一本槍
巨大な全身鎧のゴーレムに対し、先んじて動き出したのはクオト。唐突に跳躍すると足下に風を作り一気にゴーレムの頭部まで向かう。
先ほど足を攻撃しても効かなかったため、今度は頭を狙うのか? 疑問に思う間にディーチェも動く。握る剣に炎をまとわせ攻撃準備。
一方のアランは……剣を構えたまま待機。どうやら彼はクオト達のフォローに回るつもりらしい。まあ何かがあった際、すぐに動ける人は必要だろう。
「そらっ!」
ここでクオトが頭部に向け剣を振る。空中で生じたそれは紛れもなく風の刃であり、ゴーレムは回避する素振りすら見せず直撃。とはいえダメージはない。
「クオトの剣だとダメージを与えるのは難しそうか?」
「もっと力を込めればいけると思うが」
俺の疑問に対し、デヴァルスが答える。
「とはいえ、少しばかり厳しいのは事実だろうな。魔力収束をアイツが待つこともないだろうし」
アイツとはゴーレムのことか――彼の言葉を裏付けるように、ゴーレムは空中に佇むクオトに手を伸ばす。彼はもちろんそれを回避するが、立ち止まって魔力収束などを行う時間はなさそうだ。
と、ここでディーチェが仕掛ける。剣を大きく振りかぶり、地面に切っ先を押し当てながら剣を振り抜いた。
その結果、刀身から炎が噴き出す。それはあっという間にゴーレムの足へと到達し、さらに体の半ばまで炎が浸食していく――
が、結果としてはそれだけだった……やはりダメージはゼロ。単独で対抗するのは難しいだろうな。
それに対し、次に仕掛けたのはセルガ。クオト達が反対側にいるため、ゴーレムの背へ向けて両腕に集めた魔法――雷属性の魔法が解き放たれた。
先ほど交戦していた魔物に対して作ったものよりも大きく……ゴーレムは気付いたのかわからないが、とにもかくにも直撃した。雷特有の弾ける音が耳へと入り、近くにいた天使リリトが耳を塞ぐほどだった。
まるで落雷でもあったかのように全身雷光に包まれるゴーレム。ダメージはおそらく与えたはずだが、それを外部から確認するのは難しいか。
「デヴァルスさん、今の攻撃によってどの程度傷を負わせた?」
「わからないがゼロってわけじゃない。もっとも、撃破には遠い雰囲気だが」
ゴーレムが体を反対側に向けようとする。セルガは第二波を放とうと用意していたみたいだが、体を徐々に向けようとするのを見てか一度動きを止める。
するとそこで反応したのは、クオトやディーチェ。魔力を発し威嚇すると共に、風や炎を発しゴーレムの体へ当てていく。
それによりゴーレムも反応……ふむ、これは、
「どういう行動をとるのかっていう命令は、それほど複雑じゃないのか?」
「ああ。近しい魔力の持ち主を狙うようになっている」
ということは、このまま交互に仕掛ければ……と思っていたが、仲間達の魔力の方が底につきそうだな。
ならば、残された手は――
「こっからが見所だ」
そうデヴァルスは呟いた。
「ルオンさんやソフィアさんもある程度推測はしているだろ?」
「はい、なんとなく」
ソフィアが口を開いた。
「あの敵を破るには、強力な攻撃手段が必要。エイナ達は今回の戦いで経験値も増えているようですが、あの敵を倒すには至らない。ならば手段は一つ。すなわち――」
「連係攻撃ってことだな」
俺の発言にデヴァルスは「その通り」と答えた。
一人で駄目なら二人。二人で駄目なら三人……仲間達が協力できればゴーレムの防御を突破できるかもしれない。
しかし、当然ながらそんな連係はやったことがないだろう。この場ですぐにというのはさすがに厳しすぎる。
「できると思っていますか?」
ソフィアがデヴァルスへ問う。すると、
「その可能性もゼロではないだろ。というより、それができないと敗北するんだが」
身もふたもない発言。この場で突然やれと言われても難しいのではないか――
事の推移を見守っていると、セルガの第二射が放たれた。相変わらずゴーレムの背に直撃し、鎧を大きく軋ませる。
とはいえそれも決定打にならない。どうする――
と、ここでアランが声を上げた。どうやら仲間達に指示を送っている。するとディーチェとクオトが下がりアランが前に出た。
さらに、セルガが新たな魔法を構築しようとしているが……ゴーレムはそれを無視した。相対する仲間達が変わった動きをしたからだろうか。
いや、それよりも……ロミルダもまた魔力収束をし始め、その魔力量を警戒すべきだという認識なのか。
「同時攻撃だな」
デヴァルスが呟く。セルガとロミルダの同時攻撃――しかも挟撃するような形。これならいけるかと思ったが、デヴァルスの見解は違うらしい。
「うーん、もう一押し欲しいな」
「二人だけでは足らないと?」
「アイツの魔力障壁を突破するには、とにかく一瞬でも良いから強力な力を引き出さないといけない」
「単純な同時攻撃では駄目ってことか?」
「そうだ。断続的に攻撃するのではなく、一斉攻撃が望ましいな」
ふむ、属性相性などにもよるが果たして……?
と、ここでクオトとディーチェがまったく同時に剣を振った。そこから生み出したのは炎と風。両者が混ざり合い、一個の竜巻となってゴーレムを拘束するようなイメージだろうか。
それを本当に狙っていたかどうかは不明だが……予想通りの結果となった。炎と風が混ざったかと思うと、それらはゴーレムに直撃しその体に炎熱の刃を食らわせる!
「お、今のはいいな」
デヴァルスも呟く――と、そこへロミルダとセルガの攻撃が放たれた。
しかもロミルダのは想像していたのとは異なる、巨大な紫色の槍――直撃。光が生まれ、さらにセルガの雷光により弾ける音が聞こえてきた。
見事――彼らもこうして攻撃しなければ通用しないとおそらく考えたのだろう。
「今のはどうでしょうか?」
「同時攻撃で魔力障壁を大いに削いだのは確かだ」
ソフィアの疑問にデヴァルスは考察する。
「全員の攻撃が融合するとかではないが、それでも魔力障壁に影響を与えるだけの威力を出すことができた……が、決定打にはならないか?」
――俺はここでゴーレムを倒せるだけのものが一つだけあると考える。それは、
刹那、ロミルダが魔力を発する。それは今までと比べても一際大きく、戦場全体を響かせるほどのもの。
「……デヴァルスさんにはロミルダについて説明したよな?」
「竜に関する武具を持っていると。この魔力はそれか」
「彼女はまだ発展途上であり、武具についてもこれからしっかり学んでいかないと駄目なわけだが……それでも力を引き出せば驚異的な威力になる」
「これは、個人技で敗北するか?」
そんな予想をデヴァルスが立てた瞬間、ゴーレムが動いた。一際大きい魔力に対し腕を伸ばす。
だがそこへ、クオトとディーチェがカバーに入る! 風が舞い、炎が吹き荒れる。先ほどと同様二つが融合した攻撃により、腕を押し留めることに成功する。
するとセルガも足止めに方針を切り替えたか、さらなる魔法は光の帯だった。それはゴーレムの背後から体に巻き付き、動きを制限する。
もっとも、その巨体と魔力量故に稼げる時間はそう多くないはず……宴の上位三人が食い止める中で、ロミルダは一挙に魔力を解放する。
さらに高まった魔力。それが形を成して一本の巨大な槍となり――ゴーレムへ向け、放たれた。




