天界の長との協力
俺と天界の長、デヴァルスの激突によって、とうとう建物が耐えきれなくなった……たぶん天界の城なので強度は普通の城よりは上だと思うし、デヴァルスは大丈夫だと考えた上で戦っていたと思うが……駄目だったらしい。
後方の気配を探れば、幸いソフィア達は障壁に守られて平気みたいだ――
「うおっ!?」
突如デヴァルスが叫んだ。見れば足下が崩れ慌てる彼の姿……あ、視界から消えた。落ちたぞ。
俺はヒビが入り始めた床の上を歩きながらデヴァルスが消えた穴を覗く。
彼は下で着地していた。ちなみに場所はどこぞの廊下。
「おーい、大丈夫か?」
「ああ。しっかし、ここまでぶっ壊れるとはなあ」
彼は跳躍する体勢に入ると、勢いよく地を蹴った。次いで手を床に掛けて勢いよく上ろうとしたところで、また崩れた。
「うわっ、と!」
「中止した方がいいんじゃないか?」
こっちのコメントにデヴァルスは廊下に降り立ち、
「まあまあ、俺としてはまだ戦い足りないくらいなんだが」
「……目的が違ってきていないか?」
「あれ、そうだっけ?」
とぼけるような言い方。完全に戦うことが目的と化している……。
「まあいいや。ふむ、でも検証し足りない部分もあるんだよなあ」
「何を?」
「いや、確かに相当な力のぶつかり合いだったわけだが、全身全霊の攻撃だったわけじゃないだろ?」
「そりゃあ、まあ」
「やっぱり一度はそういうのも見せてほしいんだが……魔力収束に時間が掛かるのか?」
「そうだな。隙を作らないとそこまでは厳しい」
「そこはいつ何時でも全力を発揮できるようにするべきだな」
一理あるんだが、さすがに意識を集中させないと難しいんだよな。
「威力不足に全力を出すのには時間が掛かるか……うんうん、今後の対応策はわかった」
「続けるといっても城が無茶苦茶になりそうだが……草原に移る?」
「いや、草原も無茶苦茶になるのがオチだろう。さて、どうしようか」
「……全力を見定めるだけなら魔力障壁でも作って、俺がそれ目掛けて攻撃すればいいんじゃないか?」
「お、言われてみればそうだな」
やっぱり目的が変わってるぞ。なんというか、自由だな。
「よし、そうと決まれば……ちょっと待っていてくれ」
彼は先ほどよりも勢いよく跳躍し、上へと舞い戻ってくる。そしてヒビの入る床を歩き出し、何やら準備を開始。そこで俺はソフィア達に視線を移した。
魔力障壁により無事みたいだが、ネルが深々とため息をつくのが印象的だった。
ただ、よくよく見れば目は笑っていない。うん、これは戦いが終わった後、デヴァルスに雷が落ちるな。
「そっちは大丈夫か?」
問い掛けるとソフィアやロミルダは一様に頷く。
「ルオンさん、できたぞ」
と、デヴァルスの声。見れば俺とデヴァルスの前に薄い緑色をした魔力障壁が一枚。半透明なので彼の姿も見えるのだが、感じられる気配が少し薄くなったような気がする。
「さあ、どんとこい」
提案したのは俺だけど、どんどん勝手に話を進められる……この人はあれだな。やりたいようにとにかくやるようなマイペースな性格かな。
まあここで全力がどのくらい天界の長に通用するか試しておいて損はないか……なんだか乗せられている気がするけど、やれるだけやってみよう。
俺は自身の力を体の奥底から引き出す。使うのはまだ未完成の大技だが、俺の中でおそらく最高の威力。静かな魔力収束から始まったためか、デヴァルスはそれほど反応を示さず、こっちを見据え超然としている。
それから少し――収束を終えた俺に、デヴァルスがコメント。
「ふむ、派手な感じではないみたいだな」
「魔力を露出していたら相手の警戒も増すだろうし」
「違いない……よし、来い!」
気合い十分。その姿はまるで全力投球を待つキャッチャーのよう。
微妙な空気感ではあるけど、剣に宿した力は本物――呼吸を整え、俺は振りかぶる。障壁を形成し笑みを浮かべるデヴァルスに対し、俺は腰を落とし剣を放つ体勢に入る。
一瞬、ネルとか不安に思っているかな、と思い首を向けた。彼女の表情はどこかあきらめたようなもので、俺と目が合うと小さく頷いた。
存分にやってくれ、ってことかな。あるいは少し痛い目に遭わせてお灸をすえるとか? 果たしてどうなるか――
剣を繰り出す。障壁にぶち当たり、その瞬間刀身が白く輝き――障壁の魔力を吹き飛ばしていく!
強度は相当なものだし、このままだと相殺が関の山か――などと思った矢先、刀身が徐々に障壁へ食い込み始めた。お、もしかして突き破れるのか?
光によってデヴァルスの顔は見えないが、刃が食い込んでいるとなるとちょっとくらい動揺していたりするのだろうか……と思っている間に刃が完全に障壁を、抜けた!
そして次に感じたのは、何か硬いもの――って、勢いそのままにデヴァルスに直撃してるぞ!
大丈夫なのかと不安に駆られた矢先、剣が硬いものを押し飛ばした。俺も全力なのでブレーキをあまり掛けられず、図らずしてデヴァルスに剣戟を叩きこんだけど……だ、大丈夫なのか!?
剣を振り抜き、光が前方を包み込む。障壁を抜け余波が相当な勢いで城の上部に吹き荒れ……それが光の粒子と化す。まるでそれは、ネルが語っていた俺達が思い浮かべていた天界の姿を一時的に蘇らせたような――そんな情景だった。
やがて光が消え、デヴァルスの姿を捉える……倒れているんだけど。
「お、おい?」
「……あー、いや、命については大丈夫」
ゆっくりと上体を起こす。どこかけだるそうな様子であり、立ち上がろうとしない。
「うん、ルオンさん……結論を言おう」
「ああ」
「合格。というか、是非とも堕天使討伐に協力してほしい」
なんだかちょっと低姿勢に……さっきの攻撃、通用したのか?
「最後の攻撃、効いたのか?」
「いや正直、死ぬかと思った」
「おい!」
「話には聞いていたが、これほどとはな……うん、これならいいぞ。ルオンさんが抱えている問題についても、全力で支援しよう」
どうやら天界の長の協力を得られるようだ。この言い方ならヴィレイザーを倒した後も連携できそうだし、俺達がこの大陸を訪れた目的も果たすことができそうだ。
その辺りの詳しい話は……ひとまずヴィレイザーを倒した後でいいかな? まずはそちらを優先しよう。
「よし、そうと決まれば行動開始だな。ヴィレイザーを誘い出せるかどうかは戦う前にも言ったが賭けだ。でもまあ決して分の悪い勝負じゃない。ヤツを倒すため、頑張ろうじゃないか」
話はまとまった……のだが、彼にとってはまだ終わりじゃない。
「デヴァルス様」
ネルの声。それに彼はこれまでと一切変わらぬテンションで、
「おう、ネル。城については後で修繕を――」
「私について来てください」
そう一方的に言い放つと、彼女は突如天界の長の首根っこを捕まえ、そのまま引きずっていく。
「お? おー、ネル? どうした?」
「これからどうなるかは、自分の胸に手を当ててお考えください」
「ん? んー?」
「わかってないんでしょうか……」
近寄ってきたソフィアが言う。俺は肩をすくめ、
「どうなんだろうな……俺達は一度戻ることにしよう。天界の長と協力することになったわけだから、頼もしい限りだ」
「頼もしい、ねえ」
リチャルが苦笑しながら呟く。言いたいことはわかるが、実力は本物だし、まあ大丈夫……だと思う。
それから俺はデヴァルスと協力の約束を改めて行い、天界を脱することに……ちなみに別れ際の彼は体の至るところに靴の跡とかが確認できたけど、見て見ぬ振りをすることにした。




