討伐作戦開始
――その日、起床した後身支度を整え、宿を出て町の外へ。そこに、天界の長、デヴァルスが待っていた。
「よお、調子はどうだ?」
「上々だよ……さて、いよいよだがそっちの準備は?」
「できてるさ。あとは俺が中に入って魔法を構築をするだけだ」
彼は言う――天使達は堕天使ヴィレイザーを捜索しながら少しずつ事前準備を進めていた。それがとうとう完了し、デヴァルスが直接森へ乗り込み総仕上げをする段階となった。
つまり、今からいよいよヴィレイザー討伐に動き出すわけだ。
「段取りは以前説明した通りだ。俺は準備を行っている間、余計な魔力が入らないようにするため単独行動だ。もしヴィレイザーが近寄ってくるのならその時だ。ルオンさん、よろしく頼むぜ」
「わかった……が、相手が飛び出してあんたが少しの間相手にするわけだけど、大丈夫なのか?」
「そのくらいはどうにかするさ。ま、俺もやられるつもりはない。前回の戦いに基づき死なないよう対策は立ててある」
……天界の長である以上、余計な心配は無用か。
「ルオンさん達も手はず通りに頼むぞ」
「ああ、わかった」
返事の後、デヴァルスはネルと共に先行して巣の中へ。一方俺は仲間について改めて確認する。
ソフィアやロミルダは当然のこと、アルト達やエイナに加え、セルガ達宴の参加者の姿もある……が、今回の主役は天使側。俺達がやることは――
「全員、必ず複数で行動すること。孤立したところを狙われるのは避けたいからな」
「その辺り、無茶はしないって」
アルトが苦笑を伴い返答する。
「俺達は天使達の手伝いをするって感じだろうな……ちなみにだが、倒せると思うか?」
「地上に出現した時点で一気に決着をつけたいところだな。勝算は十二分にあると思う。ただ、相手に奥の手でもあると話は変わってきてしまうけど」
それについては……もし何かあったら俺が即座に対応するってことでいいかな?
「よっしゃ、入るとしようぜ」
クオトがいの一番に告げると、俺は頷き仲間を先導するような形で魔物の巣へ入り込んだ。
いよいよ作戦開始……果たして成功するのかどうか。何はともあれ、任務を遂行するしかない。
といっても俺達がやることはヴィレイザー出現まで怪しまれないよう行動するだけ。前と同じように誰かを狙ってきたとしたら、その時点で作戦を変更し対応する――デヴァルスが言うには「俺という絶好の相手がいる以上、狙われる可能性は低いだろう」とのことだが……俺達の所に出ても大丈夫なようにしてあるから、この中の誰かを狙ってきても挽回の余地はあるだろう。
考える間に茂みを抜ける。そこは俺とヴィレイザーとの死闘で繰り広げた巨大なクレーターがあった。
「……しかし、前回は暴れたな」
「でも今回だって暴れるんでしょ?」
キャルンが問う。確かにそうだし、もしかすると今回の規模は前回以上になるかもしれない。
「できればスマートに仕留めたいところだけどね……相手は堕天使だ。さすがに難しいかな。前回よりマシになることを祈っていてくれ」
と、ここで魔物の雄叫びが聞こえてきた。ただそれは大きいものではない。普通の魔物か。
「俺達が入り込んだことで反応したのか、それともヴィレイザーの指示を受けたか……」
「どちらにせよ、速やかに叩くべきだな」
セルガが反応。彼は山を見据え、
「普通の魔物ならば後れを取ることはないが、魔物で進路などを妨害されれば予定外のことが生じるかもしれん。まずは邪魔になりそうな魔物を狩っていくべきだな」
「うん、それがよさそうだ」
賛同する俺。作戦は一度しか実行できない以上、少しでも成功確率を上げておくべき。
「ルオンさん、巨大な魔物は出現しているか?」
「……使い魔により上空から巣を確認しているけど、現在は見当たらない。ヴィレイザーも天使達の動向には気付いているだろうから、何か反応があってもおかしくないけどね――」
その時だった。一際大きな雄叫びが山の向こうから聞こえる。
「お、出現したか?」
クオトが呟く。どこか目を輝かせていたので、俺は「主旨を忘れるなよ」と釘を刺しつつ、
「では行動開始といこう……デヴァルスさんがいるのはあの山の麓だ」
そう言って俺は一番近い山を指差す。
「よって、あの山を意識しつつ行動する……それじゃあ、始めよう」
散開し始める。分かれ方としては前回とまったく同じ。俺とソフィアとロミルダで一組。エイナとアルト達で一組。そして宴上位勢で一組だ。
エイナ達が多少なりとも不安になるが……まあ前回戦ったことによりこっちだって対策を立てている。大丈夫かな。
『現在のところ、堕天使の気配は存在していないな』
ここでガルクの発言。ひとまず堕天使も様子見といったところか?
けれど、デヴァルスが準備を始めたら何かしら反応はあるはず……と、ここでソフィアから質問が。
「ルオン様、改めて問いますが、どのような手法で堕天使と戦うのですか?」
「セルガが使っているような技術の応用とでも言おうかな。まだ未完成だけどデヴァルスが大丈夫だと言っていた。よって今回はそれを利用する」
「大地などに魔力を宿すというやり方ですか……それで堕天使を討てると?」
「セルガとまったく同じ方法ではないよ。デヴァルスさんがよさそうなやり方を教えてくれて、俺がそれを参考にして開発したってところかな」
俺は少しばかり意識を体に向ける。体内に宿っている魔力……現在俺は堕天使に対し思うようにダメージを与えられていない。だが今回の策はそれを是正――というより、さらに威力を底上げして堕天使を滅するというやり方。根本的な解決はしていないが、今回の手法が成功すれば、問題が解決しなくとも堕天使を撃破できる力を得たことになる。今回はそれでよしとしよう。
「それじゃあ俺達も動こう……といっても、ヴィレイザーが動き出すまで森の中をウロウロするだけだが」
「成功すると思いますか?」
ソフィアの問いに、俺は肩をすくめた。
「どうだろう……ヴィレイザーとしては、手をこまねいていたら不利になる。相手としては何か罠の一つや二つあると考えていると思うけど、だからといって待ち構えているだけなのもまずい」
「だからこそデヴァルスさんは、必ず乗ってくると考えているわけですね」
「彼の言うとおり一種の賭けではあるけど、改めて考えるとそう分は悪くないのかな」
俺はそう呟くと、クレーター周辺を見回した。
森の中には瘴気が漂っているが、この周辺には感じない。吹き飛ばしたというより、巣の中では木などが瘴気を発しているので、クレーター周辺に瘴気を吹き出すものがないって考えでよさそうだ。
「今回構築する魔法は、天使の魔法により瘴気を消し飛ばすわけだが……ヴィレイザーが破壊できないような措置をとるみたいだし、大なり小なり反応はあるだろ」
そうソフィア達に告げた時、地の底から気配――のようなものを感じた。
「……動き出したか」
「ルオン様?」
ソフィアが名を呼んだ直後、またも魔物の雄叫びが。ただ今までのものとは違う。明らかに敵意に満ちていた。
「まずは斥候でしょうか」
「声からすると大型の魔物みたいだけど……それらを斥候にするんだからずいぶんと贅沢だよな」
そんなやりとりをしている間に、声の方角へセルガ達が向かう。
次いで俺達の周辺にも気配。まずはこちらの動向を探る――そんな意味合いを持っているのは間違いなさそうだった。




