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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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天界の決闘

 先手は天界の長、デヴァルス――俺としては、最大限の警戒をしていたつもり……だったのだが、普段の死闘とは趣が異なる決闘という状況下で、なおかつ相手が天界の長であることから、どこか気分が上の空になっていたのかもしれない。


 デヴァルスが動いた――と思った矢先、俺の目の前に彼の右手が視界いっぱいに広がった。反応に一瞬遅れる。


「っ……!」


 短い呟きと共に、俺は即座に回避へ移った。足を後方に移しながら身を逸らし、彼の右腕をかわした。

 今のは掌底……いや、俺の頭でもつかもうとしたのか? なんにせよ一瞬のうちに肉薄できるくらいの身体能力を持っているのはわかった。


「お、今のを避けるか」


 感嘆の声。それに対し、俺は間合いを詰め横薙ぎで応えた。挨拶代わりの一撃だが……デヴァルスは腕をかざし対応する。

 法衣に当たるが、平気なのか――と思った矢先刃が食い込む。その感触は、ずいぶんと硬かった。


 見た目は普通の衣服のように刃が食い込んでいるのだが、感触が衣服のそれとは違う。奇妙だがひとまず生半可な斬撃が通用しないのはわかった。


「次はどうする?」


 デヴァルスの問い掛けに対し、俺は無言で押し返す。次いで剣に集めた魔力は、まだ全力とはいかないが、それでも魔物を滅するのに十分すぎるほど。

 しかし、デヴァルスはそれすらも防ぐ。やはり硬い金属のようなものに阻まれる感覚。法衣がすごいのか天界の長としての魔力強化がすごいのか。


 すると、反撃が来た。俊敏な動作で間合いを詰め、再度掌底を放つ。俺は今度こそ即応し、だいぶ余裕を持って横に移動し避ける。

 そして距離を置く……が、なおもデヴァルスは接近。体勢を立て直す時間を与えない気なのか? こっちはさらに魔力収束を行い……ひとまず、吹き飛ばしてみようか。


 拳が放たれる。俺はまずそれを受け流し――剣に集めた魔力を、解放する。

 ちょっと怖いけど、斬撃を体に当てる。刹那、金属的な感触の後、その体が持ち上がった!


「うおっ……!」


 これにはデヴァルスも驚く。彼の体が十メートル程度吹き飛び……ただ尻餅をつくような結果にはならず、空中で体勢を立て直し着地した。

 もっとも距離を置いたからといって安心はできない。先ほど一瞬で間合いを詰めてきた相手だ。呼吸を整え警戒し始める。


 それと同時にゲームにおける彼の戦法を思い出す――体術系統の技を中心にした技。ゲームの中で最たる攻撃力を持っていたのは『双霊雷帝掌』という名前だったか。わずかな時間溜めを行った後、両手で掌底を放ち攻撃。同時に雷撃を加え、ゲームではそれが天へと昇る光の柱となって相手にダメージを与えていた。


 雷属性の攻撃なので耐性を持っている相手には通用しにくいが、デヴァルスが所持する技の中で三本の指に入る威力がある。他に強力な技は投げ技だったりするため、現実においてはつかまったりしなければまず食らうことはない。


 それはデヴァルスも理解しているはずで、もし大技を使うとしたら『双霊雷帝掌』だろうな……と、考える間に彼は右腕を軽く回した。


「今のは少しばかり衝撃が抜けたぞ」

「……その法衣に仕掛けがあるのか?」


 質問してみると、彼は笑った。


「天使が持つ強力な防具の一つってわけだ。遠慮はいらないぞ」


 覆っていない首から上はたぶん魔力障壁とかで保護しているんだろう。首斬られて一撃死なんてシャレにもならないので、急所はきちんと防御されていると考えるのが妥当だな。


 なら、俺は……再び魔力を剣に集める。それに応じるようにデヴァルスも魔力を両腕に集め始めた。

 俺が想定している技か、それとも……考える間に相手が動く。守勢に回るようなことはしない。ずいぶんと攻撃的な天使である。


 今度はいきなり間合いを詰めてくるようなことはしない。俺の動向を注視しながら、徐々に近寄ってくる。

 こっちはどうしようか……わずかに思案して踏み込んだ。距離が縮まり、間合いに到達した瞬間、一気に加速した。


 使用したのは横一閃の『ベリアルスラッシュ』。デヴァルスは反応したみたいだが、それよりも先に剣戟が相手に入った。

 勢いそのままに再度相手を吹き飛ばす――手応えはあったが、やはり硬い物に阻まれた感触。単なる斬撃では通用しないかもしれない。


「今のはやられたな」


 デヴァルスはそう呟き、小さく息をついた。


「技量においても十分か……ただ、まだ本気を出していないな?」

「そっちもな」


 別に挑発する意図は無かったのだが、彼は俺の発言に目を細め笑う。


「こっちが相応の力を見せれば、といった感じか?」

「そうかもしれないな」

「いいだろう。なら――」


 両腕に魔力が集まる。それと共に光――いや、雷光が生まれた。


 俺が予想した技を使うのは間違いなさそうだ。確か吹き飛ばす効果もあったため、まともに食らったらこの演習場の端から端まですっ飛んでもおかしくない。

 よし、なら――瞬間、デヴァルスが肉薄する。


 最初の時と同じく、一瞬の出来事。けれど俺は反応し差し向けられた掌底へ剣を放った。

 そして、剣と拳が激突する――刹那、魔力が荒れ狂い雷撃が俺の周囲に拡散し、地面などが衝撃によって抉られていく――!!


 そして剣を通して体を吹き飛ばすくらいの衝撃が伝わってくる……が、魔力強化により耐えた! 吹き飛ぶことなく、俺の足は地面にひっついたまま。


「これを完全に防ぎきるか!」


 デヴァルスが呟く――相手が俺じゃなかったら誰もが吹き飛んでいただろう。


 ビジュアル的にも派手な魔法の交錯などしていないため地味目だけど……さっきの攻撃、まともに食らったら演習場の壁際までいくとかいうレベルじゃ済まされなかったかもしれない。下手すると壁をぶち抜いて場外へ放り出されるぞ。


「これが通用しないと……どうするかなあ」


 ややのんきに呟くデヴァルスだが、目が笑っていない。俺は押し返そうと腕に力を入れたが、ビクともしない。

 その時、相手の目つきに変化が――俺のことを見定め、まるで戦いを楽しむかのようなものに。


「――大戦の頃を思い出すな」


 言葉の直後、彼は後退し――まるで背に翼が出現したかのように、魔力が震えた。

 翼は幻視だが、天界の長だと確信させられるほどの魔力……堕天使とは対極に位置する光とでも形容すべきその力は、魔物ならば体の底から震え上がったに違いない。


 俺は対抗するべく全身に力を加えた。彼は双腕だけではなく、全身のその力をまとう。先ほどのような技か、それとも魔法か――手段はどうあれ、今から彼は猛攻撃に入るだろうと予想することはできた。


「いくぞ」


 宣言。同時、彼は地を蹴った。相当な勢いであったらしく、石床がめり込むほど。

 動きは俺が知覚できるギリギリのレベルだった――俺も相手の魔力に合わせ全身に魔力を加えていなければ、一方的に攻撃を受けていただろう。


 気付けば右拳が迫っていた。だがそれを感覚的に知覚していた俺は剣で弾く。返す刀で今度は左手の掌底も防ぐ。パアンという小気味よい音が聞こえ、魔力が弾け視界を光の粒子が染める。

 また拡散した魔力が床を打つと、石がわずかながら削れていく……相当な魔力の圧縮。もし相殺に失敗すれば、演習場だけでなく城に相当な被害が――


「はっはっはっ! 最高だな!」


 そんなことお構いなしにデヴァルスは叫び、ギアを上げていく――その時嫌な予感がした。というより、右拳に溜められた魔力を見て、俺は半ば察した。

 それを俺は全力の剣で受けた。直後、拳に秘められた魔力が爆発し――四散、周囲の構造物が破壊を始め……とうとう、足下が崩れ始めた!


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