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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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彼の狙い

 アランに対し違和感を抱いた瞬間、体が魔力の流れを勝手に読み解き、半ば本能的に剣を振る。そして狙いのものを弾いた瞬間、俺は思わず瞠目した。

 弾いたものは――アランの剣。といっても対象は俺ではない。それは、


「くっ!」


 即座に後退。ソフィアも気付いたか即座に引き下がり、またアンヴェレートも大きく退く。

 ロスタルドは動かない。いや、ここに至り事の推移を見守る構えか。


「……よくわからないけれど」


 アンヴェレートが、口を開く。


「私を狙ったっていうのは、理由があるのかしら?」


 そう、アランの剣戟の矛先は、彼女だった。


 例えばこれがロスタルドに操られているとかならまだわかる。けれど戦場に到着し影響を受けていないと思しき状況でおかしい。


 かといって例えば、アランがロスタルドと組んでいるとは思えない。そうならば最初に到着した時点で行動に移していなければおかしい――というより、そこが間違いなく俺達を仕留めるチャンスだったはずだ。それを逃しあえて斬り結ぼうとした瞬間を狙ったということは、おそらくロスタルドがどういう態度をとるのかわからなかったため、性急な行動を避けたのではと考えられる。


「……さて、そちらはどうする?」


 ロスタルドが問う。こっちとしては……どうすれば正解だ?


「ただ一つ、お前達に言っておこうか。これは推測でしかないが、おそらく間違いないことだろう」


 そう告げたロスタルドは、笑みさえ浮かべながら続ける。


「アランという剣士……ここにやって来たわけだが、おそらく天界にでもかくまっていたんだろう? 傍にいたのは天界の長デヴァルスや、それに近しい天使といったところか」


 彼はアランを一瞥。彼の表情は苦々しげだった。


「大方その者達を斬ってここに来たのだろう」


 ――想像だにしない内容だった。


「いや、もしそちらが何か勘づいていたのならば、斬られてはいないかもしれないが」

「……ソフィア、今すぐ戻って確かめてくれ」


 俺の指示。彼女は逡巡したが、


「もしそうだとしたら、エイナ達が戻る魔法陣などを破壊している可能性がある。その状態で放置すれば――」

「わかり、ました……!」


 即座に引き返す。状況的には痛いが、安否確認を優先だ。


「さて、大変面白いことになってきたな」

「私達としては極めて不愉快ね」


 アンヴェレートがアランをにらむ。一方の彼は距離を置き、こちらとロスタルドの動向を窺う構え。


「どういうつもりなのかしら?」

「……ふむ、私としては話した方が得になるのか?」


 迷っているロスタルド。先ほどの秘密とやらはアランに関することなのか? だとしたら――


「……ふむ、そうだな。教えてやろう」

「やめろ」


 アランの鋭い声。だがそれを嘲笑するかのようにロスタルドは続ける。


「宴の第一位ということで、私は少々彼について調べていた……実績は武勲で証明されているが、どうも彼は魔物を完全に単独で倒し、またその戦い方は完全に秘匿していた。つまり誰にも見られないようにしていたわけだ」

「戦法がおかしいとでも?」


 俺の疑問にロスタルドは肩をすくめる。


「違うな、倒したその後だ。こいつは……魔物を『喰って』いたんだよ」


 ……何?


 思わぬ言葉に俺は眉をひそめる。ただアンヴェレートは理解したらしく、


「魔物の力を、吸収していたってことかしら?」

「彼が持つ武具は、言わば魔物の力を分解し吸収する物だ。それを用い際限なく力を吸い続けた……それが彼の強さの源流だ」


 ――大型の魔物を何体も? とても許容できるとは思えないのだが。


 また同時に、俺は一つ悟る。その武器は、もしや――


「とはいえ、だ。おそらく人間の器……そして武器の器も限界が来た。際限なくといっても無限ではない。だからこそより大きい器を手に入れなければならなかった。方法は一つ」


 そこまで言われれば、どういうことなのか俺にも理解できた。


「……天使か堕天使の力を奪い、その器も手に入れる」

「そういうことだ。彼が動いてかき回してくれた方が面白そうだから話したが、興味深いだろう?」


 ――つまりその狙いは、人間とは異なる器。魔物の力を奪い続けた彼だ。堕天使に狙いを定めてもおかしくない。


「とはいえ、性急に行動すればまずい……というより、彼としては天界の長辺りの力を奪いたかったのだろう。だが予想以上にガードが厳しいと判断した」


 おそらく、ロミルダの助言が効いたのだろう。


「その結果、アンヴェレートに狙いを定めた……顛末としては、こんなところか」


 アランは無言。優しい笑顔は消え失せ、今はただ俺達とロスタルドを食い入るように見据えている。


「敗因は、俺に情報を持たせてしまったことと、思ったよりもお前の力が高く、意表をついても失敗したことか」


 ロスタルドは俺に目を向けながら語る。


「さて、状況は混沌としてきたが……ここからどう出る? まだ私を打倒するか? それとも、アランという剣士を始末するか?」


 ――ロスタルドが天魔を率いて何をしていたのか、その理由も判然としていない。ここで野放しにすればどうなるかもわからない。

 だが、かといってアランを放っておくことも難しい。こうなってしまった以上、彼も逃げの一手だろう。追うことは可能だが、そうなるとロスタルドを放置することに。


「二者択一ね」


 アンヴェレートが呟く。そう、さすがにこの状況では両方追うことは難しい。


「とはいえ、まだ手はあるわ。ルオンさん、私がロスタルドを追うわ」

「勝てると思っているのか?」

「この状況下でそこまで馬鹿な考えには至らないわよ。でもまあ、そっちこそ逃げられると思っているのかしら?」


 怪しい笑み。この状況でその顔は、ずいぶんと助かる。


「ルオンさんは、逃げるアランさんを追いなさいよ」

「……いいのか?」

「心配せずとも私だって無謀なことはしないわよ……行った行った」


 その言葉の瞬間、アランの足下に魔法陣が生まれる。転移魔法か何かなのかと思ったが、どうやらそうではなく純粋な身体強化能力らしい。

 当然それは逃走に使われる――俺はアンヴェレートに「頼む」と短く告げ、移動魔法を行使。逃げるアランを追い始める。


 後方で濃い瘴気。一瞬だけ振り向くと、逃げるロスタルドを追おうとするアンヴェレートが目に入った。

 今は彼女を信じるしかないか……俺はひたすらアランを追う。その動きは予想以上で、確かに相当な力の強化をしていることがわかる。


 問題は、ロスタルドが語ったデヴァルス達を斬ったという点……これが本当なら彼らの力も奪ったのか? 疑問が膨れあがる中で俺はひたすらアランを追い続ける。相手としては持ちうる力を振り絞って逃げ切りたいようだが、さすがに俺もそうはさせない。


 やがて――戦場からだいぶ距離を置いた時、アランは立ち止まった。周囲は草原。遮蔽物がない空間であり、また人気もない。


「……逃げることは、難しそうですね」


 振り向く。そこには決意を秘めた顔が。


「俺を倒そうって気概か」

「あなたが一目置かれているのはわかっています。ですが」


 魔力を噴出。確かに、その気配は常人とは比べものにならない。


「あまり力は無駄にしたくないのですが……やるしかないようです」


 戦うしかない――同時に俺は剣を握り締め、思う。なぜこんな凶行に至ったか……それを問い質さなければならないと。


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