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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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古の天使

 光に包まれた堕天使を見据えながら、俺とデヴァルスは後退する。相手は限界を向かえ、なおかつこちらは全力を出した。確実に手応えもあった。これで決まったか――

 少しして光が途切れると、棒立ちになるヴィレイザーの姿があった。


「攻撃は、終わりか?」


 問い掛ける堕天使。確認のためか、それともこの程度か、などという意思表示か。

 けれど無事であるようには一切見えない。限界をとうとう迎え、もう立っているのがやっと、という風にも見える――


「何か、言い残すことはあるか?」


 デヴァルスが尋ねる。それにヴィレイザーは笑い、


「……奈落の底でお前達のあがきを見ることにしよう」


 直後、その体が漆黒に包まれる。最後の反撃か……と思ったが、黒はまるで炎のようにヴィレイザーの体を崩していき――やがて、完全に消え去った。

 沈黙が一時場を支配する。ヴィレイザーが立っていた所を眺めていると、


「ふう、ひとまず作戦終了だな」


 地面に座り込み、デヴァルスが呟いた。


「しっかし、最後まで大変だったなあ。やっぱり堕天使となったやつらはひと味違うか」

「もっと楽に考えていたのか?」


 なんとなく訊いてみると、デヴァルスは肩をすくめる。


「もうちょっとすんなり事が運ぶと思ったんだよ。けど戦果は上々だ。ヴィレイザーを倒し、アンヴェレートをこっちに引き入れた」

「心臓が止まるかと思いましたよ……」


 ここでネルが発言。そして同時に深いため息。


「デヴァルス様、せめて私には言っておいてください」

「いやいや、ネルは顔に出るからなあ。ヴィレイザーに勘づかれる危険性はさすがにないと思ったが、念には念を入れたわけだ」


 そのコメントにネルは再度ため息。なんというか、本当に苦労しているな。


「ともあれ戦いは俺達の勝利だ……って、そういえば外はどうなっている?」

「ソフィア達が魔物を倒したって話だけど……」


 障壁の外に目を向ける。するとちょっと慌てた様子のソフィアがいた。


「ルオン様!」

「どうした、問題が出たか?」

「ヴィレイザーが倒れた影響なのか、複数の魔物が動き出しまして」

「統制がとれなくなったって話だな」


 デヴァルスは立ち上がり、一度大きく伸びをして、


「残党狩りといこうじゃないか。いけるか?」

「ああ、こっちは平気だ」

「私も問題ありませんよ」


 俺に続きネルもコメント。そして天界の長は号令を掛ける。


「よっしゃ! それじゃあ戦いの総仕上げといこうじゃないか!」






 ヴィレイザーという堕天使を滅した後、魔物の討伐に入ったが……その戦いは速やかに終わりを告げた。そもそも今回のメンバーは大型の魔物を苦にしないレベルの戦士なので、はっきり言って楽勝だった。


 魔物の巣の中で待機していた天使達も参加したことで討伐の時間はさらに短縮され……戦いは数時間程度で終了。俺はひとまず最初の戦いでできてしまったクレーター周辺で待機となり、空を見上げ息をついた。


「大変な戦いだったな」

「お疲れ様です」


 隣のソフィアが告げる。俺はそれに薄く笑い、


「ま、こっちも色々と手法を学ぶことができたから収穫はあったかな……」

「すみません、私の方はあまりお役に立てず」

「いいって。デヴァルスと色々試行錯誤したこともあるから、この戦いは俺と彼のものだったんだろ。ただ次はロスタルドか……どういう戦いになるかな」

「こっちにも堕天使が味方になりましたから、読めませんね」


 うん、それは同意だ。ただ悪くはない。

 堕天使アンヴェレートが味方になったのは大きい……けど、彼女が堕天使となった目的は復讐。どういう理由でそうした選択肢をとったのか?


 疑問はあったけど、触れちゃいけない部分なのかな? 気になるけど個人に関わることだしな――


「おーい、ルオンさん」


 デヴァルスの声。横を向くと彼が歩み寄ってくる姿。


「ひとまず大型の魔物は片付いたな。あとの処理はやっておくから町に帰ってもらっていいぜ」

「そっか、なら頼むよ」

「それとお疲れさん。本当に助かった」

「……俺達は自らの意思で首を突っ込んでいるわけだから、礼を言う必要はないよ。それに、そっちの協力で色々学べたからな」

「レスベイルのことか……あれなんだが、一つ提案があってな」

「提案?」


 聞き返すと、デヴァルスは「ふむ」と一つ呟き、


「いや、やめておこう……俺が考えている通りになるかわからないし」

「急にどうしたんだ?」

「レスベイルを強化する案があるってことで……その手法はちょっと天界に戻って検証してみることにするよ」


 ……よくわからないが、レスベイルがさらに強化される可能性があるなら、任せておいてもいいか。


「よし、俺はもう少し巣の中を歩き回って状況を確認するよ」

「……一ついいか?」


 俺が問い掛けるとデヴァルスは「どうぞ」と答えた。


「アンヴェレートについては、味方に入ると確信していたのか?」

「少なくともロスタルドと縁があるみたいだからな。中立という立場になる可能性もあったが、どちらにせよヴィレイザーとの決戦では排除できると考えていたよ」

「彼女の目的から考えるに、強くなるために堕天使になったと考えていいのか?」

「そうした考えで間違いないぞ」

「それほど、恨んでいるってことか……」

「過去について語るかどうかは当人に任せることにしよう……ま、実を言うと復讐云々についての動機はわかっているが、そこに至るまでの具体的な理由とかは知らないぞ。俺も散見する資料を集めて知っただけだからな」


 ……少なくともアンヴェレートが嬉々として話すわけないから、詳細な理由は聞けずじまいかもな。


「ロスタルドは古の天使だ。アンヴェレートも天使だった時に何かしら彼と関わり、因縁ができたんだろう」

「……いにしえ?」


 ソフィアが聞き返すと、デヴァルスは「すまん」と一言。


「説明していなかったな。天使にはそれこそルオンさん達の大陸で天使が活動していた年代から生きている者がいるんだよ。そういう者達のことを古の天使と呼んでいる。数は多くないけどな」

「……それほど長い時間、天使として活動しているのですか」

「中には眠っていた天使もいるな。実を言うとネルなんかも古の天使だぜ」


 ……ならなぜああまで邪険に扱うのか。やっぱり長には逆らえないといった理由があるのか?


「そうは見えませんね」

「見た目じゃわからないからな。ネルも眠っていたクチだから、言われない限りは古の天使とは思えないな」

「ヴィレイザーも古の天使だったのか?」


 こちらの質問に、デヴァルスは首を横に振った。


「いや、新参者……といっても人間が寿命を迎える以上生きてはいるけどな。ロスタルドと手を組んだ真意は不明だが、力を欲していた面もあったようだから、その辺りが関係しているかもしれん。少なくとも天使を憎んでいたり、そういう経緯があるわけじゃなかったようだし」


 彼はそこまで語ると肩をすくめた。


「ま、ヴィレイザーは現体制を批判する跳ねっ返りの一人だったのかもな。むしろロスタルドなんかに誘われて、といった可能性も否定できん」

「どちらにせよ、ロスタルドこそが最大の相手ってことだな」

「そうだ。アンヴェレートの処遇については……ま、悪いようにはしないさ」


 ……味方になったにしろ、天使達にとって彼女の扱いは微妙だろうなあ。ロスタルドを倒した後、彼女についてどうするかについては紛糾しそうだ。デヴァルスの雰囲気としては邪険に扱う気はなさそうだけど。


「さて、話はこれで終わりにしよう。ルオンさん達、お疲れさん」

「ああ」

「お疲れ様でした」


 あっさりとした挨拶の後――俺達は町へ戻ることになった。


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