堕天使討伐――前哨戦
障壁の中へ入り込んだ瞬間、ヴィレイザーの横に分身が現れる。ここからさらに二体、三体と分身が出現する可能性も考えたが……一体しか出現しない。
「分身を生み出すだけでも、それなりに魔力を食うからな」
全身に魔力をまとわせながら、天界の長デヴァルスは言った。
「魔力を内に溜めておき、それにより分身を生み出す……前回の戦いはそれまでに溜めておいた魔力を利用し乗り切ったわけだ。だが今回は以前の戦いからそれほど経っていないし、あまり溜めることができなかったはずだ。今のお前に俺達を食い止める分身は、多くて数体程度しか作れまい」
「ぬかせ!」
右手に魔力をまとわせる堕天使。腕から漆黒が伸び始め、それは一本の長剣となる。
そこへデヴァルスが迫った。両腕には収束した相当な魔力。拳を叩き込めばヴィレイザーも無傷では済まないはず。
両者の刃と拳が激突する。構図としてはデヴァルスが仕掛けた拳をヴィレイザーが打ち払おうとする。双方の力が互角ならこのまませめぎ合いになる可能性もあったが、デヴァルスの拳は剣を突破し体へ到達しそうになる。
懐に潜り込まれたら、まずい――そうヴィレイザーは感じたか後退しようとした。だがそこへネルの援護が入る。足下に光弾が直撃し、少しだけ動きが鈍った。
わずかな隙だが、デヴァルスにとって十分な時間。肉薄し、畳み掛けるようにラッシュを繰り出す――!!
「一気に決めるぜ! おら!」
堕天使へ降り注がれる拳。ヴィレイザーも防ごうとはしたようだったが、それを無視しデヴァルスの拳が突き刺さる。ネルの援護もあって確実に決めていくその様子は、圧倒的という風にも見える。
とはいえ、ヴィレイザーもこれで終わりであるはずもなく……刹那、さらに瘴気が膨らんだ。デヴァルスはそれを察し一度距離を置こうとしたらしいが、そこへ漆黒の剣が放たれる。
右腕でガードするデヴァルス。すると瘴気が腕にまとわりつき、まるで蛇のように轟きデヴァルスの首下へと迫る――!
「させるか!」
吠えたデヴァルスは魔力を発し漆黒を消し飛ばす。状況はデヴァルスが圧倒的に優勢だが……いや、待て。
ヴィレイザーが握る漆黒が際限なく膨らんでいく。それはみるみるうちに巨大なものとなり、堕天使は容赦なく振り下ろす!
「うおっ!?」
今度はデヴァルスが防御する番だった。剣を横に移動し避けるが、ヴィレイザーは巨大な剣で即座に切り返す。追随した漆黒をデヴァルスは半ば強制的に迎え撃ち、両腕でガードする。
ガアッ――ほんのわずかな時間、デヴァルスの体に瘴気がまとわりつく。しかしそこは天界の長。あっという間に消失し、さらに魔力を高めていく。
そこへネルがレーザーのような光を降り注ぎ、漆黒を弾き飛ばした。途端ヴィレイザーの剣は小さくなり、元の大きさへ。一時的に瘴気を膨張させ巨大な剣を作る……仕組みはそんなところだろうか。
そしてヴィレイザーはデヴァルスを見据え、剣を構え直す……瘴気も先ほど以上に発し、その様子からさっきみたいに易々と間合いを詰めさせてはもらえなさそうだ。
戦線は膠着状態……そんな中、俺は分身と対峙する。横にはレスベイル。俺はこの間動いていないが、それは策があってのことだ。
まずは分身相手に通用するかどうか……といっても分身相手に新技をお披露目するわけではない。その前段階――俺のやり方が通用するかを、試す。
確認に、分身は手頃な相手といえる……その時、レスベイルが一歩前に出た。
準備は整った。俺は大きく呼吸をしてから、ヴィレイザーの分身へ踏み込む。
まずは――分身の剣と俺の剣が激突し、せめぎ合いとなる。そこへ回り込むように動くレスベイル。収束した魔力をどう生かすか……するとヴィレイザーの分身が反応を示した。俺に注力するか、それともレスベイルへ向かうか。
どうやら分身はまず俺をどうにかする選択をした。瘴気が膨らみ、俺を押し潰そうと――いや、一瞬だけ食い止めレスベイルへ反撃するつもりか!
そうはさせない……俺は剣に力を込め、鍔迫り合いの状況から一気に追い込みをかけた。分身はさらに瘴気を膨らませて対抗しようとしたが、俺の能力の方が上だったようで、完全に足を止めた形。
そこへ背後に回ったレスベイルが迫り――剣戟一閃! ザアアッ、と砂を噛むような音が響き、分身がビクリと大きく震える。
確実にダメージを与えた。立て続けに俺が漆黒の剣を弾き飛ばし、体に斜めから斬撃を叩き込む! 確かな手応えとたじろぐ分身。とはいえ鈍った動きからの復帰が早い。やはり俺の攻撃については耐性の関係で通用しにくくなっている。
しかしレスベイルの攻撃は違う。続けざまに背後から一太刀入れると、またもビクリと震える分身。効いている――これはつまり、レスベイルを通しての攻撃は有効ってことだ。
さらに、デヴァルスと相談してくみ上げた新技……この二つの要素があれば――
「ふっ!」
さらに分身へ剣戟を決める。レスベイルの攻撃が通用するならば俺が無理に仕掛けなくてもいい。こちらは牽制主体で自前の精霊がメインを張ればいい。そういう結論に達したのだが、同時にヴィレイザーの分身の動きが変化した。
俺達と距離をとり、なおかつその視線の先にはレスベイル。矛先を変えた様子。
レスベイルについては攻撃面については色々検証したが、防御面については時間的余裕もなかったので後回しにした。つまり堕天使相手に瞬殺されたことのある俺の精霊は防御面に不安があるってことだ。
だがそこは俺がカバーに入れば問題ない――レスベイルへ向け振り下ろされそうになった漆黒を俺が横から割って入り防ぐ。グアッ――漆黒が弾け空へと上る。分身故に威力は判然としない面もあるが、まともに食らえばこの戦いのキーとなるレスベイルが消える可能性もある。
それだけは、絶対に阻止しなければならない。
押し返して反撃。刺突を放つとそれはまともに分身の頭部を捉えた。しかし倒せない。魔力をそれなりに込めたつもりだが、決定打どころか牽制の役割としても微妙だ。
つまり、俺が確実にダメージを与えるためには結構な魔力収束を行う必要がある。しかも分身相手でこれだ。本物相手ならなおさら効きにくいだろう。
もっとも、だからこそ俺は新たな技法を身につけたわけで――やるか。
分身はなおもレスベイルを狙おうとするが、それを拒否し俺が対抗する。漆黒が何度も迫ってくるがそれを全て押し返し、隙を作るべく剣を振る。
一瞬でもレスベイルの攻撃が当たるだけの時間を作ることができれば……俺は即座に左手に魔力を収束。次いで発動させたのは、光属性魔法『ホーリーランス』。
「食らえ!」
青い光が分身の胸部に炸裂――!! 無論、これで倒れるとは思っていない。耐性の件もあるから中級クラスだとダメージは皆無に近いかもしれないが、わずかに体勢は崩せた。
ここで追撃の剣。それは見事に成功し分身の体がグラリ、と傾いた。
そこでレスベイルが滑り込む……決まれ!
「これで――」
終わりだと叫んだ瞬間、レスベイルの刀身から魔力が噴出した。今まで発したことのない、鎧天使の魔力。ヴィレイザー当人がどう思ったかわからないが、俺が持つ精霊が相当な力を有していることは理解できたはずだ。
よし、これなら――そう確信する間にレスベイルが大剣を分身へ叩き込んだ。防御もできなかった分身はまともに食らって吹き飛び、俺達を囲う魔力障壁に叩きつけられた!
同時、その体が光によって包まれる。
剣から発した光は一挙に分身の全身を覆い、ガアアアア――と音が響いたかと思うと、金切り声のようなものを耳にする。分身の断末魔だろうか。
そして光が消え――分身の姿はない。レスベイルの一撃によって、消滅したようだった。倒せた……俺は自然と口の端に笑みを浮かべた。




