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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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天界へ

 天界へ行く日取りについては、あっさりと決まった。ヴィレイザーとの激闘から数日後の話だ。


「そういうわけで、行ってくる」

「ああ……しかし、本音を言えば天使様の世界を覗いてみたいなあ」


 見送りのアルトがこぼす。今回ネルと共に天界へ行くのは俺とソフィア、ロミルダとリチャルだけ。エイナも同行するのかなと一瞬思ったが、彼女は地道に修行する道を選んだ。


「ヴィレイザーがいる魔物の巣を監視する人間は必要だろう」


 そう彼女は主張し、ネルは任せることにした――堕天使との戦いが発生したことでネル達天使も警戒し始めたらしく、魔物の巣の中には多くの天使が派遣された。彼らと連携すれば問題ない――そういう結論らしい。

 クオトやディーチェもその戦いに参戦するとのこと。ただセルガだけは参加せず、研究をする……俺も彼に教わった技法について、訓練しないといけない。


 またアルト達もそれに参加する――ネルの見解では、しばらくの間堕天使は姿を現さないとしている。ヴィレイザーとしてはこちらの戦力をある程度解析し、その対策に勤しむはず。さらに天使が多く派遣された事実から考えても、地底から顔を出すことはないだろうと。


 ヴィレイザーがどう考えているか不明瞭な部分もあるので確実なことは言えないが……かといって恐れてばかりでもまずい。ヴィレイザーが生み出した魔物を倒し戦力を削りながら、場合によってはヤツの動向を窺う……それが現状ベストなわけだ。


「ひとまずエイナさん達には援軍が持ってきた防具を渡してある」


 そうネルは言う……実際、目の前にいるアルトの左腕には身につけていなかった金属製のブレスレットが。


「正式なものではなくて急ごしらえだけどね。でもヴィレイザーの能力を考慮して持ち込んだものだから、十二分に防御能力はある」

「能力を有しているなら、これが正式なものでいいんじゃないのか?」


 アルトが腕輪に触れながら問うと、ネルは首を振った。


「それはただ装着者自身を守るだけ。極論ヴィレイザーの攻撃を受け続ければいずれ防御できなくなり敗北する……つまり援軍を待つための緊急回避の防具といったところね。私達が本来提供したいのは、あなた達の力が十二分に発揮され、なおかつヴィレイザーの攻撃をしっかりと防ぐ、攻防一体の道具といったところかしら」


 語ったネルは、アルト達を見据えながら続ける。


「ヴィレイザーは転移能力を有しているけど、他者を巻き込んだ転移はできない。もしできるならルオンさんが単独になり襲撃した時に実行しているでしょう。つまり孤立していても時間を稼げば助けが来る……ただしこれはあくまで最終手段。できるだけ複数人で行動し、襲われても対応できるようにしておいて」

「わかってるさ……ま、そっちも頑張ってくれ」


 手を振るアルト。何を頑張ればいいのだろう……疑問に思いながら、俺達は見送られ旅立った。


「天界へ行くには、私達が作り出す門をくぐらなければいけないのだけれど、その場所が限定されていてね」


 言いながら案内するネルだが……ここで疑問が一つ。


「それ、隠されていたりするのか?」

「一応、転移する光景を目撃されないように配慮はしているけれど、秘匿されているわけではないわ。それに天界からこちらに来る際は転移場所を自由にできるから、見つかって待ち伏せされるなんて馬鹿なことにはならないわよ」

「誰かが間違って使ったりは……」

「もちろんないから安心して。堕天使も同じように使用はできないし、門を作っても私達天使が許可した人物しか通れないようにできるから」


 なるほど、まあバレても問題ないようなやり方にはしているか。


 ネルがこれから案内する場所については、町からそう遠くない地点らしい。広大な魔物の巣があるからこそ天界と連絡を取り合うために近くに存在しているのだろう。実際天使がすぐに派遣されてきたのも、ネルがすぐさま報告したからだろうし。


「天界へ行ったら、話をするとのことですが……」


 ソフィアが話を振る。それにネルは苦笑した。


「そう肩に力を入れなくてもいいわよ。天使ということで緊張しているのかもしれないけれど、そう深刻に受け止めないで」

「その天使というのは、ネルさんから見て上司なのか?」


 なんとなく尋ねてみると、ネルは頷く。


「ええ、そうね。私が報告したから興味を抱いたってことだから」

「そっか……内容は魔王を倒したこと、とか?」

「それもありそうだけど……私も話をしたいというくらいしか聞いていないのよ。軽い感じで連れてきてくれって言っていたから、重大なことではないと思うのだけれど」


 うーん……詳しいことは天使に会わないとわからないみたいだな。

 やがて俺達は街道を逸れ、森の中へ。魔物の類いは見当たらず、何も起きない中で目的地に到着した。


「ここよ」


 目の前にあるのは、木々のわずかな隙間。折れた木が数本倒れている以外に何もない。


「ここに転移場所を設置したのには理由があるのか?」

「魔物の巣以外で魔力の多いポイントがここだった、ってことかしら。さて、ちょっと離れていて」


 指示を受け俺達は下がる。ネルはパンと手を合わせ、何事が唱え始めた。

 魔法の詠唱か……すると彼女の正面、その空間が歪み始めた。


 その奥に見えるのは……草原だろうか? 森とは異なる景色を垣間見ることができ、やがてネルは詠唱を終えた。


「これでよし、と。さて、行きましょうか」

「ああ」


 天使に誘われ、俺達は歩みを進める。そして目の前の景色が――変わった。


 目の前に広がるのは草原。遠くに白一色の宮殿があり、さらに草原を囲うように白い頂を持った山脈が存在する。


「これが……天界?」


 後方から続いたソフィアが呟く。さらにリチャルが周囲を見回し、


「予想していたのとは、ずいぶんと違うな」

「例えば陸地が浮遊していて、光の粒子が漂っている……とかかしら?」


 ネルが問う。リチャルは言い当てられたのか肩をすくめた。


「例えば小説の世界ではそういう表現が成されているかしら……でもまあ、天界で戦争が巻き起こる前はそうした場所もあったのよ。大気が抱えられる魔力量を超え、それが粒子化して黄金に輝く、とかね」


 一度そういう光景見てみたかったなあ。


「あと、陸地が浮遊しているのは事実よ。ここが広くて陸の端が見れないだけで」

「あ、そうなのか……と、あの城に話をしたいっていう天使がいるのか?」


 指を差しながら尋ねると、ネルは首肯した。


「そうね。話の内容までは聞いていないから、直接確認しないと」

「……ちなみに、その話ってのは俺だけ?」

「いえ、ここにいる全員みたいね。同行者にも会いたいようだし」


 ……俺の問題とかが解決しないだろうか。あんな城に住んでいるくらいだから、そこそこ偉いだろうし。


 この世界の天使は前世のような神の使いではなく、天使という独立した種族として形成されている。なので例えば天使の長とかが実質天界の王様みたいなもので、ゲームでもそういう表現が成されていた。

 今回、ネルと共に天界へ来たことにより、お偉いさんと会うわけだが……それをきっかけに天使の長とかに会えるのなら、問題解決のきっかけになるかもしれないな。


 まあいい、ひとまず会いたいという天使と話をしてからだ……そう思いながら、俺はソフィア達と共に宮殿へと向かった。


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