能性も低くなる。
「どちらにせよ、あなたをどうにかしない限りは逃げられない」
決然としたアランの言葉。魔力収束は完了したか。
「そうである以上――押し通るまで」
駆けた。真っ直ぐ突き進んでくる彼に対し、俺は正面から迎え撃つ。
電光石火のアランに対し、こちらは動きを見極め剣で防ぐ。彼はどうやら一瞬の魔力で俺の膂力を上回り、剣を弾き飛ばした後に一閃、といった目論見だったのだろう。実際刀身に乗せられた魔力は先ほど以上に凝縮され、それを一瞬で使い切るような勢いがあった。
彼にとってこの手段はおそらく最適解だ。その剣戟で貫かれなかった魔物はいなかっただろうし、ロスタルドはともかくとしてアンヴェレートならば十二分にダメージを与えられたかもしれない。さすがに致命傷とまではいかないだろうが、戦局を大きく動かすだけの力であることは、俺の目から見ても明らかだった。
けれど――それでも俺は真正面から迎え撃った。
三度目の激突。俺は足を前に出し相手の勢いを殺そうとする。アランは激突した瞬間にさらに魔力を発し、こちらの剣を越えようとする。
一秒――いや、コンマ数秒の世界だった。ほんの一時だけでも俺の剣を押しのけ、瞬きをする時間よりも早く剣を薙いで俺を倒す……魔物を『喰った』ことにより得た魔力で身体強化を施せば、それだけの速力を身につけることができるということだろう。
もし相手がソフィアやアンヴェレートなら……いや、デヴァルスでも成功していたかもしれない。それだけ鋭い一撃。彼にとって、持ちうる力の限界に違いなく、刹那の世界による攻防は、彼が出せる最高のものに違いなかった。
けれど――それでも、俺は押し留める。
彼にとって俺はどう映っているのか――本来弾き飛ばされるはずの俺の剣が、魔力を加えてもビクともしない。それを悟ったアランはまたも瞠目する。だがそれだけじゃない。ただ驚愕し、それは俺にとって明確な隙に映る。
反撃。瞬間的な力を出し切った剣はなお大きな力を持っていたが、俺は平然と弾き返す。結果たたらを踏んだ彼に、俺は容赦なく剣を浴びせた。
狙いは、足。その両太ももに剣による傷を作る。
「っ――!!」
アランは痛みを発したか苦悶の表情を見せる。だが動きは変わらず、間合いを詰めたのと同じように一瞬で後退した。
俺は追わない。攻めに転じた際どうすべきかを頭の中で算段し、今度はレスベイルを出す準備をしようと決める。
鎧天使が発する隔離魔力障壁を構築すれば、確実に逃げられなくなるのだが……先ほどの瞬間的な力を発揮されたら、押しのけられる可能性もゼロじゃない。そして今逃げられない状況を作り出すと、相手がどう動くか読めないのもある。完全に逃げの手に入った際、レスベイルを呼び出し隔離することにしよう。
アランは動かない。まだ攻めるべきか逃げるべきか迷っている。対するこちらは着々と準備を進め……単に呼び出すのではなく事前準備をするとなると多少時間がいるな。
彼もおそらく少し間があった方がいい……こちらから会話を仕掛ければ、何かしら喋ってくれるか?
様々な考えがよぎる中で、俺は彼が握り締める剣に注目する。先ほどロスタルドは言っていた。アランは魔物を『喰って』いると。
その武器は、心当たりがあった。この世界で言うところの二十年前……大戦が行われた時に用いられていた、天使の武具だ。
とはいえ魔物の魔力まで食らい尽くす剣は使用者によっては魔剣に変じた。実際これを所持していた天使も大陸にとって悪しき方向に動いていた。よってゲーム主人公――『エルダーズ・ソード』二作目にあたる『エンジェリックアーク』の主人公と天使によって滅ぼされ、とある場所に封印されていた。
名を『霊喰らい』――あらゆる魔力を貪る、天使の武具の中でも異質な剣。とはいえ俺自身気付かなかった。見た目がずいぶんと変わっている……アラン自身が変えたか。
「その剣を、どこで手に入れた?」
俺は問い掛ける……次いで思い出すのはその封印した場所。
封印を主導した天使は大戦の末期に滅んでいる。となれば当該の場所を知っているのは主人公勢だけ。けれど魔剣として処理されていた作中で、主人公がアランに魔剣の場所を漏らすとは思えない。
考えられるのは――じっと彼を注視していると、
「……あなたは何か、知っているようですね」
その言葉と共に、口の端に笑みを浮かべる。
「まるで――この剣は本来、ここにあってはならないような雰囲気だ」
俺は無言。それに対しアランは、どこまでも暗い笑みを浮かべていた。




