町外れの騒動
ソフィアが語った高台は町外れにあるそうなので、今からそこへ向かうわけだが……その前に腹ごなしとしてもう少しだけ町中を歩くことにした。
当然、この場面をキャルン達が見逃すはずもなく……どうやら空を警戒しながらこっちを追っているらしい。
空を見るのは普段俺が利用する使い魔が鳥の形をしているからだな。加え彼女達は多少ながら変装をしている。そう劇的に変化しているわけではないけど、遠目から使い魔で観察しても判断がつかないレベルにはなっている。
「ルオン様、どうしましたか?」
ふいにソフィアが問い掛けてきた。こちらは首を傾げ、
「どうした、とは?」
「なんだか考え事をしているご様子でしたので」
勘が良いな……ま、キャルン達の動向を窺っているからな。
さて、町外れに向かうのだとしたらキャルン達はどう出るのか。この辺りで懲らしめてもいいんだけど、町中だしな……今のところ邪魔してくる様子はないし、もし町外れまで追ってこなければ、このまま無視でも――
そうこうするうちにいよいよ町外れに。人もいなくなり、高台へはなだらかな坂を上るようで、まだ多少距離はありそう。
そしてキャルン達だが……ついてきてるなあ。これはやるしかないか。
「ソフィア」
「はい?」
「そっちは気付いているか?」
問われ、彼女はキョトンとなる。
「気付いている……とは?」
察していない様子。距離もあるし仕方がないかな。
「昨日話したけど、提案したのがキャルンなら絶対覗き見しているだろうと」
「私もそれとなく周囲を窺ったりしましたけど、姿は見かけませんでしたね」
「全員格好を変えているからな」
「……ちなみに、他に誰が?」
「エイナとネルさん」
口をつぐむ。さてどういう反応をするか。
「……エイナはどうしてでしょうか?」
「心配になったんじゃないか?」
「別にルオン様と一緒に行動するだけですから、特に何もないとわかるはずですけど……」
……エイナは俺とソフィアについてどう考えているんだろ。ソフィアが旅をすること自体絶対に反対ってわけでもなさそうだし、俺のことを認めている部分だってありそうだけど。
「彼女なりに考えてのことだろ。で、現在も彼女達は俺とソフィアを追っている」
「高台周辺は人気もなさそうですし、さすがに追ってこなくなるのでは?」
「ネルさんもいるし、何か動きがあるかもしれない……というわけで、こっちから仕掛ける」
「なんだか物々しくなってきているようですけど……」
のぞき見している面々を撃退するだけなんだけどな。さて、
「レスベイル」
ぼそりと俺は呟く。現れたのは鎧天使……ではなく、俺の手のひらに乗るような光。
「え、それは?」
「デヴァルスさんと色々やるうちに、新たに手に入れた技法だよ。こうした小さな光の姿で表に出すことができる……ま、これがヴィレイザーとの戦いに役立つかどうかはわからないけど」
そして手の上で光の輝きを調整する。昼間ということもあって間近じゃないと確認できないくらいのものとなり……俺は、軽く腕を振るような仕草で地面に放り投げた。
よし、準備完了。レスベイルの遠隔操作に関する訓練にもなるし、ネルがいるから気配を悟られないかの確認もできる――
「それじゃあソフィア、改めて高台へ向かおう」
「はい」
二人並んで歩き始める……どうなるかな。
使い魔による報告だと、距離を置いてなおも追ってくる。周囲に人影がないことは見つかりやすいとしてリスクだが、それでも彼女達は構わない様子。
いよいよ俺が罠を仕掛けた場所に到達しようとする……そして、
後方からザアッ――と、騒々しい音が聞こえてきた。
「ルオン様、今のは……」
「罠に掛かったな。ソフィア、一度戻ろう」
元来た道を引き返す。どんな姿になっているかというと……罠を設置した場所まで戻ってくると、そこには――
「うげ……ルオン」
キャルンとエイナとネルの三人が、レスベイルの発した光の檻に捕らわれていた。ちなみにレスベイル本体は檻の周辺をふよふよと漂っている。
また鉄格子のような形状をした檻は、ネルが手を触れてもどうにもできない様子。
「やあキャルン……あ、ネルさん。この魔法デヴァルスさん直伝で、ネルさんも解除できないって聞いたよ」
「……私がこういうことをするってわかっていたってこと?」
「いや、これはヴィレイザーに対する準備の一つ……それよりなんでキャルンと一緒にいるか説明してもらいたいけど」
ビクリ、と一度肩を震わす彼女。
「いや……あのね、キャルンさんに誘われて――」
「ちょ、ちょっと!? 全部私に押しつけるの!? 面白そうだと乗ったのはネルさんでしょ!?」
「い、いや、私としてはどこかで止めるつもりだったのよ?」
「あー、絶対嘘だ! ここまで嬉々としてついてきた癖に!」
口論が始まる。おそらくだけど、女子会辺りで意気投合して、キャルンはのぞき見するべくソフィアに提案した……そこにはネルが一枚噛んでいる。そんなところかな?
ちなみに三人の格好は普段の装いとは異なり町に溶け込むような一般的な服装。髪型も多少アレンジしており、完全に使い魔対策をしているのがわかる。
「エイナはどうして来たの?」
今度はソフィアの攻撃。するとエイナは緊張した面持ちで、
「わ、私としてはお二人がご無事がどうかを確認するべきだと……」
「エイナ、町中歩くだけなのに、その理由は無理矢理だろ……」
横からのツッコミにエイナは沈黙。するとソフィアが一歩前に出て、
「エイナ、答えて」
うお、ちょっと怖い。詰問、とまではいかないが普段とは違う声のトーン。これにはエイナも押し黙る他なく、どう言い繕うか必死に考える様子。
やがて、
「……申し訳ありません。キャルンさんに誘われ、興味があったので同行しました」
「別に何があるわけでもないから、こういうことは止めて」
――逆に何もないと言い切られるのもこっちとしては微妙なんだけど、何も言わないでおこう。
「ちなみにルオン」
と、キャルンは俺に対し声を掛ける。
「どうしてわかったの? 警戒はしていたんだけど」
「俺の使い魔は警戒されるだろうと考え、観察の役割をリチャルに任せたんだよ。キャルン達の周辺に野良猫とか犬とかいなかったか?」
「あー、そういえば何度か見かけた……そうきたか」
「確かに俺は鳥の使い魔が多いし、それ以外の動物だと操作するのに多少なりとも意識を使うから大変だ。けどリチャルにそれをお願いして、こっちが配置している使い魔に逐一報告してもらっていたんだよ」
するとここでキャルンは笑みを浮かべ、
「してやられたってことかな?」
「言っておくが、さすがルオンとか褒めても許すことはないぞ」
ギシリ、と笑顔が固まるキャルン。ちなみにネルは苦笑して既にあきらめている様子。
「まあ俺もとって食おうとしているわけじゃない。ひとまずこっちの要求を飲んでくれれば特に何もしないよ」
「……内容は?」
「今すぐ回れ右して帰ること」
その言葉にキャルンは肩を落とした。
「わかったよ、はあ、失敗だったなあ」
「お前懲りてないだろ」
「懲りたよ。わかったからこれ解除してよ」
檻をコンコンと叩きながら言う。俺は腕を振り、光の檻を消した。
「というわけでネルさん、キャルンをよろしく」
「わかったわ。ごめんなさいね」
どこか引きつった笑みを浮かべ、彼女はキャルンとエイナを連れて去って行く。後でデヴァルスとかに注意しておこう。うん、そうしよう。
「……それじゃあソフィア、行こうか。なんだか雰囲気もぶちこわしだけど」
「私は大丈夫ですよ。参りましょう」
改めて……俺達は高台へと向かった。




