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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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天魔の調査

 翌朝、俺とソフィアはネルの転移を受けて天界を離れる。その目的は堕天使ロスタルドの斥候部隊である『天魔』の調査。まあ出会ったら十中八九戦闘になるだろうから、実力について情報収集を行い、撃破ってことになるだろう。


「ルオン様、天魔という存在が動く理由などはわかっているのですか?」


 道中でソフィアが問い掛ける。俺は少し考えて、


「デヴァルスさんの話によると、天魔は大陸中に散らばり何かしら活動するらしい。その目的はわからないが、もし大地に何か仕込むのであれば見過ごせないから、相手が何かをする前に叩いた方が無難かもしれないな。もし天界へ侵攻することが目的だとしたら、天界へ行くための準備か」

「準備、ですか?」


 聞き返すソフィア。


「堕天使は天界へ入ることができない……よって、入れるようにするための準備ということですか」

「そう考えるのが筋だし、デヴァルスさんもその線が濃厚だと語っていたよ……ただ」

「ただ?」


 首を傾げるソフィアに対し、俺は視線を合わせ、


「ヴィレイザーを囮にした節のある相手だ。本来やりたい何かをするための目くらまし、なんて可能性も否定できない」


 ――転生者アランの情報についても、ロスタルドが具体的に何をしようとしていたのか不明瞭であった。彼自身一兵卒であった以上あまり情報を得ていない。よってロスタルドの行動についてどれが本命なのかは調べないといけない。


「天界へ侵攻しようとしているのは間違いない。だからそこに至るまでにどういう行動をするのか……そこをきっちりすることが当面の目標だな」


 といっても、天魔を捕まえ尋問とかもたぶん無理だろうな。そもそもロスタルドに真の目的を教えられているのかどうか……とにもかくにもやるしかない。


 そうしてたどり着いたのは――町に程近く、やや街道から逸れた草原地帯。ネルによるとここは大陸北東部に当たる場所で、周囲に標高の高い山などもなく草原がずいぶんと遠くまで続いているのがわかる。

 周囲には人気もないのだが……ネルにここで待つよう言われ、俺達は草原の真ん中で立ち尽くす。


「アランさんの言う前回は、どのような戦いだったのでしょうか」


 ふいにソフィアが質問。俺はデヴァルスの話を思い出し、


「アランさんの情報によると、ヴィレイザー打倒直後からロスタルドの配下が動いているとわかったため、天使達が動向を調べ始めた。その結果発見したのが天魔だった。遭遇は完全に偶然であり、天使側は半ば虚を衝かれた形になった」

「被害も相当大きかったでしょうね……」

「実際前世ではこの衝突で戦力を結構失っているみたいだ。とはいえ、今回そのようなことにはならないと思う」

「根拠は?」


 ソフィアが訊いてくる。それに俺は、


「デヴァルスさんがそういう遭遇があることを把握しているからな。前世と同じように天魔を動かすのなら、準備さえ整えておけば奇襲されても十分対処できる……そんなところか」

「なるほど、わかりました」


 話をする間に俺は使い魔を生みだし、町へ派遣する……と、ここで町の外へ出ようとする傭兵の一団を発見した。


「……傭兵がこっちに向かっているな。たぶん味方の天使だ」


 しばらく待っていると、その傭兵達が俺達の所まで近づいてきた。


「ルオン=マディン様と、ソフィア=ラトル様ですね」


 そう告げたのはリーダー格の男性。鉄製の鎧を身につけた茶髪の男性。一見すると地味な印象だが、目立たないようにする変装だろう。

 ふむ、ソフィアのことを偽名で呼んだということは、王女であることを知られてないのか偽名で通せと言われているのか……まああまり広まっていいものでもないから、これはこれでいいか。


「確認ですが、天使……ですよね?」


 こちらの疑問に、リーダーは頷いた。


「名はシェンと申します。今回ご協力いただけるということで、感謝しております」


 後方にいる天使達も礼を示す。人数はシェンを含め五人。どの程度の実力かわからないが、デヴァルスが指示して派遣されたのだ。十分な戦力ということだろう。

 前世では奇襲という形だったので被害が大きかったようだが、これなら……もっとも相手の実力も不明だ。油断は禁物か。


「事前にこの周囲を調査しましたところ、多少なりとも魔力に歪みが発生していることがわかりました」


 シェンが話し出す。俺は眉をひそめ、


「歪み?」

「といっても現実にさしたる影響はありません。私達天使達が作り出す天界の扉……それを作るのに最適なポイントだということです」

「つまり、敵はこうした場所から天界へ、と考えていると?」


 こちらの指摘に対し、シェンは首を左右に振った。


「現段階ではあくまで可能性の話です」


 ――しかし、今回の戦いは疑問ばっかりだな。ロスタルドについてもそうだし、アランについてもそうだ。特にアランについてはロミルダの言に端を発しているわけだが……いや、ひとまず疑問はおいておこう。今回の調査で何かわかるかもしれないし。


「現在、他の者が周囲を調査しています」


 さらにシェンは続ける。ふむ、他にも天使がいるのか。


「今のところ敵らしき存在は見受けられません。デヴァルス様から言い渡された敵が出現するポイントはここから少しばかり離れており、現在他の者が監視しているのですが、動きはありません」

「俺達は何をすれば?」

「ひとまず最寄りの町で待機をお願いします。場合によってはそこで数日滞在していただくかもしれませんが」


 長期戦になるかもしれないってことだな……。


「わかりました。俺達は構いませんよ」

「では、こちらへ」


 手で示すのは町への道。俺達は頷き、並んで天使達に追随する。


「わからないことが多いので、心配もありますね」


 ソフィアが不安を吐露する。それに対し俺は、

「そうだけど、少なくともヴィレイザーとの戦いで被害がなかった以上、情勢は俺達の方が有利だと思うぞ」

「だといいのですが」


 彼女も内心漠然とした不安を抱いている様子……何かしら予感しているのかもしれない。この戦いが一筋縄ではいかないことを。

 その後町へと入り、天使達に言い渡され宿へと入る。ここからは敵の出方次第で状況が変わってしまうので、どこまでも待つ可能性はある。


 もし別の場所で事が起こったら……まあその辺りネルやデヴァルスが対処するだろうし、もしもの時は俺を呼び出すかな。

 そういうわけで敵が来るまで待つことになったわけだが……昼が過ぎ、夕刻前の時間帯となって、変化が起きた。


 部屋にシェンがやってきて、一言。


「見慣れない存在を発見致しました。ご同行をお願いします」


 いよいよか……ひとまず期日に出現したのは間違いない。

 俺は頷き、ソフィアと共に宿を出で、町の外へ。


「魔物の気配を漂わせている存在ですが、その見た目は人間と酷似しています」


 どうやらデヴァルスが語っていた天魔という存在で間違いないようだ。


「しかし、その行動はいささか奇妙であり――」


 その言葉の直後、遠くから爆音のようなものが――


「これは、もしや――」

「急ぎましょう!」


 ソフィアの声。俺は頷き、弾かれたように駆けだした。


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