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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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広範囲魔法

 堕天使は冷酷な言葉を放つと同時、とうとう体から内なる魔力を発する。渦を巻くように展開するその気配は、森をざわつかせ周囲の空気が歪んでいると錯覚するほど。


「――覚悟してもらおう」


 明らかにアンヴェレートの分身よりも力があるな……当然俺も対抗するべく魔力を静かに刀身へと加える。

 問題は、俺の攻撃が効きにくい状態にあること。一撃で倒せるならできればそうしたいけど、さすがにそうもいかないか。


 こちらもまた動き出したことを受け、堕天使ヴィレイザーは突撃を開始する。向こうはどうやら一撃で仕留める気か。もし俺を倒したら、ネル達を迎え撃つ――いや、慎重になるのであれば、ここは一度退却か?


 思考しながら堕天使を迎え撃つ。刀身に魔力を集め……衝突する寸前、俺は魔力を一気に高めた。

 刹那、堕天使の目の色が変わる――そうして刃が触れた瞬間、周辺に魔力が拡散し木々を大きく揺らした。俺の腕に衝撃が生まれたが……押し返されることもなく、鍔迫り合いとなる。


「……そうか、なるほどな」


 何かを理解したようなヴィレイザーの声音。


「そちらもまた、隠していたというわけか……!」


 どこか楽しげな表情。余裕はまだあるな。


 こちらとしては一気に攻め立てたい――今度は俺から攻める。刀身に魔力を込め――それも、アンヴェレートを打ち倒した力を加えて。

 もっとも、あれの完全版は時間が掛かるので、アンヴェレートに決めたものと比べ威力は落ちるが……こちらの剣戟をヴィレイザーは一度防いだが、俺は即座に押し込み、剣を弾き飛ばす。


 そして明確に現れた隙に……一撃、入った!


 剣が体に入った瞬間、凄まじい衝撃が剣先から伝わってくる。手応えはある。剣から魔力が光となって流れ、ヴィレイザーの体が白に染まり、視界から一時消え失せる。


「い、けえっ!」


 叫んだ直後、吹き飛ばした。木々に直撃したか木の幹が折れるような音が聞こえ――同時、光がさらに炸裂した。


「……森が無茶苦茶になるな」


 ふと呟く。堕天使相手だから後先考えずに剣を振ったが……大丈夫なのだろうか?

 まあ管理する国もないような状態だし、外に影響なければ問題はないか……結論を出す間に光が消える。


 木々はヴィレイザーが吹き飛ばされた部分は消失し、余波を受けたものは相当な角度で折れ曲がっていた。当の堕天使は折れた樹木を背にして俯く。アンヴェレートを撃破した力と比べて威力は低い。さすがにこれで倒れるとは思わないが――


「……面白い」


 顔を上げる堕天使。笑っていた。


 さすがに俺の能力は現時点でわかっただろう。強敵を見つけ高ぶっている様子だが、これなら逃げずに戦いそうだな。

 ソフィア達は確実に近づいている。それほど経たずしてこの場に到着するだろう。俺は攻撃の威力が減ってしまう状態だが、ソフィアやロミルダなら十二分にダメージを与えられる。二人が到着したら一気に決着もあり得るか?


 そう考えた矢先、ヴィレイザーが両手を俺へ向けかざした。


「ならばこちらも――君に応じよう」


 言葉の直後、空気が軋むほどの魔力が堕天使から生じた。攻撃か……と考えた矢先、俺は目の前の敵から放出される気配が異質であると感じた。


 普通、俺を狙った攻撃ならば当然魔力なんかも俺に向けられるはずだ。あさっての方向に魔法を放ち軌道を変える、なんて可能性もゼロではないが、それとは違う……この場、今俺達が対峙している場所そのものを、無茶苦茶にしようとするような感じ。


 そう理解した瞬間、俺は悟る――これは、


 俺は剣を強く握り締め走った。身体強化により一瞬で肉薄すると、その体に全力の剣戟を叩き込む――!!

 だが今度は吹き飛ばなかった。ヴィレイザーは立ち尽くしたまま刃を受け、告げる。


「お前の一撃、今まで遭遇した誰よりも強いのは確かだ」


 口の端を歪めるヴィレイザー。


「だが、私を一撃で滅ぼすには至らない――」


 刹那、真正面が光り輝く……白、青、紫……様々な色が生まれ、それが森全体を塗りつぶすかのように広がった――






「……っと!」


 完全に光にのみ込まれた俺だが、魔力障壁を展開し攻撃そのものはダメージゼロにする。攻撃する場合どうしても威力は落ちるが、防御については問題ない……これは本当に良かった。


「しかし……凄まじいな」


 俺は一つ呟く。光に飲まれながら後退したのだが……目の前の景色が一変していた。


 光に飲み込まれた森は、その全てが消失していた。地面もずいぶんと抉れ、まるでクレーターのようになっている。その中心にヴィレイザーは立ち、クレーター手前まで引き下がった俺のことを見据え、超然としている。


『先ほどの攻撃、奇妙だったな』


 ここでガルクの声が頭の中に響いた。


『ルオン殿を狙っていたとは少し違うな……転移封じの魔法を消すために行動したのか?』

「さすがに地面を抉ったから効果が消え失せるような構造に天使側もしてないだろう……ヴィレイザーの目標は確かに俺というより、自分の周囲全部だったな。範囲攻撃の一種か、それともそういうスタイルなのか……」


 あるいは俺の能力を悟り、狙っても避けられるから周囲全部を巻き込んだとか……まあいくらでも思いつくが、さすがにヴィレイザーも手の内を語るようなことはしないか。


『ルオン殿、どうする?』

「このまま長期戦に持ち込んだとしても、転移封じは継続したままだから倒すことはできると思う。ただ相手も逃げられないからといって慌ててはいないんだよな。俺の攻撃を受けて平気だと感じたのか、それともまだ手があるのか……」

「――ルオン様!!」


 ソフィアの声。横を見れば、近寄る彼女とロミルダの姿。その後方にはネルもいる。

 俺は離れろと言おうとしたのだが、先にヴィレイザーが声を発した。


「来たか。天使」


 その言葉の直後、ネルはパンと両手を合わせた。


「――来たれ、守護者よ」


 そして魔法を発動する。次の瞬間、光の粒子と化した魔力が生じ、周囲に漂い始める。


「……おそらくヴィレイザーは、この森に存在する瘴気を利用して魔法を使った」


 そしてネルは語り始めた。


「漂う瘴気を利用し、一瞬でルオンさんと周囲を覆うほどの攻撃を仕掛けた、ってことよ」


 ……大気に漂う瘴気を介し魔法を使った、ってことか?


「ただ、この攻撃は漂う瘴気さえなくせば使えなくなる……それを今実行したわ。ルオンさん、大丈夫?」

「ああ、平気だ。とりあえず、同じような攻撃はもうないってことでいいのか?」

「ええ、そうね」


 ここでセルガ達も到着。全員が集まることで犠牲者が出る可能性もあるが……。


「やれやれ、できれば複数人との戦闘は勘弁願いたかったのだが」


 肩をすくめるヴィレイザー。その言葉とは裏腹に、余裕そうな態度。


「転移封じに瘴気中和か……ことごとくこちらの出方を潰してくるな。やはり天使とは出会うべきでなかったか」

「そういう割には、ずいぶんと余裕じゃないかしら?」


 ネルの言及にヴィレイザーは再度肩をすくめ、続いてセルガ達へ目を向ける。


「そちらは俺を狩るために呼ばれた人間……といったところか」

「ま、そういうことだ」


 クオトが剣を構える。今にも飛び出しそうで俺としては不安になる。


「なるほどなあ、こりゃ確かに強いな……で、ネルさん。どう戦うんだ?」

「特殊な攻撃手段は封じた……けど、ヴィレイザー自身の攻撃力は侮れない。迂闊に攻めるのはまずいけれど……」

「まずは俺が体力を削る」


 俺は前に出ながら皆に言った。


「ネルさん達は、しばし見ていてくれ」

「いいのか?」


 セルガが問う。俺は頷き、


「堕天使との戦い……その参考にでもしてくれ」


 その言葉と共に、俺はヴィレイザーへと駆けた。


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