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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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新たな技法

 俺とレスベイルの接近に対し、ヴィレイザーはこちらを注視しながら待つ構えを取った。攻撃を受け流し、カウンターからレスベイルを仕留めにかかる――そういう意図が如実に理解できた。

 こちらは横薙ぎの一閃――ヴィレイザーは真正面から受ける。刃に漆黒が触れ、先ほどよりも規模は小さいが瘴気と俺の魔力が噴き上がった。


 ここだ――そう確信するのと同時、レスベイルが大剣を振るった。その狙いは――俺とせめぎ合っている漆黒の剣。

 次の瞬間、大剣が漆黒へと叩き込まれた。それによりヴィレイザーが確実に体勢を崩す。


 わずかに生じる隙。ヴィレイザーとしては、追撃する俺をすり抜けレスベイルに狙いを定めたのかもしれないが、甘い!

 俺と鎧天使の連携攻撃は、ヴィレイザーの反撃の余地までも封じ込める――ほんの少しばかり空白の時間。けれど、俺が新技を使うのに十分すぎるほどの時間。


 間合いを詰める。攻撃態勢に入り、なおかつレスベイルが握る剣から魔力が発せられた。


 次の瞬間、その魔力が俺達を包む――連係攻撃によって崩し、新技を実行して倒す、というのが当初の作戦だ。隙を作りヴィレイザーを討つという安直なやり方だが、ここまでは目論見通り――レスベイルが直接ヴィレイザーを倒すために動くと相手は思っているだろうし、存在であると切り札誤認させることもできたはずので、俺に対する注意も薄くなっているはず。


 このまま一気に決着を……そう思った瞬間、ヴィレイザーの目が俺へ向けられ、なおかつ動向を窺う鋭い目つきを捉えた――


 そこで俺は半ば反射的に新技を実行せぬまま、レスベイルを用いて斬りかかる!


「っ――」


 それをヴィレイザーはどう捉えたか。どうやら俺へ警戒を向けていたらしく、レスベイルの斬撃に対し一歩反応が遅れた。

 刹那、レスベイルの大剣がヴィレイザーに当たる――途端衝撃波が炸裂し、ヴィレイザーが小さく呻くのを俺は確かに耳にした。


 そこで一度後退。先ほどの目つき……看破していたわけではないが、レスベイルが囮だという判断だったのか? いや、体勢を崩したのは誘いだったのか。


 隙を作り、そこから新技に持っていくつもりだったが、この様子では……だがデヴァルス達がヴィレイザーの分身を今まさに叩こうとしている状況。新たな分身を生み出せるのかわからないが、堕天使は味方がいない上に増援も期待できない以上、時間が経てば有利になるのはこちらだ。


 つまり、ヴィレイザーにとって勝負を決める場合は短期決戦が望ましいはずだが……それでも性急に攻め立てずこちらを注視した。こちらがどういう手を打ってくるかを見極めようとしている……差し迫った状況にも関わらず、相変わらず冷静だ。


 新技はできるだけ隙をなくしたわけだが、それでも発動には少しばかり時間を要する。傍から見れば一瞬でも、ヴィレイザーにとっては長い時間になるだろう。先ほどは失敗した。ならば一度長期戦を仕掛けるつもりで動くか……?


 だがそれを認識したらヴィレイザーが方針を変更する可能性が高い。場合によっては長ったらしい戦いを避け、俺達を囲う障壁を破壊しようとするだろうか? もしヴィレイザーに何かしら奥の手があるとしたら、障壁を壊すことも可能か……? もしそうだったらこのまま時間を掛けてもまずいのか?


 やはりこちらから仕掛けるべきか……なら俺ができる手は――前に出る。さらにレスベイルもまた、ヴィレイザーへと迫る。

 相手もそれに呼応し、構え直した……まずは先制の剣戟。堕天使はそれを鮮やかに防いで見せ、また同時に横から接近しようとするレスベイルへ視線を向けた。


 それと同時、俺は押し込むべく剣と腕に魔力を加え肉薄する――先ほどと同じような構図。どうやらヴィレイザーは先ほどと異なる展開に注意を払っている……それに対し俺は先ほどと同様、レスベイルへ指示を出し、漆黒の剣へ大剣を叩き込む!


 再び生じる瘴気と光。だがさっきみたいにたじろぐといったことにはならなかった。来るとわかって備えていたのだろう。これでは隙を作るなど夢のまた夢――しかし、


「レスベイル!」


 俺は叫んだ。このまま強引に作戦に入る――推測だけど、こちらが新技を使ったタイミングでヴィレイザーは何かを仕掛けてくる。それが反撃なのか回避なのか判然としないが、間違いなく技に対処するような手を構築している。


 ならば動きを拘束し、脱しようとしても厳しい状況ならば? 賭けには違いないしリスクもあるが――

 刹那、レスベイルの大剣から魔力が溢れ、その魔力が俺の刀身へと注がれていく!


「……何?」


 ヴィレイザーが呟く間に、俺の魔力とレスベイルの魔力が刀身で組み合わさり、大きな光となっていく。そこからさらに漆黒の剣と刃を合わせた状態で、魔力収束も行う。


 ――俺はセルガのように大地に魔力を仕込むなんて技術は教えてはもらったが完全に発揮できるわけではない。ヴィレイザーとの決戦までに覚えるのもさすがに厳しかった。


 だが、方法はあった。俺が持つ精霊……レスベイルに魔力を渡し、さらにレスベイル自身の魔力も上乗せする――俺と鎧天使の魔力は完全に分離しているため、本来混ぜ合わせるのは難しい。ただし、事前にレスベイルへ俺の魔力を注いでいると、融合まではしないがある程度馴染むことがデヴァルスとの検証でわかった。


 だからこそ、俺は戦いが始まる前に仕込みを済ませ、レスベイルと力を組み合わすことができるようにしておいた……わかりやすく言えばセルガが大地に魔力を仕込んだことを、レスベイルに行ったということ。二つの力が組み合わさったことにより、ヴィレイザーに対しても十分なダメージを当てることができるはず……!


「それが切り札か……!」


 ヴィレイザーも状況を理解したようだが、一歩遅い――目論見は成功。レスベイルに動きを制限され、俺の剣は二つの力をまとわせながら堕天使の漆黒を――とうとう払いのけることに成功する。

 そして剣を越えその体に斬撃を叩き込む――次の瞬間、光がヴィレイザーの体を渦巻き、その全身を包む。


「があっ――!!」


 声が聞こえた。間違いなく効いている……ただ漆黒の剣を破壊した分だけ威力が損なわれ、一撃とまではいかなかった。

 しかし十分なダメージを与えたことは確か。情勢はさらに俺達へと傾いた。このまま押し込むことができれば、勝利も――


 刹那、光がかき消える。そしてヴィレイザーが姿を現し、


「……二つを組み合わせることにより、強化したというわけか」


 納得の表情を見せていた。


「お前の攻撃は多少なりとも受け入れることができる……それを考慮したはずだが、まだ考察が足りなかったようだな」

「観念したか?」

「だがまだ終わったわけでは無い-―」

「いいや、終わりさ」


 デヴァルスの声だった。分身を滅し、ネルと共にこちらへ近づく姿。


「受けた傷は、決して浅くはないはず。なにせ俺をぶっ倒すだけの力だからな」


 ……訓練中、攻撃を受けた彼が倒れることもしばしばあった。


「引導を渡す時が来たようだな」


 ヴィレイザーは無言で漆黒の剣に魔力を込める。それに対しデヴァルスはどう猛な笑みを見せ、


「さて、クライマックスだ……堕天使、終わらせよう」


 そう言い、デヴァルスは駆ける。次いで俺もまたレスベイルから魔力を受け取り、ヴィレイザーへ向け走った。


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