一位の人物
ヴィレイザーとの戦いから数日後――俺とソフィアはデヴァルスから話を通され、とある人物に会うこととなった。
その相手は、天使の宴の参加者にして武勲一位の剣士。名前については掲示板にも載っているので知っている。
「ルオン様、なんだかそわそわしていませんか?」
指定された店へ向かう道中、横にいるソフィアが訊いてくる。
「ん、まあそうだな……」
「転生した、という人物でしたっけ」
「ああ。その辺りについて、少し詳しく聞きたいんだよな」
――まさか俺と同じような経緯を持っている、とは思わない。ただ転生云々なんて話が出た以上、なんだか気になるのだ。それに、
「一番重要なのは、彼が魔物に対し相当な攻撃能力を有している点だ。以前俺の魔力を調べてもらったところ、色々とわかったことがあるんだけど、その中で数奇な運命を辿った人間に多く見られる魔力分布を持っているらしい」
「数奇な運命?」
「それこそ、俺みたいに転生した人間、とかね」
こちらの言葉にソフィアは押し黙る。
「もしこの仮説が本当だとしたら、今回会うことになる宴の一位の人物も同じような性質を持っている可能性がある……そうだとしたら、彼は特性を無視して武勲を存分に稼いでいる……話によると彼は一人で戦っているらしいし、俺のように魔力の性質によって魔物を倒しにくい、なんてことは考えにくい」
「つまり、何らかの手段があって、ルオン様の問題解決に参考になるかもしれない、と?」
「そういうこと。同じ魔物を狩る者である以上、彼の戦い方から良い情報を得られるかもしれない」
「感覚で対処していたらどうしますか?」
……その可能性もゼロではないんだよな。
「天使達に調べてもらうよう依頼しよう」
「ああ、それが確かにベストでしょうね」
会話をしながらとうとう目的地へ。デヴァルスが指定した店は、小綺麗なカフェ。
中に入ると、ネルが入口に立っていた。
「どうも、既に相手は待っているわ」
「俺達のことはどの程度――」
「あなたとソフィア王女に関する素性と、ヴィレイザーを倒したことくらいね」
今はそれで十分か……俺とソフィアはネルの案内に従い席へ。
近づくと、まずデヴァルスが手を振った。その隣に、当該の人物が座っていた。
「……初めまして」
一目見た印象としては、好青年――それもとびっきりの。髪色は銀、というよりは灰色か。顔立ちは端正とれ非の打ち所がない。
なおかつ、その実力は本物であり……名前は――
「名はアラン=ウィルティといいます。お会いできて光栄です」
元気よく……そして俺達に笑顔を振りまく。その表情もまた完璧で、正直すごいと感心してしまったくらいだ。
俺とソフィアは彼に対し自己紹介を行った後、席につく。デヴァルスとアランの対面に座り、俺の正面にアランがいるような形。
「事情はお伺いしました」
最初に口を開いたのはアランの方。
「堕天使討伐……そのような大仕事があると聞き、俺も協力したいと思い今回天使様達の誘いを受けました」
やる気は十分みたいだな。
「既にデヴァルスさんとも話を行い、以降は皆さんと一緒に行動することになるかと思います」
「そっか……宴の一位が参加してくれるとは心強いよ」
「いえ、買いかぶりだと思いますよ」
苦笑するアラン。うーん、謙虚な面もあるな。
「さて、ルオンさんとしては彼に興味を持っていると思うが……先に堕天使討伐について話をさせてくれ」
そうデヴァルスは述べ、俺達へ説明を開始した。
「現在残る堕天使……ロスタルドの居所についてはわかっていない。仲間に入ったアンヴェレートも空にいるという点以外はわからないとのことで、現在調査中だ。相手は古の天使であった以上、そう易々と尻尾をつかまえさせてはくれないだろうから、時間をくれ」
「それは構わないけど……ヴィレイザー討伐後から動きはないのか?」
「何かしら反応があったならよかったんだが、そういうわけじゃないみたいだな」
となると、ロスタルドはヴィレイザーを倒されても元々の計画を変えるつもりはないってことかな。
「しばらくは小康状態が続きそうだ……が、この間にルオンさん達はアランさんと共に修行してくれ。場合によっては連携もあるかな。あ、これは強制じゃないからな。彼をどうするかは、そっちで検討してくれ」
「俺でいいのか?」
「ヴィレイザー討伐についての主役はルオンさんだし、何より俺の方は天使の統率をしないといけないからな」
……色々無茶をして困らせているけど、天界の長であることは間違いない。やっぱり俺達の見えないところで苦労しているようだ。
「彼の戦い方はとにかく正攻法だ。大型の魔物についても同じように……それこそ彼の強さの根源かもしれないな」
「そう大それたものではありませんよ」
横槍をアランが入れた。やっぱり謙虚だな。まあ威張り腐っているような人物が相手だと逆に面倒だし、これはこれでいいか。
「実力については宴で一位という時点でもう証明されているが、その能力などについては改めて確かめなければならないだろう。そこについても任せる」
「ずいぶん大ざっぱだな」
「ロスタルドの件で忙しくなっているからな」
天界の長である以上は仕方がないな。申し訳ないけど、ロスタルドが見つかるまでは頑張ってもらおう。
「堕天使については以上……いや、待った。アンヴェレートについてなんだが、おそらくルオンさん達と同じような扱いになると思う」
「……ということは、俺達と一緒に戦うのか?」
「アンヴェレートがそれに同意するかはわからないが、な。たださすがに天界に入るなんて真似は多くの重臣が反対したため、それについては無理だ」
「味方ついたとはいえ、相手は堕天使だからな。天使達が警戒を抱くのも無理はないと思うぞ」
「そういうことだな……こっちからの話は以上だ。何か質問はあるか?」
「ならこちらから、いいですか?」
手を上げたのは、ソフィア。
「堕天使ロスタルドの本拠が見つかった以降の話は?」
「すぐさま突入するかどうかはその時になってみないとわからないな。例えば本拠にとんでもない数が魔物とかがいたのなら、見つけたとしても即座に踏み込むのはさすがに厳しい。これについては臨機応変に、だな」
と、ここでデヴァルスは俺やアランに目を向けた。
「ただまあ、決して悲観的になっているわけじゃないぞ。こっちには頼もしい戦力もできたからな。ロスタルドの本拠については、そっちにも途中経過は情報を流すから、よろしく頼む」
「わかった」
こっちの返事を聞くとデヴァルスは「頼む」と一言告げ、
「さて、それじゃあ俺は退散するかな」
「あれ、もういいのか?」
「俺達がアランさんに大してすることはもう終わっているからな。あとはそちらで交流を深め、次の戦いに備えてくれ。あとルオンさん、そっちの課題について進展があったら連絡するよ」
そう一方的に告げたデヴァルスは席を立ってネルと共に店を出て行った。残されたのは俺とソフィアにアラン。若干ながら、微妙な空気が周囲を包む。
さて、こっちには聞きたいことがある……とはいえ突然転生云々についてすぐに切り出すのはまずいかな?
「……アランさん、宴で一位になれるほどの実力をどうやって手に入れたんだ?」
「決して変なことをやっているわけではないですよ。ただ一つ言うなれば、俺は強くなるための答えを知っていた、ということでしょうか」
口上からして、転生したこと自体は特に隠していないみたいだな。天使にも伝えたし、ここで会話の流れに沿えば話してもらえそうだ。
「アランさん、知っていたとは?」
「それは――」
俺の質問に、アランはゆっくりと語り出した。




