未知の情報
「天界を制圧して、どうやって地底の存在を引きずり出すかは知らないが」
視線を送ってくる堕天使ロスタルドに対し、俺は言及する。
「お前の行動を見過ごすわけにはいかないし、本物であるならこちらは戦いを終わらせるために、今ここで滅ぼすために戦うまでだ」
「ふむ、主張は至極もっともだ」
賛同するロスタルド。小馬鹿にでもしているのかと一瞬思ったが、
「だが、私としては疑問だな。地の底にある存在を知っているのなら、なぜお前は天使に味方をする?」
詰問するような声音だった……どういうことだ?
「私は天使として地底の力に干渉していたからこそ知っている……真実を知れば、少なくとも天使と手を組もうとはしないはずだ」
「……天使が地底に眠る存在を目覚めさせようとしているとでも言いたいのか?」
「違うな」
否定するロスタルド。意図がわからず眉をひそめると、
「真実を知れば、私達もあなたと同じような行動をするはずだと言いたいのですか?」
ソフィアが問い掛けた。それにロスタルドは「まさに」と返事する。
「そういうことだ。地の底に眠りし存在……私の目的はその存在にまつわること」
と、彼は俺達を一瞥し、
「お前がどの程度把握しているかは知らないが、少なくとも保有している情報については、私の方が多いようだな」
情報だと……? 俺は堕天使と目を合わせ、
「お前の口上からすると、天界侵攻は地底の力を我が物とするため、なんて理由ではなさそうだな。むしろ、破壊するような雰囲気さえ感じられる」
ロスタルドは何も答えない。しかし沈黙が肯定を意味していると捉えてよさそうだ。
「破壊するために天界を征服すると? そもそもなぜ破壊しようと思った?」
「……その質問をしている時点で、お前がある情報を持っていないことが理解できるな」
ロスタルドは言う。また大げさに肩をすくめ、
「どこで地底に眠る存在のことを知ったかわからないが、核心的な情報は手に入れることができなかったようだな」
……俺はロスタルドを見据える。すると相手は、
「まあいい。おおよその状況は理解した」
「――天界と協力しようとは思わなかったのですか?」
今度はソフィアが質問。
「天界を征服し我が物とするのではなく、協力を願うことも手段の一つだったはず……こんな愚かなことをする必要はなかったのでは?」
「もっともな意見だ。しかし地底に眠る存在について把握しているのなら、それでは足らないと断じるはずだ」
ここでロスタルドは両手を左右に広げた。
「力……それこそ、天界のあらゆる力を奪ってこそ、我が目的は成就する」
「……おそらくだが、お前と似たようなことをやっていた存在を、俺達は一つ知っている」
「ほう? 奇特なやつだな」
「そうだと思うよ……そいつは俺達の大陸に踏み込み準備を進めていた。結果として俺達が滅ぼし、国は救われた」
「魔王か」
ロスタルドの笑み。俺は頷きながら、
「魔王の所行も、大陸征服のための下準備だった。結局目的はわからないまま俺達は倒したが」
「興味深いな……ふむ、精霊が多く宿る大陸なら、目的を達成できると解釈したようだな」
口元に手を当てて呟くロスタルド――目の前の堕天使と以前死闘を繰り広げた魔王と共通するのは、どちらも世界の一部分を征服しようとした。
魔王は大陸を蹂躙するために魔法を構築していたが、それは征服するだけでなく、何か……滅ぼす以外の意味があったというのか?
また、目の前のロスタルドが語る、俺が保有していない情報とは何だ……? 俺はいずれ地底に眠る存在が世界全てを崩壊させると知っている。それのことなのか? それとも、ゲーム知識の外にある情報なのか――?
「色々と、疑問に思っているようだな」
ロスタルドが語る。こちらの様子から悩んでいると察したらしい。
「さすがに語るわけにはいかないな。ともあれ、こちらには明確な目的があるのは理解しただろう? 地底に眠る存在を認識しているのなら、こちらの行動に手出しはするべきではないぞ」
「こっちはヴィレイザーを倒しました。それに対する報復なども考えていないと?」
ソフィアが問う。すると、
「大いなる犠牲の一つだな」
あっさりと切り捨てた……これはロスタルドが冷酷と解釈するか、それとも――
「俺達はお前に協力する気はない」
今度は俺が口を開く。
「だが、地底に眠る存在をどうにかしようとする……それについては、どうやら意見が一致している」
「ほう、知っているだけでなく干渉しようとしているのか?」
「ああ。俺はそいつを滅するべきだと考えている」
ロスタルドが沈黙し、俺を凝視する。それはこちらの力量などを推測しようとしている風にも見えた。
「俺達は今、その準備をしている……お前が同じようなことを成そうとしていると仮定しよう。そうなると、俺達のやり方と逸していることになる」
「そちらはできる限り穏便に、と言いたいのだな」
ロスタルドは笑みを浮かべる――嘲笑にも似た態度だ。
「お前がどれほどの強さを持っているかは知らん。とはいえ地底の存在を一端であっても知っている以上、滅するなどという行為がどれほど途轍もないことなのかはおぼろげながらでもわかっているはずだ」
「理解しているからこそ、あんたは天界を征服しようと考えているのか? それほどのことをして力を得ない限り、地底に眠る存在を倒すことはできないと?」
ロスタルドは沈黙した。だが言外に肯定している。
「……少なくとも、堕天使である以上天使達はあんたを野放しにはしないだろう。それにこの大陸で色々暴れ回った事実もある」
俺はそう告げると、彼に提言した。
「だが同じ目的を携えるとしたら……手を組むとはいかないが、方策を話し合うことくらいはできるんじゃないか?」
「……俺を懐柔するつもりか?」
「丸め込もうとは思っていないさ。だが、敵味方を忘れ忌憚なく話し合うのもいいのでは、ってことだ……地底に眠る存在について」
ロスタルドは俺と目を合わせる。言葉を発さず、まるで俺の目から真偽を読み取ろうとしているような――
「少なくとも、騙そうとはしていなさそうだな」
「……天使がどう言うかはわからない。というか、事情を知らない天使からすれば俺は立派な裏切り行為に映るかもな」
「本当に戦って勝てると思っているのか? いや、それは愚問か」
俺は力を示したわけではない。しかしここまでの会話で並々ならぬ実力があると感じ取ることはできたらしい。
「主張は理解できた……が、一つだけ言わせてもらおう」
「何だ?」
「どれだけ力を得ようと……人が手にできる力には限界がある」
「そうか? 確かに多大な魔力を保有していない人間はお前からすればちっぽけな存在であり、そんな人間が地底に眠る存在を倒そうなんて、馬鹿な発言かもしれない」
そこで俺は横にいるソフィアを一瞥した。
「だが……そんな小さな存在が、巨大なはずの魔王を打ち倒したのは事実だ」
「ああ、そうだな。確かに。希望はあるかもしれないな」
ロスタルドは言う……が、その顔は既に決意したもの。
「ならば勝負をしようじゃないか。俺が正しいか、お前が正しいか。地底に眠る存在をどうこうするのなら、こんなところで負けるはずがない」
「……結局、そうなるのか」
「そして詳しく語らうつもりもない。知を得たいのならば、自らの手で得ろ」
「……ああ、そうする他なさそうだ」
呼吸を整える。向こうも臨戦態勢。
戦闘がいよいよ始まる。ソフィアも剣を構え、俺もまた――その時、俺の視界に新たな変化が生じた。




