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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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準備と誘い

 デヴァルスと出会って以降、俺達は天使とさらに密に連携しながらヴィレイザーを打倒すべく活動する。といっても準備はもっぱら天使達がやるため、俺達は堕天使と戦うべく態勢を整える方に終始していた。


「ヴィレイザーはおそらく前線指揮官といった役割だ」


 デヴァルスが語る――ある程度準備が完了した日、宿で休む前に作戦会議を開いた。彼の話を聞くのは俺とソフィアとロミルダにリチャル。ちなみにネルはいない。


「ロスタルドが出現する可能性は低いが、警戒はする。アンヴェレートの動向も気になるが、今回無理に踏み込んでくることもあるまい。もし来てもこちらには察知できるし、問題にはならないはずだ」

「来ても分身だろうし、倒してもあまり益はなさそうだな」


 リチャルの感想。デヴァルスはそれに深く頷いた。


「ま、静観するならそのままお帰り願いたいところだな……さて、ヴィレイザー撃破について、今から説明させてもらう」


 彼と出会ってから、およそ十日が経過……その間に各種防具などを揃え、実際ソフィアやロミルダは二の腕にそれを装備している。単なるアクセサリにも見えるが、その実性能の高い防具のようだ。


「まず俺は魔物の巣へ入り、魔法陣を描きにかかる。魔物を弱体化させる効果を持ち、地底にも影響を及ぼすくらいのものだ。ヴィレイザーは魔物を順次生み出しているはずだが、この魔法は大気中に漂う瘴気の量を大幅に減少させる。魔物を生み出しても瘴気が無ければ弱体化する。天界へ侵攻する準備を進めているなら憂慮する事態だ。大なり小なり動くはず」

「ヴィレイザーが狙う相手は、デヴァルスってことになるのか?」


 こちらが問い掛けると、彼は肩をすくめる。


「どうだろうな。相手の出方次第でやり方は変えよう。話を進めるが、魔法発動と同時に転移封じも準備しておく。一緒に魔法を使ってしまうとやつが地底から転移できなくなるからな。準備だけしておいて、地上に姿を現したら使うことにする」


 基本方針は相手が出てくるのを待つわけだが……ここでソフィアが手を上げた。


「私達も同行するということで、よろしいですか?」

「もちろんだ。防具は渡してあるだろ? それを使えばヴィレイザーの攻撃にも耐えられるし、君達でも応じることができるはずだ」


 ちなみにセルガやエイナなど堕天使と戦った宴の参加者にも渡してある。誰が狙われても問題ないようにしているわけだ。


「さすがに誰を襲ってくるのかまで断定はできないからな。全員に相応の準備をさせておき、あとは戦場で流れに従うのがベストだ」


 そして、視線はこちらへ。


「巣に入ってからだが、ヴィレイザーが現れた場合に備えルオンさんを始めとした面々を要所要所に配置。で、俺は単独行動……これは魔法陣構築のためでもある。準備段階で近くに誰かがいると余計な魔力が混ざったりするからな。準備を終えるまで一人になるのは確実だ」

「ヴィレイザーが狙うとしたらどのタイミングだ?」

「そうだな……魔法陣の作成手順としては単独で準備を行い、完了後に魔力を発し魔法陣を構築するわけだが……構築中は俺自身無防備になってしまうし、この段階に入ったら一人になる必要もなくなるからネルなどを護衛に回すさ。ヴィレイザーからすれば準備中一人になっている間に仕掛ける……ってのが一番だし、俺も襲撃のタイミングはそう予想している」

「もし来なかったら?」


 こちらの問い掛けに、デヴァルスは肩をすくめ、


「失敗だ。ま、魔法がきちんと成功すればあの魔物の巣で魔物をこれ以上生み出すのは難しくなるし、成果としては上々だ」

「魔法陣を破壊するとかは?」

「物理的にどうこうできないようにするさ。対処が不可能だとわかったら、ヴィレイザーは別の場所に移動するかもな」

「……同じように別の魔物の巣にも魔法を使うのか?」

「この魔法は大気や大地に干渉するため、生態系などにも影響が出る。他には長期間魔法を維持することで予想もできないような弊害が生まれるかもしれん。できれば他の場所には使わないようにしたいところだな」


 と、ここで彼は一時沈黙。そこで俺は一つ尋ねた。


「俺の攻撃だが、通用すると思うか?」

「通用するように色々準備しただろ? 心配するなって、絶対に成功する」


 その言い方がなんだか……いや、やめよう。


「もしヴィレイザーが出現したら、転移封じを行い動きを縫い止める。俺が最初に戦う可能性が高いだろうから、食い止めている間にルオンさんやソフィアさんがやってきて撃破、というのが理想だな」

「頑張ります」


 ソフィアの明言。デヴァルスは「頼む」と一言添え、


「他の場所に出現しても基本方針は変わらない。勝機は十二分にある。というわけで、よろしく」


 話が終わる。解散となり、作戦当日までこの町で待機ということになる。

 デヴァルスが部屋を去った直後、口を開いたのはリチャル。


「俺は例のごとく留守番だ。すまないな」

「リチャルは魔物の作成なんかを頼むよ。いずれ必要になるかもしれないから」

「了解した」

「ルオン様、この十日間デヴァルスさんと共に訓練していたようですが、完成したんですか?」


 ソフィアの疑問。俺は苦笑し、


「完成したけど……デヴァルスさんは自信持ってるみたいだが、やり方が特殊だからな。本番で成功するかは不明瞭だな」

「大丈夫なんですか?」

「まあこうなったらやるしかないよ……そういうソフィアやロミルダは?」

「防具の活用方法を一通り学びましたし、扱い方については問題ないと思います」


 ソフィアの隣にいるロミルダがコクコクと同意するように頷く。


「そっか。デヴァルスさんの段取りとしては、俺やソフィアの技が切り札みたいな感じだけど……まああの人自身も攻撃するだろうし、俺が失敗してもどうにかなりそうな雰囲気ではある。犠牲者が出ないことだけ注意したいな」


 そこでソフィアとロミルダを見る。心配ないと思うけど……。


「私達は問題ありませんよ」


 ソフィアはそう返答。俺は頭をガリガリとかいて、


「わかった、そこは信用することにする……これで解散としよう」

「はい」


 リチャルとロミルダが席を立つ。残った俺とソフィアは少しの間沈黙し――


「ルオン様、なんだかずいぶんとバタバタしていますね」

「宴に参加と堕天使の発見……なんだかんだで忙しないな。あ、そういえばエイナは?」

「防具のレクチャーなどはエイナやアルトさん達と一緒にやっていますよ」

「そっか。彼らも参加……で、いいんだよな?」

「はい」


 返事の後、またもや沈黙。何か言いたそうなんだけど……。


「……それで、ルオン様」

「ああ」

「あと数日はこの町で過ごすことになるみたいですし、鍛錬するのもいいんでしょうけど、今まで忙しかったので休もうかと思いまして」

「うん、それもいいだろうな。決戦の時までずっと肩に力が入り続けるのもあれだし」

「……そこで、なのですが」


 上目遣いで、俺を窺うような仕草をしながら彼女は言う。


「一日、お付き合い願えないでしょうか?」


 ……唐突な要求。普段こうしたことを言わないし、急にどうしたんだと思ったんだが――すぐに察した。


「ソフィア」

「は、はい」

「キャルン辺りに言いくるめられたんだろ」


 ピョン、と肩が跳ねるソフィア。あ、うん、正解みたいだな。


「え、えっと……」

「たまには気分転換も必要とかで、ずっと戦いのために頑張ってる俺に対し何かするべきだとかなんとか」

「……正解です。すみません、逆に気を遣わせてしまいましたか?」


 でもまあ……たまにはそういうのもいいかな。


「あ、提案自体は嬉しいよ。ソフィアが望むなら、提案に乗ろうかと思うけど」

「本当ですか? なら――」

「ただし」


 と、俺はソフィアと目を合わせ、


「提案したのがキャルンなら、絶対どっかで覗き見することだろう。なんとなくその図が想像できる。よって、その対策をする」

「対策、ですか?」

「ああ」


 むしろキャルンとしてはのぞき見するのが目的なのではなかろうか……というわけで、ちょっと一計を巡らせよう。


「明日の朝、宿の前で集合ってことでいいか?」


 それにソフィアは頷いた――明日は骨休めってことになりそうだった。


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