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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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不安と予感

 見る者を圧倒させる一本の巨大な槍――ロミルダが現在持ちうる技術をもってしておそらく最高の一撃……それが戦場で繰り出された。紫色の不思議な光を伴ったそれは、真っ直ぐ巨大なゴーレムへと向かい、直撃する!


 爆音と閃光が入り混じり一時戦場を支配する。振動さえ感じられるほどであり、光によって巨大なゴーレムさえ見えなくなった。


「規格外の力だな」


 そうデヴァルスは呟く……宴の上位陣がいる以上、ここにいる面々はこの大陸においても最精鋭といって過言ではない。そうした中でデヴァルスはロミルダの一撃を規格外と表現した……さすがと言うほかない。

 とはいえ、彼女については課題も多い。魔法の技術などをしっかり活用できているわけでもないため、今日の訓練前のソフィアのように防御面などは甘い。逆に言えばそこを是正すれば――


 光が消える。ゴーレムはその巨体を維持していたが、槍が突き刺さった胸部が大きく損傷していた。


「今のは見事でしたね」


 ネルが告げる。俺が頷く間にさらなる攻撃が繰り出される。セルガが雷撃を放てばディーチェの炎とクオトの風が大いに敵の動きを縫い止める。そこへアルトやエイナが仕掛け――巨体故に攻めあぐねている印象だが、魔力の刃などを駆使してしっかりと攻撃を当てていく。

 一方のゴーレムは損傷したことで動きが鈍っていた。それに加え仲間達の応酬……確実にダメージは溜まっており、どこかで限界を迎えることは確実だ。


 そうした中、仲間達は猛攻を仕掛けて一気に決着をつけるつもりのようだ……ただその中で一人、アランだけは動かない。いや、これは何か準備をしている。


「デヴァルスさん、アランさんが何をしているかわかりますか?」


 ふいにソフィアが質問する。俺と同じことを思ったようだ。


「ふむ、攻撃準備をしているみたいだが、ずいぶんと長いな」

「溜めているってことでしょうか?」

「おそらく。時間的にそれこそ一撃で畳み掛けるつもりなのか――」


 デヴァルスが答えていた時だった。アランの剣から魔力が発され、それがビリビリと俺達に伝わってくる。

 そうして放たれたのは、単純な魔力の刃。剣を豪快に振りかぶることで繰り出されたそれは、ゴーレムに合わせたかなかなか大きく、一瞬のうちにゴーレムの巨体に到達。


 刹那、閃光が生じゴアッ、という爆発にも似た音が響く。ビジュアル的にロミルダのそれと比べれば下だが、それでも驚異的なことに変わりない。

 結果、ゴーレムは一撃を受け、衝撃によりたたらを踏んだ。そこへ追撃にロミルダの槍。先ほどの出力とまではいかなかったが、またもや胸部を貫きさらに鎧を砕いていく。


 もう一押し――そう心の中で呟いた時、動きを拘束する役目だったセルガ達も攻勢に出た。雷撃、爆炎、疾風が合わさり、ゴーレムを打倒するために渦を巻き存分に攻撃を食らわせる。そこへエイナやアルトの追撃が加わったことで――とうとうゴーレムの動きが止まった。


 完全にフリーズしている。いよいよだと思った瞬間、アランとロミルダが同時に攻撃を放った。


 さらなる連係攻撃がゴーレムへと突き刺さる――直後、とうとうゴーレムの鎧が完全に砕けた。ロミルダの槍は深く胸部へ突き刺さり、アランの刃もまたその体に食い込む。

 ゴーレムが膝から崩れ落ちる。倒れたりしたら面倒だしそれを危惧して仲間達は距離を置いたのだが……ゴーレムはそこから消え始めた。


「終わりだな」


 デヴァルスは呟き、うんうんとしきりに頷く。


「だいぶ検証もできたし、成果は上々だな。またこの戦いを通して彼らも色々と学べたことだろう」

「ひとまず天魔との戦いはこのメンバーで?」

「ああ。アランさんついては後詰めとして天界で留守番ってことにしてもらう。それでいいだろ?」

「ああ、それなら問題なさそうだな」


 俺の言葉に彼は笑みを浮かべ、


「それじゃあ合流するとしようか……いやあ、非常に有意義な時間だったぞ」


 そう告げたデヴァルスの顔は、充足感に満ちていた。






 戦場へ降り立った俺達は、手を振りながら近寄り合流する。最初に口を開いたのはエイナ。


「ソフィア様、そちらの修行は?」

「成果はあったよ……エイナはどう?」

「それなりに手応えは」

「ま、あれだけ立ち回れたし上等だろうな」


 アルトが続く。宴の上位陣と比べると見劣りしてしまうが、これはまあ相手が悪い。彼らも十分な戦力となっている。


「さて、そこそこ戦えたわけだが……デヴァルスさん達はどう思っているんだ?」

「上々という感想を述べさせてもらおう……では、数日後に行われる天魔討伐についてだが、今回連携した面々と手を組んでもらおう」

「それがいいだろうな」


 セルガが賛同。他の面々から文句も出ず、ひとまずそのような形と相成った。


「よし、以降については各々好き勝手にやっていいぞ。もし修行したければ敵もこちらで用意させてもらう。あ、ただしさっきみたいな巨大なものを生み出すのは時間が掛かるから勘弁してくれ」

「そこまで言うつもりはないから安心してくれ」


 アルトは肩をすくめ、


「よしキャルン、もうちょいやらないか?」

「私は構わないよ……二人でやるの?」

「連携を確認するのなら、私も付き合うべきだな」


 セルガが述べる。三人の空気は悪くない。戦いを通して交流もできたって解釈でよさそうだ。


「私達も同じかな」


 と、次はディーチェだ。それにエイナは頷き、


「戦いに備え、もう少々色々と確認しましょう」

「ええ」


 ――そういうことでこの場は解散となった。まだ修行するつもりのメンバーと一度宮殿に戻るメンバーに分かれることにして……その中でソフィアが一言。


「何事もなければいいのですが」


 ……アランの情報によれば、彼の前世において天使側の被害が相当大きかった。その事実から思うところはあるらしい。

 当のアランについてもロミルダが警戒を示したことから色々観察する必要はあるのだが……彼は仲間達を見回し口を固く結んでいた。一見するとソフィアと同じように懸念を抱いているように見える。


 さて、俺達は……ロミルダを含め一度帰ることにした。ソフィアもロミルダの能力を今回の戦いである程度見極めただろう。十中八九アドバイスなどはするだろうし、戦いまでに話し合っておくのは正解だ。

 そういうわけで戻ろうとしたのだが……ここでもう一度アランに注目した。彼自身ここに残るつもりなのか、デヴァルスと話し合っている。


 距離があるので内容までは聞き取れない……ふと、もし彼が裏切ったらどうなるかを想像してみる。転生し力を持っていることは事実だが、俺やソフィア、ロミルダのような規格外と称されるほどの力を所持しているようには感じられない。もし何かあっても押さえ込めると推測できる。


 ならば問題はない――そんな風に解釈し俺達は戦場を離れた。次に起こる天魔との戦いについてはデヴァルスと協力し対処。その後ロスタルドについて調べを進め、決戦に入る……これが基本方針であることは間違いない。


 だが、何か……何か起こる予感がする。それが天魔襲撃についてなのか、はたまた別の何かなのか。

 その予感は――的中することになる。次の天魔の戦いをきっかけに、戦いは思わぬ方向へ突き進むことに――


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