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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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演習最大の敵

 新たな敵――地中から出現したのは相当巨大な存在であり、巻き上がった土砂は俺達を超えるほど。その周辺は土煙によって見えなくなり、すぐに実体を伺い知れない。

 さらに増援として現れた魔物達は動かず仲間達に威嚇を示す。ここで元々戦っていた分の魔物が全て滅ぶ。とはいえ休んでいる暇はない。全員戦闘態勢を整え、次に現れた敵――大ボスを迎え撃つ。


 しかし、


「……あの、能力を確認するだけなのにずいぶんと気合い入っていますね」


 ソフィアが感想を述べる。やがて土煙が晴れその先に見えた存在を確認し、俺も同じことを思った。

 それはどうやらゴーレムの類いらしいが……俺が最初に連想したのは巨大ロボ。ゴーレムと言えば石を素材としているが、目の前の存在は鉄のような光沢のある素材で形作られている。


 それは超巨大な全身鎧のゴーレム。頭部もフルフェイスの兜で覆われており表情はわからないが……いや、そもそも顔があるかどうかも不明だな。

 その大きさは……ビル、十階分はあるんじゃないだろうか? とにかくデカい。この世界に転生し高い建物とかは城くらいしか見なくなったが、真正面の敵は高台に立たなければ間違いなく見上げるような存在だ。


「そりゃあ宴の上位が名を連ねる戦いだ。こっちも相応の用意はしないといけないだろ」


 と、デヴァルスが言う……そこで俺は一つ質問。


「あれをそのまま天魔との戦いで運用するとかは……」

「魔物の巣は基本森だから動きにくい。平地で戦闘する場合は無駄に被害が大きくなる」


 言われてみればそうか。


「そもそも堕天使相手にデカさが通用するとも思えないからな……あれだけ巨大な存在を活用するにはこういう場所しかないんだよ。天界の本拠地の防衛に回すわけにもいかないし」


 デヴァルスが語る間に敵――ゴーレムが動き出す。一歩足を踏み出し地面に接地した瞬間、ズドンと重い音が響き振動すら感じた。


「さて、お仲間達はどう出るかな?」


 非常に楽しそうに呟きながら観戦するデヴァルス。なんというか、その様子に俺は頬をかきながら、


「一応尋ねるけど、これは能力を検証するんだよな?」

「もちろんだ」

「にしてはずいぶんと楽しそうだな」

「そうだな」


 同意するのかよ。横を見ればネルとリリトが苦笑している姿。

 一方ソフィアはじっと戦場を見据えている。そんな彼女に俺は、


「何を考えているんだ?」

「……私ならどう戦おうかと」


 生真面目である。これ以上の問答は無意味かと思いながら視線を戻した時、ゴーレムに駆けていく人物が……クオトである。


「ずいぶんと速いな」


 猛然と突き進む彼は、ゴーレムの前に立ちはだかる魔物をガン無視する。そしてさらなる一歩を踏み出そうとしているゴーレムへ向け、跳んだ。

 見事な跳躍。その狙いは――右膝。足を狙い倒そうって目論見か。


 そして彼の斬撃が――入る。だがゴーレムにとってはビクともしない。


「下半身はずいぶんと強化したからなあ」


 これはデヴァルスの発言。


「魔力障壁もずいぶんと硬いし、これはさすがに苦労するかな?」

「鉄壁ってことか?」

「そうだ。ルオンさんやソフィアさんなら太刀打ちできると思うが、戦場にいる面々は果たしてどうかな?」


 ――天魔などを相手にする上で、攻撃が通用しなければ話にならないことから、対抗できる能力があるかどうか、それを見極めようとしているらしい。

 もっとも、これはやり過ぎなのではとか思うけど……考える間にゴーレムはさらに一歩。進み具合は非常にゆっくりだが、巨大故に歩幅も大きいためわずか三歩で仲間達とかなり距離を詰めている。


 広い戦場であるため、逃げることは可能だが……と、ここでセルガが魔法を収束させ始めた。

 そしてどうやら指示を出した。他の面々が動き始め、その狙いは――ゴーレムより前にいる魔物達。


「まずは魔物を処理だな」


 セオリー通りかな。するとセルガが手始めに魔法を撃ち出した。それは人間を飲み込むほどの大きさを持つ大砲のような雷撃。それが魔物に当たり、悲鳴を上げさせる。

 とはいえまだ終わっていない……魔物の巣にいる敵の大半はこれで決着ついただろうが、この戦場にいる魔物は生き残っている。


「というか、あの魔物相当硬いな」

「そういう風に作りましたからね」


 ネルが言う。天使の力にしろ、結構なリソースを注いでいそうな気がする。

 会話の間にもゴーレムがまた一歩近づく。徐々に接近してくる様はこちらに畏怖を与え、仲間達も残る魔物の殲滅を急ぐ。


 もっとも数は先ほどより少ないし、連携すれば勝てる……その予想は当てはまり、セルガと共に戦っていたアルトとキャルンの二人は、セルガが攻撃した魔物へ追撃し、見事討ち果たす。

 残りは……仲間達の所まで戻ったクオトと、ロミルダが一体の魔物に集中砲火を行い、撃破。さらにアランが単独で倒し、ディーチェとエイナがイグノスのアシストを受けつつ撃破する。


 連携も上手くできるようになり、この調子なら魔物の巣へ飛び込んでも余裕だろう……と、ここでとうとう残るは巨大なゴーレムだけになる。


「さて、どうするかな?」


 相変わらずニヤニヤしながら観戦するデヴァルス。何が楽しいのか……。


「あの敵は相当頑張らないと撃破できないからな」

「そんなに防御力が高いのか?」

「さっきクオトさんが足を狙ったが効かなかったように、特に下半身とか関節部分とかを強化している。さすがに足が吹っ飛んで動けないなんてオチは避けたいからな」

「……関節強化の意味はあるのか? あれ中身空か魔力の塊だろ? 胴体とつながっていれば動けるんじゃないのか?」

「駆動部分は重要だからな。俊敏に動くためには絶対に守らないと」

「俊敏、ですか」


 ソフィアが呟いた。


「今のところゆっくり動いていますが」

「それはフリだ。見ていればわかる」


 仲間達はゴーレムと対峙し待つ構え。先頭に立つのはディーチェとクオト。その一歩後ろにアランとロミルダがいて、その隣にアルトやエイナ、一番後方にセルガとイグノス。さらに護衛なのかキャルンがいる。

 護衛といってもあれだけ巨大だとあまり意味はないかもしれないけど……もし俺なら遠距離から魔法を撃って様子を見るかな。どれだけの強さなのかわからないし――


 その時だった。これまでゆっくりだったゴーレムの動きが、速くなる。


 突然、走り出した。地響きを上げながら進む姿は恐怖以外の何物でもなく、戦場に立っている仲間はどのように思ったか――


 全員まず左右に散開した。ゴーレムは拳を振り上げ勢いよく振り下ろす。地面に着弾と同時、轟音が周囲を満たし、地震でも起こったように足下が揺れた。


「おい、あれ直撃したらまずいだろ」


 俺の言葉に対し、デヴァルスは首を振る。


「もし標的がいても、寸止めするように命令はしてあるから」


 本当か……? 疑わしかったがそれ以上訊けないままさらなる轟音と振動。見れば左右に逃れた片方に拳を振り下ろしていた。

 攻撃したのは俺達から見て右側。そこに先頭に立っていたクオトとディーチェの二人が。その後方にはロミルダと、アラン。


 残りは反対側にいて、セルガが魔法準備を始めた。それに気付いたかクオトとディーチェが気を引こうと魔力を発した。


「それじゃあ――倒すとするか!」


 クオトの叫び声が聞こえた。やる気は十分……同時、ゴーレムとの戦いが始まった。


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