堕天使の部下
「それで、ロスタルドの動きについてだが」
さらに話が進む。次の話題は堕天使について。
「アランさんからちょいと事情を聞いたんだが……ヴィレイザーを撃破された後、ロスタルドは少しの間部下を色々と動かすらしい」
「部下?」
「といっても天使だった時に率いていた部下じゃない。どうも堕天使となって以後、手に入れた存在らしい」
「ってことは、魔物なのか?」
「強いて言うなら――」
と、デヴァルスは一拍置いて、
「具体的な名称は存在していないが……まあそうだな、ここでは『天魔』とでも名付けておこうか」
「天魔?」
「アランさんによると、魔物の気配を持っていながら人間のような見た目に加え、その思考能力などもまさしく人間そのものって話だ。ここからは俺の推測だが、相当な魔力を持っていた魔物がロスタルドの魔力と結びついて、人のように知性を得た存在なのでは、と思っている」
「魔族とは、違うんだよな」
「少なくともアランさんが言うには……ま、どちらにせよそいつらとぶつかることになる。否が応でもどんな存在なのかはわかるさ」
――天魔、か。魔物が限界まで強化された、という風に考えればいいのだろうか? ともあれ単純にロスタルドを倒せばいいって話でもなさそうだ。
「その天魔について情報はあるのか?」
「アランさんから教えてくれた……さて、そこでだ、ルオンさん」
と、デヴァルスは少しばかり声のトーンを落とす。
「以前、アランさんのことが怪しいと言っていただろ?」
「ああ、まあ……ロミルダの勘だけど。でも決して適当な物言いではないと思う」
「わかった。実はアランさんから天魔に関する情報をもらっているわけだが、もし彼がロスタルドとの戦いに便乗して何かをするつもりならば、偽の情報を渡した可能性があるわけだ」
「それはまあ、わかるよ……つまり、天魔がどういった存在である程度彼の情報が信用できるか判断できるって話か」
「こっちを信用させるために天魔の情報などは正確なものを提供している可能性は十分あるから、情報の確度はそう心配していない。しかし天魔と最初に接触する際は少しばかり警戒した方がいいかなと思い、ルオンさんに話を振ろうかと」
「俺だったら大抵の状況をくぐり抜けられるからな……でも、俺は魔物を倒しづらい状況は変わっていない。つまり、天魔相手でも同じことが言えると思うけど」
「ヴィレイザーを倒しておいて、よく言う」
肩をすくめるデヴァルス。
「鎧天使を上手く使えば問題ないだろ」
「まあ……言われてみればそうか」
「というわけで、天魔の調査を頼みたい。あと、ロスタルドが今後アランさんの言うとおりに動くかの検証にもなる」
「その天魔は、一体何をするつもりなんだ?」
「アランさんが言うには、斥候だったんじゃないかと」
「斥候?」
「どうやらこの大陸各所で調べ物……といっても、その調べ物がなんなのか具体的にはわからないんだが」
「なんだか抽象的だな」
「それを探るのもルオンさんの役目だ」
うん、そうだな。
「アランさんは一兵卒だったから、重要な情報はそう持っていない……ここからは俺達が頑張るところだ。ま、おおよその流れだけでもわかっていれば動きようはある……が」
と、デヴァルスは不敵な笑み。
「ここで一つ選択をしなければならん」
「何を?」
「アランさんが言う流れに持っていくか、それともぶっ壊して全然違う流れにするか」
と、語る間に彼の表情が悪戯をする子供のようになっていく。
「ルオンさんとしては、どう思う?」
――例えば俺達の大陸を襲った魔王との戦いの場合、大層面倒な手順が必要であり、シナリオ通りに進めなければならなかった。翻って竜の大陸ではシナリオが実質破壊され、俺達が力業で情勢を覆した。
今回の場合どうなのか……まず魔王との戦いのように複雑なやり方は必要なさそうな雰囲気。ただ堕天使側の真の目的が不明瞭であるため、そこが懸念と言えば懸念だ。
次にシナリオそのものについて。現在行われている宴は前世ではソーシャルゲームであり、シナリオは存在していたがこんな形で堕天使と戦うようなことにはならなかった。つまりシナリオ面で前世の知識はあまり有用ではない。
なおかつアランの語ること自体がやや不明瞭――ロミルダが言及しなければ実績もあるし信用していたかもしれない――なので、魔王との戦いのように「イベントをこなさなければロスタルドを倒せない」という状態にならない限り、流れに沿ってもあまり意味は無い。そもそもアランの言う流れは結構被害も出ているようだし――
「デヴァルスは、決めているのか?」
「いや、迷っているよ。アランさんが言うには現在の時点でルオンさん達のおかげで変わっている……斥候部隊の動き次第だが、もしアランさんが語った通りの推移を見せたのなら、俺達には選択肢があるわけだ」
「……そういえば、彼から聞いた内容からすると俺やソフィアの存在はイレギュラーなわけだが、その辺どう思っているんだ?」
「いや、ルオンさんも転生者なんだろ?」
――唐突に言われて返答に窮した。エイナあたりが喋ったのかと一瞬考えたが、表情からすると違うらしい。
「魔力の質が似ているってのが根拠の一つだが、まあヴィレイザーと渡り合えるくらいの無茶をできる人間だ。そのくらい派手な経歴があってもおかしくないな」
「派手かどうかは知らないが……ただまあ、俺の方はにわかに信じられないかもしれないけど」
「お? ってことは少し事情が違うのか?」
身を乗り出してくる。興味津々だな。
ふむ、この辺りで話を絡めて、もう少し話題を掘り下げるか。
「……話してもいいが、あんまり広げるなよ」
「別に誰かに話すつもりはないから安心してくれよ」
「そうか、なら――」
というわけで、俺は自分のことについて多少ながら語った。
「……ほう、俺のことは最初から知っていたのか」
一通り話をした後、まずデヴァルスはそう告げた。
「大戦についても、ルオンさんは物語ってことで知っていると」
「ああ。けど今回の戦いは大戦とそれほど関連性がないから、俺の知識は役に立たないだろ?」
「いや、役に立つことはあるかもしれんぞ」
例えば――と訊こうとして、それより先にデヴァルスは続けた。
「話を戻すが、今後についてだ。現状、ルオンさんが疑いの目を持っているアランさんだけが情報を保有している。なおかつ魔王との戦いのように込み入ったやり方は必要ない。つまり、俺達は選択できるわけだ」
「そういうことになるな……とりあえず斥候部隊と接触してから結論を決めてもいいんじゃないか?」
「そうだな。というわけでルオンさん、頼んだ」
「いいけど……ちなみに、期日は?」
「明日」
言われ、俺は目を丸くした。
「明日!?」
「だからこうして話をしているんじゃないか」
「にしたって、急すぎるだろ!」
「まあまあ、少々の無茶はできるだろ?」
コ、コイツ……いや、落ち着け。期日自体は変更しようがないのだ。しかし前もって言って置いてもらえたら……。
「先に言わなかったのは謝るよ。で、頼まれてくれるんだろ?」
「……まあ、な。場所は?」
「それは天界から転移できるからなんとでもなる。あと、念のため単独ではなく二人か三人で行動してくれ」
「ならソフィアに頼む。それでいいか?」
「ああ」
決まり――あまりに急な話だが、明日からまた忙しくなりそうだった。




