彼女の勘
顔を合わせた戦士アランと共に、仲間がいる宿へ向かうと――建物の入口で何やら話し込んでいるアルトとエイナの姿を発見。彼らはこちらに気付き……アランを視界に捉え、注目した。
「よおルオンさん……と、その人が件の?」
「ああ、宴の一位、アランさんだよ」
「正直、一位っていうのは荷が重いような気もするんですけどね……」
苦笑しながらアランは呟く。するとエイナは、
「それだけの魔物を狩り続けた事実は驚嘆に値する。誇ってもいいくらいだと思うが」
「いえいえ、そんな」
やっぱり謙虚なタイプみたいだな、この人。エイナ達が自己紹介をする間に、アランの姿を改めて眺める。
デヴァルスが言った通り、人当たりよさそうな感じの好青年である。例えばフィリや、竜の大陸における主人公であったユスカなど、主人公的な要素を兼ね備えているように感じられる。
しかもその実力は宴によりお墨付き……これ以上にないくらいの戦力であることは間違いない。
俺としては似通った魔力の質を持っていることから、魔物に対して攻撃が通用しにくい問題を解決したいところ。こう考えると結構重要な立場だな。
「二人は何の話を?」
ソフィアが疑問を呈すと、エイナが先んじて答えた。
「ネルさんから連絡が入り、天界へ赴くことが確定したのですが、その準備について」
「準備って、何か持って行くのか?」
「色々試したいこともあるから、魔法の道具とか持ち込もう、って話を少し」
アルトが言う。なるほど、試行錯誤するための相談か。
「ルオンさん達はルオンさん達で何かすると思うから、こっちはこっちで色々させてもらおうかと」
「そっか。期待しているよ」
「あんまりプレッシャーかけないでくれよ」
アルトが苦笑しながら語る。そこで、
「ルオンさん、他のお仲間は?」
アランが問う。俺は宿の中へ入るよう手で促し、
「部屋に向かおう。アルト、エイナ、それじゃあ」
「おう」
「では私はこれで」
挨拶を交わし、扉をくぐる。ロビーを見回すと、外へ出て行こうとするリチャルと遭遇した。
「ルオンさん……と、その人は――」
「初めまして」
先んじてアランが挨拶。リチャルもまた挨拶を交わし、
「すまない、少し外に出て行く。ロミルダは部屋にいるが……」
「わかった。顔合わせくらいはしておこう」
リチャルとすれ違う形で部屋へ向かう。残るロミルダについてソフィアが簡単に説明する間に部屋に到着。ノックの後、中へ。
「ロミルダ」
ソフィアが呼び掛けるとロミルダはこちらに注目――して、アランを見て固まった。
「あ……」
「どうも、初めまして」
ほほえみかけるアラン。しかしロミルダは硬直している。
「なんだか緊張しているみたいですね」
ソフィアが近づく。するとロミルダは我に返り、ささっとソフィアの後ろに隠れた。
「……なんだか姉妹みたいですね」
「ああうん、その表現は正しいかな」
その光景を見て、アランの頬も緩む。ロミルダはどうやら人見知りしているみたいだけど、目の前にいるソフィアとロミルダの姿は、非常に微笑ましい。
「彼女も緊張しているみたいですし、この辺りでお暇させていただきます……ごめんね」
アランはにこやかに告げると、踵を返す。
「あ、それとルオンさん」
「どうした?」
「デヴァルスさんから話は聞くことになると思いますけど、一緒に天界へ向かうことになると思います」
「そっか。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、お手柔らかに」
アランは去る。ここで俺は息をつき、
「ロミルダ、ずいぶんと緊張していたな」
「あ、えっと……」
「どうしたんですか?」
優しく問い掛けるソフィア。なんとなく人見知りとかかなと思ったが、それだとアルトやエイナと出会った際にも同じような反応をしてもおかしくない。
苦手なタイプなのかなとも一瞬考えたけど、ロミルダの様子はどこか違う。それは言ってみれば、何かを警戒しているような――
「……あの人は、宴の一番の人?」
「ああ、そうだよ」
俺が答えると、ロミルダはどこか言いにくそうに、
「なんだろう、向かい合った瞬間、体が動かなくなったの。魔力とかそういうのが関係しているのかな?」
「……動かなくなった? それはどうして?」
ソフィアの質問。それにロミルダは少し躊躇いながら、
「どうしてかな……何か、悪い人にでも出会ったかのような――」
この時点で俺は、雲行きが怪しくなってきたと感じた。いやでも、デヴァルスだって彼と面会している。天界の長は対面しているのに、何も感じなかったというのか?
それとも、気付いているが言っていないだけか? 疑問は膨らみ、一度デヴァルスに確認した方がいいと思った。
「悪い人、か」
ソフィアが呟く。アランのことを吟味している様子。
「ルオン様、どう思われました?」
「印象の良い人物だと思ったよ。少なくとも邪気のようなものは感じなかった」
「私も同感です。それにデヴァルスさんが会っている以上、悪しき力を保有しているなどとは考えにくいですが」
……魔力の解析までしているのだ。怪しい点があればその時点でバレるはず。それとも魔力的な素養は関係がないってことか? あるいは、まだ開花していないとかそういうことなのだろうか?
ソフィアはロミルダの意見に対し、微妙な表情を示した。ロミルダの言葉を無碍にはできないと思っている。しかしその反面、デヴァルスなどがきちんと会って話をした以上、大丈夫だろうと考えている。
俺も同じような見解なのだが……もし、アランが敵もしくは将来それに近い存在になるのだとしたら、俺達にとっては相当まずい展開になる。手を打てるのならば、早急やっておきたい。
しかし、だからといってアランに勘づかれるのはまずだろうな……出会って間もない状況かつ、天界の長の紹介もある人物なのだが、疑わなければならないという展開。心の内では暗澹たる思いだが、やるしかない。
「……ロミルダ、助言ありがとう。どうするかは一度デヴァルスさんと相談してみるよ」
「うん、わかった……その、ごめんなさい」
「謝らなくていい。何か感じたらすぐに俺かソフィアに言うこと。いいな?」
コクコクと頷くロミルダ……さて、厄介事が増えたが、下手を打つと被害が大きくなりそうだし、対策はしておこう。
といっても、「怪しいので天界行きはなし」とかになるのも……彼が怪しいのなら行動を逐次観察するとして……いや、わざと泳がせて使い魔で観察するのもありだろうか?
色々と胸中考えもあったが、とりあえずデヴァルスと話し合わなければ始まらないな。
「ソフィア、俺はデヴァルスさんのところへ行ってくる」
「はい、わかりました」
部屋を出る。さっさと用件を済ませるべく歩き出す。彼らは現在宴の連絡所にいる。宴の運営側と色々話をしているのだろう。
俺はそこへ向かうべく宿の外へ……しかし、根拠がロミルダの勘となると、まともに取り合ってくれるのだろうか?
「……疑問は尽きないが、まずは伝えよう」
ふと、俺は使い魔でアランを観察。町中を見て回っているようだ。そうした行動からは怪しさなど皆無。
もしロミルダの言及がなければ、間違いなく彼についてはスルーしていただろう。これにより話がどう転がっていくのか……思案を巡らせながら、俺はデヴァルスの下へと向かった。




