さらなる進化
状況は一気に変化し、ソフィアとレスベイルが肉薄。剣を振ったのはまったくの同時。
刹那、凄まじい金属音が訓練場に鳴り響く。勝負の結果は……拮抗。ソフィアの細腕が、二回りも大きい鎧天使の刃をしっかり受け止めている。
ただそれは耐えているなどという表現は似合わず――次の瞬間、ソフィアがむしろ押し返し始めた。ジリジリと地を踏みしめるレスベイルの足が、動いていく。
レスベイルを操っているデヴァルスも抵抗できないような状況。ソフィアの技量的に弾こうとすれば逆に押し込まれるだろうし、退こうとすれば間違いなく追撃がやってくる。こうなってくると考えられるのは――
レスベイルを操るデヴァルスが腕を振った。直後、レスベイルは後退。距離を置こうとしたようだが、ソフィアは追撃。再び肉薄する両者。
そしてソフィアの剣戟が炸裂。刃がしかと鎧に入り――するとここで彼女が握っている剣が、光り輝いた。
「これで――」
終わり、などと告げたのかもしれなかったが、それより先は口にしないままさらに力を込めた様子。
先ほど以上の輝きを一瞬で構築する。おそらくソフィア自身『スピリットワールド』の魔力収束速度が遅いと感じ、それを克服するべく鍛錬を続けていたのだろう。その成果が現れ、この戦いによってようやく日の目を見た。
それにより――レスベイルの鎧がとうとう砕け、大きく軋ませる!
「さすがだな……!」
これにはデヴァルスも驚愕の声を発した。肝心のレスベイルは右腕が潰れていないので剣は振れるが、俺の目から見ても明らかに魔力が乱れている。
ソフィアは当然、これを勝機と悟る――なおも執拗に仕掛けるソフィア。とはいえレスベイルも魔力障壁を厚くし、乱れた魔力においても彼女の剣を弾いてみせる。どうやら今の状態でも生半可な一撃は通用しないらしい。
ただそれはレスベイルも同じだった。大剣が時折ソフィアの体を掠めるが、ダメージは一切無い。彼女もまた魔力障壁が強化されたことにより、斬撃に構わず攻勢に出ることができる……最初はそう思ったが、少し違うような気がした。
絶えず斬撃を決めるソフィアに対し、レスベイルは時折反撃する程度。だが明らかに相当な魔力を乗せている一撃もあるのだが、それについては彼女も剣で弾くか避けている。
どうやら威力によってどうするかを見極めているらしい……これはもしや――
「ふっ!」
ソフィアが剣を見舞う。気付けばレスベイルはさらに損傷していた。彼女が有利な状況だが、鎧天使は体力などを気にする必要はなく、どこまでも戦い続けることができる。無論それは永遠という話ではないが、人間が「勝てない」と悟らせるくらいに長い時間ではある。
当然それはソフィアも気付いているはずで――さらに剣速を高める。短期決戦に持ち込むつもりか、苛烈なほどレスベイルへ接近する。
間違いなく決着はそう遠くない。ソフィアもそれを認識するように刀身には一際大きな光が宿る。
デヴァルスは腕を振って対抗……真正面から受ける構えなのか、レスベイルはその場で防御の構えをとり、魔力を高めた。
これで――ソフィアの剣が決まる。打ち据えた一撃に対し、レスベイルはさらに鎧を損傷させながら耐えた。
だが……ボロボロと鎧の破片が地面に落ちる。魔力の乱れは一層増し、今度は上手く魔力障壁を構築できない様子。
限界であるのは誰の目からも明らかだった。途端デヴァルスは振っていた腕を振り下ろす。
「終了だな……ソフィアさん、質問してもいいか?」
「どうぞ」
「鎧が損傷した後のことだ。時折レスベイルの剣にはそれこそソフィアさんを一撃で倒しうる大技があった。それを反撃に紛れて放っていたのだが、その際はまるで示し合わせたように剣を避けるか弾いていたな」
「ディーチェの能力、だろ?」
俺が問い掛ける。ソフィアは「そうです」と返答し、剣を鞘に収めた。
「あの方のように精密にとはいきませんし、まだ相手の動きを予知することはできませんが」
――ディーチェの能力は目に魔力を集め、相手の魔力量を細かく捕捉。それをさらに進化させ敵の動きを事前に察知できる。
「ディーチェと会ってから彼女の能力を真似て鍛錬をしていたと」
「はい。魔力の多寡を正確に把握できるだけでも、戦いに役立つかと思いまして」
女子会とかしていたからな。それを通して色々と教えてもらっていたのだろう。
実際、先ほどの戦いではそれが遺憾なく発揮された。ソフィアは自らの判断で当たったらまずい攻撃と問題ない攻撃を切り分けていた。それにより攻勢を強めることができ、最終的に短期決戦で勝つことができたのではないか。
魔力障壁強化と観察眼……この二つは防御系統の能力向上に当たるが、その結果攻撃力も増したわけだ。
「うん、確かにソフィアさんにはその手法が合っていそうだな」
デヴァルスが言う。そこでレスベイルが消えた。
「これで一勝負終わり……ルオンさん、どんな感想だ?」
「ソフィアの攻撃を耐えることができたのは大きな進歩だと思うよ。あとはレスベイル自身が攻撃を受け止めることができるかを判断できれば」
『それは我が担おうか』
と、ガルクが発言した。
『レスベイルの中に宿り、どうすべきかを判断する。指揮権はルオン殿が持っていることに加え、我の力もそう多くないためできることは限られているが』
「お、それはいいな」
『しかし諸刃の剣でもあるぞ。もしレスベイルが消滅したら、分身の我も巻き込まれるからな』
「了解。確実に強化はできたな」
こっちはひとまずこれで問題なさそう……するとデヴァルスが一つ提案をする。
「それじゃあ今度は仲間の様子を見に行くか?」
「そういえば、ロミルダが色々と言っていましたね」
ふいにソフィアが発言する。
「宴の上位の方々の戦いぶりを見て、何か思いついたようですし」
ロミルダが、か。ふむ、少し興味があるな。
「あの子自身、まだ自分の力を完全に制御できているわけではありませんから、今回の戦いを通し、その辺りを改善しようとしているのかもしれません」
「俺達に相談してくれてもいいのにな」
普段あまり自己主張しないわけだし……。
「よし、わかった。デヴァルスさん、案内してもらえないか?」
「もちろんだ。リリトもついてくるか?」
「はい。ネルの活躍も気になりますし」
ネルの? どういうことなのかとデヴァルスに視線を向けてみると、彼は苦笑した。
「ネルの友人なんだよ……場合によってはライバルにもなるが」
「今回から私も頑張りますので、よろしくお願いします」
……競い合っている感じだろうか?
「ああ、うん。よろしく……場所はどこだ?」
「ここからずいぶん離れている。宮殿の外に転移魔法が設置してあるから、それを使って向かおう」
デヴァルスが先導し始める。残る俺達はそれに追随し、宮殿の外へ出た。少し歩くと魔法陣が設置されており、デヴァルスは出て促す。
「それじゃあ行こうか」
彼の言葉に従い、魔法陣の中へ……次に見えたのは、高台。
眼下に広大な草原が見えた。一瞬最初に訪れた城のある場所かと思ったが、どこまでも草原は広がり建物の類いは一切見受けられない。
背後を見ると、どうやら高台の奥は崖になっているらしい。おそらくその下は雲と青い空が広がっていることだろう。
視点を戻す。ソフィアやリリトが隣に立ち、下を眺める。
そこは――戦場と化していた。




