転生者
「信じられないかもしれませんが、俺は一度この戦いを体験したんです」
突如語り出したアラン……さて、どんな話が聞けるのか。
「俺はこの戦いのことを、知っているんです。転生、というものでしょうか」
「それ、天界の長には伝えたのか?」
「はい。ただ変化はしています。どこまで俺の知識が利用できるのか……」
笑いながら語るアラン。やっぱり隠し立てしている様子はなし。
ふむ、この情報が堕天使側に漏れたら狙われること間違いなしなのだが……考えていると、アランは苦笑した。
「この話自体は、天界の長含め少数の人物にしか伝えていません」
「俺達にはいいのか?」
「信用できる、とデヴァルスさんが言っていたので」
さすが天界の長。色々問題はあれど、その信用度は相当なものである。
「……個人的にその転生云々の話について興味があるんだけど、その前に一つ別の質問をしたい」
「はい、どうぞ」
「えっと、大型の魔物を狩っていることは俺にも理解できるんだが……攻撃手段とかは普通に剣術なのか?」
「そうですよ」
「例えば攻撃が効きにくいとか――」
言おうとして、こればっかりは改めて魔力を解析しないと参考にならないのでは、と思った。転生という点で同じなわけだが、それによって魔力の質まで同じとは思えないし。
「えっと、質問は取りやめで。その代わり、アランさんの魔力をちょっとばかり解析させてもらいたいんだけど……」
「あ、それなら済んでますよ」
――俺は目を丸くした。
「済んでいる?」
「デヴァルスさんが調べさせてくれと」
……あー、もしかして俺のことについての調査で、か。
俺が転生者であることについては話していないのだが、デヴァルス自身大型の魔物を撃破し続けるその能力が気になったのだろう……俺の魔力の質については修行中に言及したし、アランのことを調べてもおかしくないな。
「これです」
資料を渡された。そこにあったのは――
「……俺と似たような感じだな」
以前研究室で調べた俺の数値と酷似している……いくつかの値は俺より下で、中には倍くらい差がついているものもあるけど、この辺りは生活環境の違いかな。
研究室で詳細がわかっていない項目が俺は一際高かったのだが、アランもまたそれと同じ。この値が高いと堕天使を含め大型の魔物にダメージを与えにくい、と俺達は仮定したわけだが――
「俺と魔力の質が似通っている……というか、突出している場所が同じだな」
「そうなんですか」
「この値が高い場合、大型の魔物に対し攻撃が通用しにくい、という考察をしているんだが、アランさんは何の問題もなく魔物を倒しているよな?」
「はい、そうみたいですね」
……これは自覚なく戦っているパターンかな。
「えっと、魔物と戦う場合何かしてたりはするのか?」
「……うーん?」
首を傾げるアラン。うん、これはきちんと調べないと厳しいな。
「わかった。実を言うと俺の方がその辺りで難題を抱えていてね。もしよければその調査に協力してほしい」
デヴァルスに頼めば、調べてくれるだろう。
「わかりました」
「うん、この話についてはひとまず終わりかな……そういえばアランさんはこれからのことについて指示とか受けているのか?」
「特にはないですね。現在は堕天使を探している段階ですよね? この近くには巨大な魔物の巣もありますから、そこで魔物と戦いたいですね」
常に戦いか。根が真面目なのか、それとも転生したことをきっかけにして何か目標があるのか。
「……最終的にはどこが到達点だ?」
「前世で成し得なかった堕天使を倒すことです」
堕天使を――俺はここぞとばかりに質問する。
「転生についてだけど、前世はどういう人間だったんだ?」
「至って普通の兵士ですよ。兵士として教育を受け、戦場に立ち、最終的に敵の攻撃を受けて倒れました」
兵士、か。
「攻撃とは、堕天使か?」
「いえ、そこまではいきません。正確に言うと堕天使の取り巻きと戦って負けた感じです」
言って彼は苦笑する。
「前世については取り立てて語るような内容はないんです。本当に凡百の兵士と何も変わりませんでした。しかし、にもかかわらず転生しました」
「そういう能力を持っていたか、あるいは――」
「……ルオン様?」
ソフィアが口を挟む。そこで俺は我に返り、
「あ、ごめん……生まれ変わりが当たり前なのかどうかわからないけど、君の場合は記憶を引き継いでいる。特殊なケースだと捉えた方がいいだろうな」
「はい、そう思います」
話を聞く限り、俺とは異なる形みたいだな……しかし転生者か。俺以外にもそういう人物がいたわけだが、生い立ちなどについてはまるで違う。
なおかつ、アランから俺の技や魔法について威力不足が解消されるヒントでもあればと思ったが、すぐには解決できなさそう。これについては後の調査結果を期待するしかないな。
「デヴァルスさんとかには伝えたと思うけど、前世で堕天使との戦いはどうなっていた?」
その言葉に、アランは首をすくめた。
「この後、いよいよロスタルドという堕天使が現れるんですが……先ほど言ったとおり今の時点で異なる点があるため、俺の経験は当てにならないかもしれません」
「異なる、とは?」
こちらの言及に、アランは俺達を一瞥。
「……一番はルオンさん達の存在がなかったことです。ヴィレイザーと戦った時点で天使にも被害が出ていたのですが、今回はそれがまったくなかったことも異なる部分ですね」
――俺達の存在自体が例外ってことか。
例えばリチャルは何度も時を巻き戻して――竜の大陸でガルクが調べたところによれば、神に語りかけ時を巻き戻しているんだったか。それによると俺がいたのは最後に魔法を使った後だったわけで、この俺の存在を含め色々と疑問がある。
やっぱりここは神っていう存在を調べるしかないわけだが……うーん、こればっかりは神と直接出会うまではわからなそうな雰囲気だな。
「ルオンさん、どうしましたか?」
アランからの言葉。おっと、考えすぎか。
「ああ、ごめん。ふむ、まあ俺達の存在が例外って話みたいだな……けど、この差異がどこから来るのかわからないから、ひとまず置いておこう」
「はい」
「ともかく現状、アランさんが遭遇した戦いより有利に進んでいるわけだな……しかしロスタルドがどう出てくるのかわからなくなってしまったのも事実」
「デヴァルスさんにはその辺りの詳細を伝えたんですが、参考になるかどうかは」
「どうするかはデヴァルスさんで考えるだろうし、それでいいと思うよ。ま、決して無駄になったわけじゃないと思う。アランさんが体験した前世の記憶から、ロスタルドがどういう目的で動いていたかとかもわかるし……その辺り、どうなんだ?」
「俺にはそうした情報は回ってきませんでした。下っ端ですからね。でも、どうやらロスタルドは天界へ行こうとしていたのは間違いないようです。そこからどうするのかは、俺にもわかりませんが」
天界への復讐ってことだろうか? 不明な点は多いけど、少なくとも天界に目標を定めていたという証言は大きい。
「わかった、話をありがとう……ひとまずここまでにしようか。アランさんはこれからどうするんだ?」
「そうですね……あ、もしよかったら他のお仲間とも顔を合わせておきたいんですが」
「ああ、構わないよ。場所を移そうか」
というわけで、俺達は宿へ向かうべく席を立った。




