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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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天界の長の頼み

 翌日、ロスタルド側の敵と戦うことになるまであと数日……そんな中、朝に宮殿内で呼び出された。

 場所はエントランス。そこへ赴くと、デヴァルスが立っていた。


「どうしたんだ? 昨日の件か?」

「ああ。ここにいる人達には申し訳ないが、協力してもらおうかと」


 ……エイナなんかは喜んで協力するだろうな。もっとも、実力的に大丈夫かと不安な面もあるだろうが。


 この場には俺が最初に来たようで、他の人はいなかったが……やがてエントランスに現れ始め、全員が揃ってからデヴァルスは話し始めた。


「昨日、既に通達はしているはずだ。新たな敵が現れた。堕天使ロスタルドの配下で、人間型の魔物とでも言えばいいか……ここでは天魔としておく。その実力は不明瞭な点も多いが、天使を堕天化させる力を持っているようだ」


 その言葉により、一同表情を引き締める。


「つまり、主戦力たる俺達が非常に厳しい立場に晒されてしまったわけだ。これについては適切な対応策をとるべく動くが、原因の解明が難しいため、時間が掛かるだろう。その間、君達には天魔打倒に協力してほしい」

「参加する人間はここにいる俺達だけなのか?」


 こちらが問い掛けると、デヴァルスは首を左右に振った。


「運営側にも連絡を行い、騎士なんかを派遣する段取りを整えた。無論、天魔に対抗できると思しき人員だな」


 その中には宴の二位に位置する騎士も入っていそうだ。


「それと、他にも協力者がいる……先日仲間になった堕天使アンヴェレートだ。彼女にとってもこの事象は不可解らしい。謎は深まるばかりだ」


 ロスタルド固有の能力、ということだろうか? どういう理屈にせよ、この問題については是が非でも解決しなければならない。


「なぜ堕天するのかプロセスが現段階では不明だから、天魔が現れたからといって迂闊に天使を派遣するわけにもいかない。ルオンさん達と手を組んだ天使シェンは天界でも上位の実力者だ。そうした天使ですら堕天した以上、堕天はどんな天使にも起こりうると考えるべきだ」

「よって、俺達を始めとした人間が対応するってことだな」


 ――前世の記憶を持つアランが言うには、こうした衝突で天使に結構な被害が出た。おそらく同じような手段で天使側の戦力を削っていたのだろう。むしろこうした切り崩しがあったからこそ、被害が拡大したと捉えるべきか。


「天使は今回サポートに回る。立場が逆転してしまい、なおかつ唐突な要求になるが……頼む」


 俺達は一様に頷いた。そんなことは極めて当然の話だから。


「すまない……では、これから天魔と戦うまでの数日間、君達の戦力強化を行いたい」

「そう時間もないだろ。具体的にはどうするんだ?」


 アルトが訊くと、デヴァルスは彼を見返し、


「人間なら堕天することがないとくれば、残る問題は天魔の力だ。ルオンさんやソフィアさんについては問題ないが、他の面々はどうだ?」

「私は、力不足であると考えている」


 エイナが答える。次いでアルトとキャルンやイグノスも賛同の意を示した。


「エイナさん、確認だがそれは単独で、という話だな?」

「ああ、そうだ。連携できれば勝算はあるかもしれない」

「組みたい相手とかはいるか?」


 当然ソフィア――かと思ったが、彼女は「特にいない」と答える。


「そちらに案があるのなら、従おう」

「了解。どうするかは考慮させてくれ」


 そこまで言うとデヴァルスは腕を組んだ。


「次、相手が動き出すまであと数日しかない……いや、これも現在判明している情報を基にしているだけで、実際は今からやってきてもおかしくない。この数日間、気を引き締めてくれ」


 チラッとアランを見る。彼はデヴァルスに同意するのか小さく頷いていた。


「俺達で成敗できればいいんだけどな」


 クオトが口を開く。大型の魔物を倒すことができる以上、彼やディーチェなら十分勝機はあると思うが……。


「天魔に対する方策だが、チームを組んで動いてもらう。人数的には三人一組くらいにしたいところ」


 ……現状、こっちは十二人。ただリチャルを戦力に加算することは難しいため、十一人……イグノスやキャルンは能力として一歩劣るし、この辺りも考慮に入れなければならない。


「よってまずは戦力分析からだ。これまでの戦いに加え再度能力を検証し、誰と誰を組ませるかを決める」


 ……アランはどうするんだろう。デヴァルスのことだから何かしら手は打つと思うけど。


「あ、ルオンさんとソフィアさんはこの場に残ってくれ。それとリチャルさんもいいか」

「悪い」

「無理矢理戦わせるわけにはいかないからな。そっちはそっちのやれることをしてほしい。というわけで、ネルについていってくれ」


 ゾロゾロと仲間達は入口から出ていく。ロミルダもソフィアに言われ、タタタ、と他の面々の後に続いて外へ出た。


「仲間達はネルに任せてくれ」


 と、デヴァルスは言う。


「さて、二人は十分だし検証はいらない。よって、別のことをやってもらおうかと」

「その前に、アランさんは大丈夫なのか?」

「数日後来る敵は三組だ。アランさんは控えに回そうかと考えているから、ひとまず問題はない……もし動かすとなってもアンヴェレートあたりと組ませれば」

「……その扱い、どうなんだ?」


 宴の一位と堕天使だから盤石そうだが、アランにとって心象はよくなさそう……こちらの意見にデヴァルスは笑った。


「あくまで一つの候補ってことで。それじゃあ話は変わるが堕天化なんて事態に発展した以上、こちらとしては相応の対応をせねばならない」

「厳しいですよね」


 ソフィアの言及にデヴァルスは「まさしく」と応じる。


「全容がわかっていない上に、調べようにも天使がまともに手出しできないからな……今回天使も援護に回るためそれなりに対策を施すが、もし効果がなかったらかなり面倒なことになる。もしもの場合、二人にはフォローをいれる役目を頼むかもしれん」

「俺達は構わないよ」


 こちらの言葉にデヴァルスは「すまない」と告げた。


「二人には世話になる……また、もう一つ懸念がある」

「懸念?」

「ロスタルドの部下によってこうなった……目標であるロスタルドが同じような能力を持っていても不思議じゃない」

「それはそうだな」

「例えば俺なんかを堕天化させるために色々やるって可能性もゼロじゃないな」

「もしロスタルドと出会ったら、デヴァルスさんが堕天使になるかもしれないってわけか……」


 総大将を前線に立たせるのはまずいので、本来そういう形にすること自体駄目なのだが……天界を脱せばいつ何時堕天化を狙ってきてもおかしくないな。


「敵はなぜ今まで使ってこなかったのでしょうか?」


 ここでソフィアの疑問。うん、こんな便利な能力があればヴィレイザーとの戦いで使っていてもおかしくないが――


「このタイミングで技術が完成したと捉えるべきかな」


 俺が口を開いた。


「あるいは、実験途中だった技術をヴィレイザーが倒されたことにより持ち出したか」

「戦力を減らされたんだ。その穴埋めに利用しようなんて魂胆なのかもしれん」


 俺の意見にデヴァルスが続く。


「ヴィレイザーが滅び、天界侵攻をするにしても戦力が目減りしてしまった。それを補強するために堕天化する技術を使った……偵察の天魔にそれを与えたのは実験ってことかもしれない。うん、一応筋は通る」


 なおかつこっちの戦力を削れる。まさしく一石二鳥。


「堕天化についてはこちらでどうにかする……ルオンさん達には別のこと……重要なことを託したい」


 そう語るデヴァルスは、俺とソフィアに真剣な眼差しを見せた。


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