堕天使の狙いと推測
――堕天使は当然、天界へ正規の手段を使って踏み込むことができない。よって彼らは侵攻するための準備をしている、という推測を基に俺達は行動していた。しかし天界の長であるデヴァルスは、既に天界へ侵入できると考えている様子だった。
「敵に天界へ入り込む手段があると?」
こちらが尋ねると、デヴァルスは頷き、
「ああ、俺はそう認識している」
「つまり今はただ準備中で、攻めて来なかったのは偶然だと?」
「敵側も余裕があると考えていたのかもしれないし、ヴィレイザーが魔物を生み出していたことを考慮すると、準備に勤しんでいたのは間違いないだろうな」
「魔物は結構倒したから、しばらくは安全とみることもできるけど」
こちらの指摘に対し、デヴァルスは肩をすくめた。
「陽動かもしれないぞ?」
「陽動?」
「魔物の作成、そしてネルが来たことによる襲撃。ヴィレイザーが天界を滅ぼそうと思っていたとしたら、ネルを狙ったことは一応説明がつく。だがもし出てくれば、魔物の巣に天使が派遣されるのは予測できていたはずだ。後先考えずネルを狙って行動しているとは思えん」
「つまり、そちらに戦力を集中させ、狙いは別にあると?」
ソフィアの質問にデヴァルスは「そうだ」と頷いた。
「根拠はあるのか?」
「まあ大半は勘なんだが」
急に信頼性がガタ落ちである。
「ただ、決して無茶苦茶なことを言っているわけじゃないぞ。明確な証拠などはないが、もし俺が考えている事態となっているなら、最悪な展開もあり得る。だからこそ、こちらから先手を打つ」
「……もしや、こう考えているのか?」
今度はリチャルが口を開いた。
「ヴィレイザーが陽動だとすれば、別の堕天使と共闘関係にあると?」
「正解だ。相手は十中八九ロスタルドだな。アンヴェレートがそんなことをするとは思えんから……ま、どちらにしてもヴィレイザーは堕天使と手を組んでいると俺は踏んでいるわけだ」
「それも予測して、私達は行動していますよ?」
と、これはネルの発言。
「天界の警備もその分厚くなっていますし……」
「俺の推測が正しいと仮定した場合、ヴィレイザーが作成した魔物を平然と囮にするようなやり方をしているわけだ。巣にいた魔物が消し飛んでも問題ない……さらなる大規模な戦力が控えていてもおかしくない。だからこそ、天界へ踏み込まれる前……いや、相手が動き出す前にヴィレイザーを討つ。両方同時に戦わなければならない状況は、さすがに勘弁願いたいからな」
俺やソフィアなら撃破可能だけど、さすがに両方同時となるとかなり大変だ。手数が足りないかもしれないし、対応できても天界に被害が出るかもしれない。
「共闘相手がロスタルドだとすると、ヤツはヴィレイザーを実力的に信用はしているだろ。でなければ魔物の巣で大規模な囮作戦なんて実行させるはずがないからな。もしこの戦いを犠牲者なく対処するには、各個撃破ができる状況に持ち込まないとキツイ。だからこそ、こっちが先手をとる」
「確かに仰ること、一理あります」
ネルは同意する。しかし顔は曇ったまま。
「しかしヴィレイザーはデヴァルス様が出てきて姿を現すでしょうか? 長の登場に警戒を示す可能性もあるのでは?」
「それについては一種の賭けではあるな。ただまあ、このまま手をこまねいていても駄目だ。試してみる価値はある……ヴィレイザーはロスタルドと比べ感情的になりやすいようだし、俺が顔を出したら少しくらい反応はするだろ。特に天界に強い恨みがあったら……な」
と、ここで彼は腕を組んだ。
「報告によると、魔物の巣の地底まで通用する転移封じの魔法は厳しいらしい。つまりヴィレイザーを逃げられなくするには、どうしたって地上におびき出さないといけない。そして囮役になれそうな存在と、ルオンのような実力者。賭けてみてもいいだろ」
それでも当然ネルは浮かない顔なのだが……やがて、これ見よがしにため息をついた。
「私がどう諫めようとも、実行に移すんですよね?」
「一応、お前の同意も得られればと思っている」
「相当なハイリスクですけれど」
「だがリターンも大きい。作戦が成功しヴィレイザーを倒すことができれば、堕天使の戦いを大きく進展させることができる」
その言葉には、強い意志が混ざっていた。
ゲームの時と比べ性格など変わっていない……正義感もそのままだ。天界を守るため、長だがあえて虎穴には入る……彼としては、天使を守りたい一心なのだろう。
だが以前の大戦と異なり、彼は重要な地位を所持している。その命を投げ出すべきではない……そうネルが考えるのも無理はない。
「もしあんたの策が実行される場合」
俺はデヴァルスへ問い掛ける。
「すぐに始めるのか?」
「数日以内と考えているが、ルオンさんの能力次第だな。そっちの問題だが、是正する手段などは手持ちにないのか?」
「一応、敵が耐性を所持していても十分な威力が出せるような方策はあるけど」
「ほう、どんなものだ?」
俺はセルガの儀式系魔法について解説する。
「面白いことを考えるな。うん、現状では合理的か。威力が足りないならさらに強化する。シンプルだが効果的だ」
「ただ、俺もこれについては少々訓練しないといけない。数日以内だと、こっちが対応できないかもしれない」
「ふむ、それなら俺が色々と指導してやるぞ」
まさかの天界の長からの提案。ただ――
「あんたに頼んでどうにかなるのか?」
「儀式系の魔法だろう? 天使は空間や地面などに干渉して魔法を行使することもできるから、相性はいいぞ」
……そういえばネルは空気中の魔力を変化させたり、大規模な障壁を構築していたな。あれも見方を変えれば儀式系の魔法か。
「むしろ、天使の魔法をも組み合わせられるかもしれんなあ」
お、それは面白そう……ただ、一つ問題が。
「それ、一朝一夕でできるのか?」
「そこはルオンさん次第だな。もし策に乗ってくれるなら、稽古をつけてやるぞ――と」
ここで彼の口が止まる。
「いや、訂正しよう。戦ってみたら俺の方が弱いかもしれないからな。ルオンさんに期待し、教えたい」
「……買いかぶりだと思うけどな」
肩をすくめる。それにデヴァルスは、
「ネル、そういうわけでルオンさんとやるぞ」
「わかりました……お止めになっても無意味でしょうから、お好きに」
彼女は突き放した言い方をして、引き下がった。ソフィア達もまた同じように距離を置き、俺とデヴァルスは対峙する。
「ルールとかはあるのか?」
「別に。そっちはきちんと本気出してくれよ。全力で斬りかかって腕切り落とされても、こっちはくっつけるくらいのことはできるからな」
……本当に大丈夫なんだろうか? 疑問は尽きなかったが、まあ本気でやらないと彼も納得しないんだろうな。
しかし、まさか天界の長と戦うことになるとは……デヴァルスの能力は、完全な肉弾戦タイプで、見た目通り天使とはかけ離れたもの。体術が得意だったはずなんだけど、その実力は今も健在なのだろうか?
「よおし、気合いを入れてやるぞ」
腕を回しながらデヴァルスは言う。やる気満々のご様子。それと同時に彼はネル達へ向け腕を振り――魔力障壁を生み出した。
「この城の魔力を利用した障壁だ。仲間達はこれで安全。存分に暴れてくれ」
彼の言及に俺はふう、と一度息をついてから剣を生み出す……そういえば遺跡で手に入れたこの剣も天使絡みだし、詳細とか訊いたらわかるのだろうか?
ま、その辺り今後確認するとして……構えた直後、デヴァルスが言った。
「それじゃあ、始めようか」
言葉と同時、天界の長との決闘が始まった。




