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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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思わぬ援軍

「やはり警戒すべきは二人か」


 ロスタルドが呟く。放たれる魔力はまだ濃く、ダメージはあったにしろまだまだ平気な雰囲気だ。


「その力、一体どこで手に入れた?」

「魔王との戦いで」


 俺が答える。嘘は言っていない。


「そうか、強大な相手に立ち向かうことで、人はこれほどまでに強くなれるか」


 そう告げたロスタルドは、アンヴェレートへ視線を向けた。


「お前とは大違いだな」

「悪いけど、もう挑発には乗らないわよ」

「そうか。残念だ」


 瘴気を発する……ロスタルドについては気になることがいくつもあるが、十中八九答えてはくれないだろう。

 正直俺としては目の前のロスタルドが本物なのか疑っているけど……仮に偽物であってもアンヴェレートを一蹴するだけの力を有している存在だ。相手にとってこれを滅すことは相応の痛手になるはず。


 ならば――俺は走る。ソフィアもそれに追随する。


 剣には確かな魔力。ロスタルドは最大限の警戒を発し、俺達を注視しながら迎え撃つ構えをとった。

 最初とは異なり、臨戦態勢――間合いを詰め俺が放った剣を、堕天使はまず最大限に魔力を腕に集め防御する。


 剣と腕が激突。白い光が粒子となり、俺達の周囲を舞う。


「できればお前を沈めたいところだが……」


 ロスタルドのセリフ。ただ先ほどの攻防から、それが非常に難しいのではと彼自身思っているのか。


「まあいい。ともあれやれるだけやってみよう」


 ずいぶんと安易な言葉。それでいいのかとこっちがツッコミたくなってくるが……ふむ、やはり言葉の端々からやられても問題ないっていう雰囲気が読み取れる。偽物であるから、なんて理由か――?

 考える間にさらに押し込む。ここへソフィアが『スピリットワールド』を収束させ俺の剣と合わさる――こうなったらもはやロスタルドであっても防ぐことは敵わず、吹き飛ばされた……というより、衝撃に任せ距離を置いたといった方が正しいか。


 結果としてロスタルドに追撃ができず、俺とソフィアは立ち止まる。後方のアンヴェレートも動かず、一時奇妙な沈黙が訪れる。

 ロスタルドとしてはどうにかして反撃したいところだろう。けれどこちらは三人――しかも全員ロスタルドの攻撃そのものを弾き返すことのできる力を持っている。仕掛けようとしても三人のうちの誰かが妨害するため、攻めに転じることができない。


 彼からすれば、焦燥感募る状況だろう。だがそれでもなおロスタルドの表情には余裕がある。不利な現状にあってこうまで平然としているのは、まだ策があるのか……いや、それならわざと誘うよう苦戦しているような雰囲気を見せてもおかしくない。


 あるいはハッタリか? 表情から何一つ読み取れないのはさすがといったところか。


「動かなくなったな……俺の考えを読もうとしているのか」


 ロスタルドの呟き。すると後方にいるアンヴェレートの気配がざわつく。


「落ち着いてくれ」


 それをなだめるように返しながら、俺は使い魔で他の戦場の動向を窺う。

 残る二つの戦場は勝負が決しようとしていた。初期段階から有利な状況になっていたが、それが覆ることもなく、双方の天魔は消滅する。


「……他の場所は、もう勝負がついたぞ」

「そうか。残念だ」


 ――どんな目的で天魔を寄越したのかわからないが、この戦況では目的を果たしたとは言えないだろう。ひとまず天使の被害を抑えることに加え、相手の目論見を防いだ……戦果としては十分か。

 とはいえ、何か引っ掛かる……ロスタルドの本体らしき存在が出てきたこともそうだが、まだ一波乱あるように思える。先ほど相手も同じことを言ったが――


「……俺は天界の全てを手に入れることが大きな目的だ。しかしそれは大いなる目的に至るための一つに過ぎない」


 唐突にロスタルドが喋り出す……何だ?


「その考えを変えるつもりはなく、お前達とは相容れないわけだが……中には、俺を超える無茶をやる存在もいる」

「……何が言いたい?」

「俺がそれを見てなお詳しく語らないのは自分が利することになりそうだから……なのだが、もしかするとそれは違うのかもしれない」


 意味がわからない……横にいるソフィアも眉をひそめ、後方のアンヴェレートの気配もどこか困惑したものになる。


「あるいは、俺の目的を阻害するかもしれない……そんな気もするな」


 肩をすくめるロスタルド。こちらはじっと相手を注視し――その時、


「ルオン」


 アンヴェレートの声が。


「後方から人が来るわよ」

「……ここは人払いしているんじゃなかったか?」

「違うわ。どうやら味方ね。この気配は――」

「ルオンさん!」


 聞き覚えのある声。アランのものだった。


「すみません、加勢に来ました!」


 あまりに唐突であったため、俺は少なからず驚いた。


「他の場所が問題ないとわかり、ここへ」


 そう言いながら彼は俺の横に。見ればロスタルドを警戒し、剣を構える姿が。


「……デヴァルスさん達は何て?」

「行ってこいと。すみません、いてもたってもいられなくて……」


 俺達と戦うのがロスタルドであることがわかったためか。ちなみに今は一人。


「ロミルダは?」

「待機してもらってます。デヴァルスさんは他の戦場から仲間が戻ってきた後、どうするか協議すると」


 その協議の間に勝負がつきそうだけど……そんなことを心の中で呟いた時、


「なるほど、これはこれで面白い」


 ロスタルドが呟く。こちらが眉をひそめた瞬間、堕天使は魔力を噴出した。


「やられっぱなしでは面白くないからな」


 ……理由はわからないが、どうやら攻勢に出そうな雰囲気。アランが登場したことによるものか? 俺達としてはただ迎え撃つだけだし、戦力的にも問題ないが……アランについては多少気掛かりだ。

 彼の能力は宴の戦果から理解しているが、さすがに堕天使相手となればどうなるかわからない。攻撃能力はあるにしても防御はどうなのか……様々な不安がよぎる。


 そうした中、ロスタルドが突っ込む。瘴気をまとわせ接近する堕天使は圧巻の一言。俺達は即座に迎え撃つ構えをとり――アランが、魔力を刀身に集中させる。

 そしてロスタルドの狙いは、まさしく彼に……即座に俺がカバーに入る。受けることができるのかもしれないが、この状況下で放置するわけにはいかない。


 また同時にソフィアやアンヴェレートも動く。ソフィアは俺の動作に合わせいつでも援護に入れるような形に。対するアンヴェレートは前に足を踏み出し、カバーに入る俺に取って代わるようにロスタルドへ近づこうとする。

 そして発した瘴気は、それこそロスタルドに相対できそうなもの……ただ先ほどよりも劣っている。おそらく攻撃ではなく防御の意図があるため、さっきよりは魔力が低くても問題ないってことなのか。


 ロスタルドが近づく。アンヴェレートが先頭に立ち、俺やソフィアがそれに続く。そしてアランは――


「くっ!」


 荒れ狂う魔力の中、呻きながらもその瞳には強い意志を宿し――恐れず足を前に出す。

 ロスタルドはそれを見て笑う。アランは叫び声を上げ自らを鼓舞し、果敢にもさらに前進する。


 俺は止めようと声を上げるが、それでもアランは止まらない――その時、違和感を憶えた。

 彼の瞳……それがロスタルドとは違うものを映している。そんな直感があった。


 それと同時、俺の体は反射的に動き――剣が、放たれた。


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