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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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剣戟と狙い

 仲間がいるというのは援護も期待できるのだが……返り討ちにあうという可能性があるのもまた事実。


 ヴィレイザーの攻撃は周囲の瘴気を用いた広範囲攻撃。それはネルの魔法で使えないようにしたが、他に何かしら手段があって仲間が狙われるような状況になったら――


 その時、ヴィレイザーは右手をかざす。握っていた長剣は影も形も消え失せ、その手先から光がこぼれた。

 それは、まるで花吹雪のように舞い――俺は真正面から迎え撃つ。左手を突き出し、放つのは光の槍――『グングニル』。


 神の槍と花吹雪が激突する。槍は易々と光を破り消し飛ばしていくが――完全に消すことはできず、俺をすり抜けクレーターを脱しようとする――


「させないわ」


 ネルが応じた。両手を突き出すとクレーターを取り囲むように、魔力障壁が生じた。


「私達の誰かを狙う……って戦法も、これでご破算ね」

「その程度の予測はしていたさ」


 あくまで余裕のヴィレイザー。そこで花吹雪が障壁に激突し消え失せ、俺の槍が直撃した。

 当たったのは左胸。人体としては急所なのでこれで決着がついてもおかしくないが……ヒットした直後、バリンとガラスが割れるような乾いた音が響いた。


 神の槍は相殺された……威力が減っていることを考慮しても、相当な耐性があるな。


「俺を倒すには時間が必要だな」


 ヴィレイザーはそう語ると突如、自然体となった。

 その無防備な体勢に俺は思わず立ち止まる……が、何かをしてくる気配はない。


「どうした?」


 問い掛ける堕天使。ここで俺は小声を出す。


「……ガルク、調べられるか?」

『現在やっているが、判然としない。何かしているのは間違いなさそうだが……』


 分身とはいえ、神霊の解析でもわからないとは……それだけ巧妙な手段ということか。

 どこまでも無防備な相手へ俺は剣で威嚇をする……が、堕天使は動かない。


「どうした? 来ないのか?」


 あまつさえ挑発さえしてくる。もしこちらが仕掛けて発動する罠だとすれば……ハッタリなどという可能性もゼロではないが――


 もし反撃されても、俺ならおそらく耐えられる……そう考え踏み込んだ。

 相手は相変わらず動かない。それに対しこちらは、縦に斬撃を決める――!


 ザアアッ、と明確な手応えを感じた。ただ相手は剣戟を受けても反撃する素振りすら見せない。


「終わりか?」


 続けざまに横薙ぎ。だがこれも相手はただ受けた。

 ダメージは与えられているのは間違いないが……それでも平然としているヴィレイザー。やはり俺の剣で圧倒するには威力を上げるか、現状発生している問題を解決しなければいけないようだ。


 ここで一度後退し、呼吸を整える。そちらが動かないのなら――


「……ほう?」


 堕天使が呟くのを聞きながら、魔力収束を行う。それは周囲の空気を底冷えさせるくらいのもので、俺の視点からは見えないが後方にいる仲間の誰かが驚きこちらを凝視するのが気配でわかった。

 さすがにこれを真正面から受けるのはツライだろう――これなら大なり小なり動くはず……その予想は的中し、相手は一歩後方に下がり警戒を示した。


「それを受けるのはまずそうだ」


 認め呟くが……誘っているようにも感じられる。


 魔力収束が終わる。渾身の一撃を繰り出す体勢に入り、ヴィレイザーも目を細めどこまでもこちらに注目する。

 ここで一気に接近し決着をつける……といきたいところだが、果たしてそう上手くいくかどうか。


「一つだけ、教えてやろうか」


 ヴィレイザーが突如語り出す。


「天使の転移封じと結界……そして瘴気を中和する魔法。確実にこの俺の力を封じる要因となっているが、それでも勝ち筋がなくなったわけではない」


 何を――と思った矢先、俺は一歩前に出た。すると、


「来るのか?」


 両手を左右に広げる……なんとなく、時間稼ぎをしているようにも思えた。挑発的なアピールはブラフで、他に狙いがあるとしたら――

 俺は前進を選択。するとヴィレイザーは笑った。それでいてこちらの攻撃を防ごうとする素振りすら見せない。


 次の瞬間、渾身の一撃が堕天使へ向け振り下ろされる。相手は避ける暇も無く……刃が入った。

 爆発が生じる。剣に溜めた魔力が一挙に解放され、轟音がもたらされる。目の前が真っ白になり、剣の感触以外でヴィレイザーが目の前に立っていると識別できなくなる。


 その時だった。後方で異変が発生したのは。


「っ……!?」


 俺はその小さなソフィアの呻きを、レスベイルを通して察知した。俺と彼女の間にはネルが生み出した結界が存在し、ヴィレイザーは通れない……はずだった。

 しかし、突如として彼女の目の前にヴィレイザーが出現する――いや、ヴィレイザー本体とは異なる、分身が。


「なぜ……!?」


 ネルが叫ぶ。結界を構成しているにも関わらず、どうしてすり抜けたのか――

 俺の剣は確実にヴィレイザー本体を捉えているはず……となれば、先ほどまでの挑発は、分身を生み出すための時間稼ぎだったということか?


 本体で俺を押さえ、分身で後方を狙う……が、甘い!


 ソフィアやネルに加え、セルガ達もまた硬直した――が、レスベイルとロミルダが先んじて動き出した。ロミルダの紫の矢が一挙に放たれ、さらにレスベイルが大剣を振るい、分身へ剣戟を叩き込む!

 その二つの攻撃は見事成功した。分身は避けることができず直撃し、衝撃により体が吹き飛び、ネルが構成する結界に叩きつけられる。


 そこへ、硬直が解けた面々の追撃が行われる。まずネルが光を放って分身が爆発を上げると、続けざまにクオト肉薄する。


「ふっ!」


 わずかな掛け声と共に凄まじい速度で衝撃波を生み出し、それがまたヴィレイザー分身の動きを縫い止める。


 当然それによって生じた隙を他の面々が逃すはずもなく、追撃を仕掛ける。セルガの雷撃がまともに分身を捉えると、今度はエイナが『天空法剣』を発動させ、その巨大な剣でぶった切る。さらに後方からキャルンが『ウイングカノン』で援護。ヴィレイザーの分身に突き刺さり、確実に動きを鈍らせる。


 このまま仕留められるか――そう考える間に正面の光が消える。そこにいたのは刃を受ける堕天使。立ち尽くしたままだが……。


「本体が囮になるってのは、ずいぶんやり方が大胆だな」

「この戦い、最大の障害となるのは天使ではなくお前のようだ」


 ヴィレイザーは刃を受けたまま語る。


「分身に任せては無理だと判断したまで」

「他の仲間は分身でどうにかなる、と?」


 ヴィレイザーは何も語らない……が、現状押し込んでいることから考えても、分身が消え去るのは時間の問題のように思える。

 ここからどう打って出るか……ヴィレイザーの分身は集中砲火を受けて攻撃する暇がない――というか、逆に反撃されたらどうなるかわかったものではない。


 一気に決着がつくなるそうするべき……と、考えていた時、ソフィアが動き出す。手に握るのは神霊の剣。いつのまにか魔力収束を果たし――分身の懐へ滑り込んだ!


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