王女と天使の強化
俺とソフィアはデヴァルスを見据え言葉を待つ。やがて彼は深刻な顔を示し、話し始めた。
「いざとなれば敵方の総大将……ロスタルドを俺が仕留めるプランも考えていた。だが堕天化なんてシャレにならないものを持ち出してきた以上、それが難しい。さすがに俺も廷臣に反対されるだろうし、今後は天界から出ることも止められそうだ」
心の底から同意する。デヴァルスが堕天化するなどという事態は、元に戻せるにせよ絶対に避けねばならない。
「そこで、だ。天使ではどうあがいてもリスクがある以上……ルオンさんに託すのが一番ではないかという結論に達した」
……ヴィレイザーを打倒した実績などを考慮したんだろうな。
「とはいえ、ルオンさん問題もある」
「そうだな」
「解決のためにこちらも動いているが、それよりも前にもう一歩、強化しておくべきだろうと思ったんだよ」
「それで俺を残したと。ソフィアは?」
「ルオンさんを除けば彼女が最高の戦力だ。二人にこういう役回りを任せるのは申し訳ないが――」
「私は平気ですよ」
と、ソフィアは微笑さえ浮かべて応じる。次いで俺も頷く。
「ああ、協力を約束したからな」
「……すまないな。戦いが終わったら、報酬以上に何かしら礼をさせてもらう」
そう述べた後、デヴァルスはさらに続ける。
「では話を進めよう。二人の中にも強くなるためのプランはあると思うが、それを少しでも促進できればと思う」
「何をするんだ?」
こちらの疑問に彼は意味深な笑みを浮かべ、
「ルオンさんの方は鎧天使の強化。こっちは俺が協力しよう。ソフィアさんについては別の天使に任せる。後で紹介するが、その目的は身体強化法の向上だ」
「向上、ですか?」
問い返したソフィアにデヴァルスは視線を合わせ、
「ルオンさんは攻撃面、ソフィアさんは防御面に不安を抱えている。もっとも防御が万全なルオンさんはやりようもあるんだろうけどな……ともあれ二人の弱点、というより足りない部分を俺達が補う。この数日で」
そう述べると、デヴァルスはやれやれといった様子で肩をすくめた。
「ここだけの話だが……ヴィレイザーとの戦いの際、ルオンさんに色々と協力したと思うが、多少なりとも距離を置けと言われていた」
「距離を置け? 誰に?」
「廷臣達だよ。天界の統治を任せる天使達。ヴィレイザーとの戦いである程度力を増強させるのは納得したが、それ以上に踏み込むことは賛同しなかった」
「……俺のような存在を危惧しているってことか?」
「天使の中には、人間に力を渡すことを忌避している者がいるってことだよ。元来天使という存在は閉鎖的だからな」
そう語ると、デヴァルスは俺を真っ直ぐ見据え、
「だが、天界も変わらなければならない。大戦を通し多くの天使が息絶え、そして堕天使が天界を脅かそうとしている……正直なところ、天使側が人間に協力を求めている立場であり、強くは言えない。その状況下で文句を言う天使がいる。そういう話さ」
「そうしたことを、変えたいのか」
「まあな。堕天使との戦いをきっかけにそう思ったわけじゃない。大戦が終わり、俺なりに考えた結論だ。人間と共存していくことが、天界を発展させていく上で重要だと俺は信じている」
デヴァルスはそこまで言うと、苦笑した。
「ま、実際のところはこっちが苦しいから助けてくれって話なんだが」
「身もふたもないですね」
ソフィアの感想。デヴァルスは「違いない」と破顔し、
「今回のこともあり廷臣達もようやく完全に認めたってわけさ。さすがに天使が全て堕天化するような事態は避けねばならないし、次の戦いまでに備えておかないと」
「ヴィレイザーの時と比べてさらに強化するってことだが……具体的には?」
「まずルオンさんの鎧天使に、天使の力を注入する。これは力を集中させて問題ないかという実験の意味合いもある」
「いずれ天使の力を結集させた武具を作るために、か」
「そうだ。鎧天使にその力を注ぐことにより、攻撃防御共に強化できるな」
そう都合よくいくのか……? 疑問はあったが天界の長が言うのだ。期待してもいいか。
「というわけで、早速指導開始だ」
「他の仲間については?」
「複数の天使を派遣しているから問題ない。頃合いを見計らって様子を見に行ってもいいな。さて、二人は俺についてきてくれ」
そういうわけで、俺とソフィアはデヴァルスに案内され、宮殿内を歩き出した。
辿り着いたのは宮廷の端にある訓練所。広さはそれなりで、剣を打ち合いくらいなら並んで十人くらいはできるような規模である。
そこで天使が待っていた。女性で、セミロングの青い髪が特徴。童顔でどこか子供っぽさもある愛嬌のある顔立ちで、身長はこの場にいる誰よりも低い。
「彼女が指導役?」
デヴァルスに問うと彼は頷き、
「そうだ。名はリリト――待たせて済まなかったな」
「いえ、平気です」
笑みを伴い応じる天使リリト。ふむ、人当たりがよさそうだ。
「では、ソフィア様はこっちに」
手招きする彼女にソフィアは近づく。
「防御面の強化とのことですが」
「はい……では早速始めましょう。魔力障壁については戦いの最中常時発動させていますよね? そのやり方を工夫し、また渡した天使の武具を活用すれば、現状でもかなり障壁の強度が上がるのです」
そこから怒濤の説明が始まる。大丈夫なのかと一瞬考えたが、ソフィアは話を飲み込めているようで、頷きながらリリトの解説を聞き続ける。
「それじゃあルオンさん、こっちもやろうか」
デヴァルスの言葉。俺は頷きながらレスベイルを真正面に生み出す。
「与える力については、既に用意してある」
デヴァルスはそう言いながら懐から何やら取り出した。それは手のひらに乗るくらいの大きさを持った青い石。
「一気に注ぐと鎧天使にもダメージがいく可能性があるから、少しずつ注ぐぞ」
「それでいいと思う。俺は何もしなくていいのか?」
「見守っていてもらえればいよ。異常があったらすぐに言ってくれ」
「わかった」
デヴァルスとレスベイルが向かい合う。次いで鎧天使へ彼が青い石を差し出した。
すると、石が光り始める。そのまま石を離れ光だけがレスベイルの体の中へと入って行く。
「……終わりか?」
「いやいや、まだだ」
俺の言葉をデヴァルスは否定する。
「力は注いだが、これで終わりじゃない。加えた力をしっかり扱えるようにしなければ。鎧天使は神霊の力を利用しているんだろ? まずそれと干渉し合わないように制御し、やがて融合するような形にもっていきたいところだな」
『我の出番か』
ガルクが突如口を開く。
『きちんと加えられた力が問題ないかと、体の内側から我が調べよう』
これで盤石かな……それから少しの間レスベイルを動かしたりして問題ないかを試してみる。ただ変化は一切無いし。実戦でやらないとわからないか?
「説明は一通りしましたよ」
そこでリリトの声。次いで彼女は一つ提案した。
「ここからは実戦形式の方がいいでしょうか」
「ならルオンさんの鎧天使とソフィアさんが試しに戦ってみたらいい」
レスベイルと、ソフィアが?
「一度はこうして試さないと」
「ならやりましょう」
ソフィアが言う。既に戦闘態勢へと入っている。
ふむ、それなら……俺はレスベイルに指示を送りソフィアと対峙する。
こうして彼女と天使を利用し決闘するのは始めてだな……そんなことを思いながらレスベイルが大剣を構える様を眺める。
説明を受けただけでその力が発揮されるのか……胸中の疑問をよそに、早速戦いが始まった。




