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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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戦士と異変

 現場は草原地帯の一角、森を右手に見ながらの場所。そこで複数の天使と対峙する、一人の戦士の姿があった。


「援軍か」


 相手が呟く――漆黒の鎧を身にまとった偉丈夫であり、その目つきは鋭くこちらを食い殺そうかというほどのもの。


「大層面倒なことになった……しかも多いな」

「逃がすつもりはないぞ」


 威嚇するようにシェンは告げ、臨戦態勢に入る。放たれる気配は相当なもので、なるほど今回の調査でリーダーをやっているのは納得できる。


「おとなしくその目的を吐いてくれれば、逃がしてやってもいいが」

「妙に優しいな。とはいえさすがにこちらの目的を教えるわけにはいかない」


 ……冷静に応じる漆黒戦士。ふむ、間近で観察すると確かにデヴァルスが言っていたように魔物の気配を漂わせている。


 もっとも、その魔物の気配は例えば大型の魔物と比べてずいぶんと薄い……隠しているのだろう。天使達もそれをわかっているのか、漆黒戦士を注視し動かない。

 俺であれば一撃で……いや、従来の魔物と比べ力をつけた存在である以上、課題を残す俺の全力で倒しきれない場合がある。ならばソフィアで仕掛けるか……?


「攻撃!」


 その時シェンが叫んだ。同時に天使達が一斉に漆黒戦士へと向かう。


 直後、天使達から放たれたのは光の矢――それがどの程度の威力なのか判然としなかったが……相手に着弾直後、凄まじい轟音と光の柱が天へと昇る。

 シェンを除いた天使達の一斉射撃……断続的に攻撃を受け続ければ、おそらく大型の魔物でさえもたないだろうと確信させられる。威力は十分。これで敵の能力をおおよそ推察できるか――


 攻撃が終わる。いまだ光の柱が生じている間に天使達は一度引き下がる。


「ルオン様達も、一度下がってください」


 シェンが言う。ソフィアがどうするのかとこちらへ目を向けてくるが……俺はシェンの言葉に従い後退。ソフィアもそれに応じた。

 これで沈むようなら取り越し苦労なのだが……光の柱が消える。そこにいたのは、


「それほど、強くはないようだな」


 漆黒戦士が呟いた。見たところ、無傷。


「とはいえ、俺の情報を漏らさないようにするためには……この場にいる全員を始末しなければならないか」

「できると思っているのか?」


 シェンが問い掛けながら右手を掲げる。それにより他の天使達が再度攻撃しようと魔力を発する。

 漆黒戦士は動かない……様子見というより、こちらの出方を窺っている様子。


 もしここでシェン達が仕掛けたのなら……よし、


「ソフィア、準備を始めてくれ」

「はい」


 頷いた彼女は剣を強く握りしめ静かに魔力を溜め始める。敵に悟られないよう静かに準備をするのは正解だ。

 俺もまた、レスベイルの準備と魔力収束を開始――その間にシェンから号令が下る。


「放て!」


 その言葉で天使達が再度光の一斉射撃を行う。 再び轟音が生じ、一時視界が真っ白に染まる。

 光の柱がまたも現れ、漆黒戦士を取り巻く……が、おそらくダメージは皆無だろう。 なおかつ相手は――


 刹那、光から漆黒戦士が現れる。相手は突撃を仕掛け攻撃により動きを止めた天使へ狙いを定める――


「ソフィア!」


 叫ぶと同時、俺は一気に天使達の前に出る。次いで剣をかざし肉薄する漆黒戦士を迎え撃つ!


 相手は上段からの振り下ろしであり、それを真正面から受けた。途端、重い感触が腕に伝わり、ギシリと剣が軋んだ音を上げる。

 とはいえ、耐えられないレベルではない……今度は敵が動きを止めた。


 その隙に、横手からソフィアが仕掛ける!


「やああっ!」


 豪快な横薙ぎと共に、一挙に魔力が発される。彼女の切り札である『スピリットワールド』に違いなく、狙いは正確で漆黒戦士へ――当たった!


 直後、光に包まれる――が、さすがに天使の時とは威力が違うはず。なおかつ俺のようにダメージを与えにくいなどという状態にはなっていない。これが決まれば――


「ぐう――!!」


 漆黒戦士が素早く後退を開始する。光に包まれながらも足は動くようで、俺達から間合いを脱し距離を置こうとする。

 だがそこへ俺が追撃する……魔法を起動。光属性最上級魔法である『ラグナレク』であり、ソフィアが発した光から脱し、姿が見えようとしていた漆黒戦士へ向け――容赦なく断罪の剣が放たれた。


 着弾直後、圧倒的な光の奔流が俺達の前方を包み込む。光が渦を巻き衝撃波が地面を走り、ゴゴゴ、と反響音が周囲に響く。


 後方にいる天使達はどうやら驚いて言葉をなくしているようだが……さて、ソフィアの剣戟と俺の魔法。こっちのダメージは多少なりとも軽減されているはずだが、さすがに立て続けに食らって五体満足とは思えない。見た目どの程度損傷しているか。


 光が消える。周囲の状況は一変し、近くにあった木々なども横倒しになっていた。

 そうした中で、爆心地にいた漆黒戦士は俺達を見据えながら立ち尽くしていた。その目から戦意は失われていないが、俺やソフィアを見て強い警戒感を見せている。


 この様子だと、俺達のことは知らないみたいだな……ヴィレイザーが報告しなかったと考えていいのかな?


「……なるほど、ずいぶんと余裕を見せていたが、こういう理由か」


 納得したように漆黒戦士は呟いた。


「これほどの攻撃……使い手としては相当だな」

「そんな悠長に構えていていいのか?」


 俺は左手を突き出し、次なる魔法を放つという意思を示しながら問う。


「今の攻撃に耐えきったのは見事と言いたいが……結構な痛手だっただろ?」


 魔力収束を行い、照準を相手に定める。


「ふん、どうやらここに来たのは間違いだったようだな」


 漆黒戦士はその事実をあっさりと認める。


「だがまあ、終わってはいない。まだ手はあるさ」

「何をする気だ?」


 尋ねながらさらに魔力を高める。ソフィアも剣を構え臨戦態勢であり――打ち合わせをしたわけではないが、俺が敵を縫い止めソフィアがトドメを刺す……そういう思惑だったし、彼女もそれをわかっているようだ。

 さて、相手はどう動く……沈黙していると、思わぬところから変化が生じた。


「ぐ……」


 突如、後方にいた天使の一人がうめき声を上げた。何事かと思った矢先、その魔力が突如、暴走する。


「おいっ!?」


 叫ぶシェン。それと共に漆黒戦士は笑みを浮かべ――そこで俺は、魔法を起動する。


 先ほどと同じ『ラグナレク』だが……刹那、あろうことか漆黒戦士は足を前に出し、突撃を敢行した。それはまるで、事を成すために自らが囮になる――そんな考えを察することができた。

 一体何が――後方が気にはなったが今は目の前の敵。すかさず俺は二度目の『ラグナレク』を行使する。


 それがまたも直撃――いや、両手を突き出し光の剣の先端を、まるでつかむかのように食い止めようとする。


「おおおおおおっ!」


 敵の絶叫がこだまする。その時光が炸裂し、先ほどと同様真正面で巨大な光が渦巻いた。しかし今度はその光を敵が……無理矢理突破した!


 絶叫と共に俺へ肉薄しようとする敵。けれどそれを阻んだのはソフィアだった。渾身の一撃は横から割り込む形で炸裂し、俺へ接近しようとしていた漆黒戦士の体が、吹き飛びまたも視界から消える。

 次いで、相手の魔力が消えゆくのを捕捉する。どうやらこれで終わり――いや、戦いはまだ続いている。


 俺は天使達へ振り返る。ソフィアもそれに追随し――目の前にあったのは、予想していなかった変化だった。


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