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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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堕天使との対峙

 俺の目の前に現れたのは、先ほど使い魔を通して確認したのと同様、神父の格好をした男性。顔立ちは柔和な笑みを湛えた優しいもので、銀色の髪と合わせ瘴気など感じなかったらさぞいい神父なのだろうと思う。


「……孤立した人間を、確実に狩っていくってことか」


 俺はそう呟きながら使い魔で他の仲間を確認する。ネルやソフィア達はまだ同じ場所に留まっている。ネルが索敵しているのかもしれない。またセルガ達も動いていない。堕天使の気配を察知し、周囲を警戒している。

 その中で俺と相手は対峙する……仲間達が気付いていないところを見ると、気配を相当消しているな。間近にいる俺には明確に感じられるけど……。


「ずいぶんと、慎重だな」


 俺の言葉に相手はまだ無言。


「単独行動した人間から狙いを定めるなんて……さ」

「相手は天使だ」


 声を発する相手――若々しく、また人の心に入り込むような優しいもの。


「何が起こるかわからない。故に、少しずつ動いたまで」


 語りながら一歩俺へ近づく。こっちは右手に封じられた剣をいつでも出せる状態を維持しながら、問う。


「お前は……この巣を根城にしている堕天使、ヴィレイザーでいいのか?」

「その通りだ。天使から情報はきちんと得ているようだな」

「見た目からして堕天使って感じではないな」


 肩をすくめる堕天使ヴィレイザー。


「そちらのイメージに合わせる必要はないだろう」

「まあ確かにそうなんだけどさ……」


 佇む堕天使……見た目はまったく堕天使に見えない。発する気配も瘴気なので、魔族といった方がしっくりくる。

 さて……ここで重要なのは、目の前の敵をどうすべきか。単独で動いた人間に狙いを定めるような慎重な性格である以上、ここで俺が本気を出したらほぼ確実に転移で逃げるだろう。


 ネルはどうやら気付いていないようで、転移を封じる魔法はまだ展開していない。俺のことを使い魔で見ていれば動き出してもおかしくないけど……観察する必要がないと判断したか、それともヴィレイザーが現れた周辺を観察しているのか……。


 まずは逃げられないようにネルへ天使が出現したことを伝えるべき……使い魔をソフィアのいるところまで飛ばせば、たぶん察してもらえるだろう。使い魔自体に通信機能はないけど、ソフィアならおそらく理解する……はず。


 俺は使い魔を操作しながら、右腕から剣を生み出す。それに相手は目を細め、


「武器を体に封じていたのか」


 呟きながら右手をかざす。すると、相手の両手に長剣が生まれた。


「手早く終わらせよう」


 呟きと共に、肉薄する堕天使――できるだけ瘴気を発さず、仕留める気らしい。

 孤立した人間から狩っていく戦法なら、当然他の人に気付かれないよう戦うよな……俺は剣をかざし迎え撃つ体勢を整える。


 次の瞬間、両者の刃が交錯する。派手な音を撒き散らしたが、その音は森に吸われ消えていく。

 ヴィレイザーは俺が受けると即座に横へ。それが背後に回ろうとする動作だと直感した俺は、すかさず相手に追従する。


 二撃目。剣が再び激突し、俺とヴィレイザーはその衝撃に身を任せ後退する。

 ここで相手は左手をかざした。魔法か――


「滅べ」


 声と同時に放たれたのは黒弾。虚無とでも言うべきそれに、俺は防ぐのではなく回避を選択した。

 かなりの速度で俺の横を通過する――反応が遅ければたぶん当たっていた。黒弾は木の一つに直撃するとキュボッ――という音が生じ、魔法が突き刺さった周囲の幹が消失する。


 木の上部が支えをなくし地面に倒れ込む。音はしたが、これもやはりソフィア達まで届くようなものではない。


「やるようだな」

「……少なくとも、天使と一緒にいるんだ」


 俺は肩をすくめ応じる。


「それなりに実力があるって推測はつくだろ?」

「なるほど、確かに」


 頷くヴィレイザー……ここで退却されてしまうとまずいが、退く気はない様子。それはおそらく、まだネルなどに気付かれていないためだろう。

 ここで、使い魔の一体がソフィアの所へ到達した。パタパタと羽をはためかせると、ソフィアがきょとんとなった。


「これは……」

「ルオンさんの使い魔かしら?」


 ネルが問う。ソフィアは頷き……やがて、ここに使い魔が現れた事実によって、察した。


「……ネルさん、もしかしてルオン様の所に堕天使が来たのでは?」


 使い魔の動きに少し勢いを加える。それによって正解だと確信したソフィアは、


「すぐに転移封じの魔法を」

「えっ……ちょっと待って。まずは確認をすべきかしら――」

「いえ、使い魔を動かしたらそれだけで敵に気付かれる可能性もあります。ルオン様なら大丈夫でしょうから、この間に転移封じの魔法を」


 ソフィアの要求にネルは一瞬黙考し……やがて、


「わかったわ。けど、発動まで時間が掛かる。それにこの魔法は魔物の巣全体を覆うような規模では展開できないけれど……」

「私達とセルガさん達の間……そこを中心にすれば大丈夫でしょう」

「そう……なら、やるわ」


 手をパンと合わせ、詠唱を始めるネル。うん、これで後は魔法が完成するまで時間を稼ぐだけ。

 そこでヴィレイザーが動いた。ネルの動きに気付いている様子はない。これだったらどうにかなりそう――


 差し向けられた剣をまず受け流すと、追撃の剣戟もさらに弾く。やはり気配を露出しないように動いているようで、こちらの目論見は達成できそうだ。

 ヴィレイザーの目が俺をにらむ。こちらは防戦一方なわけだが……何か警戒しているのか、それとも倒せないことに苛立っているのか。


 疑問がよぎる中で俺はなおも剣を弾く。ヴィレイザーの手に握られている剣は確かに攻撃力もあるだろうし、普通の剣ならとっくに両断されてもおかしくないとは思うのだが、あいにくこっちの剣も普通じゃない。よって、どうにか対処できている。


 俺もヴィレイザーも双方力を隠しながら戦っている状態なので、おそらく現状では決着などつかないだろう……均衡が破れるとしたら、ネルが転移封じの魔法を発動するその時だ。

 それまでヴィレイザーがここに留まってくれれば……そう考えていた矢先、相手は突如引き下がった。


「……何か、策がありそうだな」

「そうか?」


 相手を見返しながら剣を構え直す。逃げられたら失敗だ。どうする――

 その時だった。ネルが両腕を天へと掲げ、魔力が発せられる。


 ヴィレイザーもまた気付いたか、ネル達がいる方角へ顔を向け……変化は一瞬で起きた。

 突如地面が鳴動。さらに足下に魔力が広がり、周囲を包む。


「……そういうことか」


 ヴィレイザーもこちらの目論見に気付いた様子。そして身じろぎしたが、何も起きない。


「転移封じか……貴様、私の出現を天使に伝えたな?」

「さあ、どうかな」

「……少しばかり、甘く見ていたようだ」


 ソフィア達が移動を開始する。さらにセルガも魔法に気付き、索敵を開始したのか両手をかざした。探知魔法でも使ったか。

 そして彼らもまた俺達のいる場所へ移動を開始する。とはいえ、この堕天使の実力をまだ確認できていない。彼らが対応できるのか――


「よかろう、ならば本気を出そう」


 ヴィレイザーは、俺へ告げる。


「当初の予定通りとはいかなかったが……それもまた一興。始めよう――」


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