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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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天使の考え

 セルガ達が前を進む中、俺達はエイナ一行と合流する。


「多数の魔物か」


 さらなる大型の魔物――状況報告をするとエイナが表情を引き締めた。そしてアルトは山を見上げ、


「俺達が入ってきたのと同じくらいのタイミングだよなあ」

「堕天使がけしかけてきている、という可能性もある」


 俺の言葉にアルトが難しい顔をした。


「いきなり堕天使か……俺達はどうするべきだ?」

「さすがにこのまま避難してくれとは言わないさ……それに堕天使との戦いが始まった場合、相手がどういう動きをしてくるかわからないからな。魔物を大量に呼び出すとかだと外に出さないため対処する必要もあるし、人は多い方がいい」

「上位三人は新たに出現した魔物とそのまま戦うのだな?」


 エイナが問う。俺は頷き彼らが進んでいる先を指差す。


「そっちはまだやれるか?」

「無論だ」

「では、進みましょう」


 ネルが述べ、俺達は山肌に沿って動き始めた。セルガ達はずいぶんと前を進み、いよいよ複数の魔物を視界に捉えた段階だった。


「おお、ずいぶんとまあ数が多いな」


 クオトが言う。その声音は余裕そうだ。


「さっきの調子なら一人一体でもいけそうだが、どうするよ?」

「……手早く倒した方がいいだろう」


 セルガは警戒の眼差しを魔物へ送る。


「私達が入った途端、大型の魔物が相当な数現れている……堕天使が動いているかもしれない」


 セルガもまた、そう推測したか。


「考えすぎじゃないか?」


 楽観的に言うクオトだが、セルガは表情を厳しくしたまま。なおかつ、ディーチェも同調するのか顔を引き締めていた。


「ここはルオン殿達を待とう」

「消極的だな……ま、別にいいけどさ」


 やがて、俺達は彼らと合流。そこでセルガが切り出した。


「敵の数が多くなっている。ここにいる面々で一気に片をつけるべきだ」

「そうね……ちなみに現時点で堕天使の姿はない」


 と、ネルが発言。


「ただこうやって魔物が発生しているということは、どこかに潜んでいてこちらを窺っている可能性も否定できないわ。私が警戒するから、あなた達は魔物を倒して」


 ――ここで、俺はネルのことを見た。俺と同様に使い魔を用いて要所要所を探るってことなんだろうけど、


「……ネルさん、一ついいか?」

「ルオンさん? どうしたの?」

「ネルさんはどう動く?」

「私? そうねえ、堕天使が見つかる可能性もあるわけだから、少しばかり気合いを入れようかしら」


 索敵に力を入れるってことだよな。そうなると――


「……確認だけど、ネルさん。もし堕天使が動いているとしたら、俺達のことを監視しているのか?」

「直接目で確認しているわけではないはずよ。例えば地底に潜んでいて、私達の気配を感知したから魔物を動かしたってことじゃないかしら」

「単なる冒険者達なら、感知しても動きはしないよな?」


 尋ねると、ネルはそこで理解したのか、


「……そうね、私がいたから警戒したと考えるのが妥当ね」

「敵の狙いはネルさんだと?」


 ソフィアの発言。他の面々も俺の考えに賛同するのか、ネルに視線を集めていた。

 そんな中、俺は語る。


「ネルさん、使い魔の索敵を増やすんだよな?」

「そのつもりだけど」

「ただ使い魔の数を増やすだけだと、敵は何もしない可能性が高そうだ。もし地上に引っ張り出すとすれば……十中八九、こっちから仕掛けないといけない」

「例えば私が囮になれば、堕天使が姿を現す可能性があるってことね」


 ネルはそう言うと、小さく息をついた。


「堕天使側からすれば私の存在は排除しておきたいところ……ただ相手としても私を滅せば天界が大々的に動くと推察するはずだけど……」

「あるいは、それが目的なのかもしれない」


 セルガが言った。うん、俺も似たようなことを考えていた。


「魔物を作成し、準備をしていたということは……天界を脅かそうとしているのかもしれない。だとすれば、ネルさんを倒すことで天使をここへ集め、一網打尽にする……魔物の巣は堕天使のフィールドだ。自陣に引き込んで倒すってやり方か」

「だとすれば、判断の分かれ道よね」


 キャルンが天を仰ぎながら述べた。


「このまま魔物だけ倒して様子を見るか、それとも堕天使を誘い出すか」

「無論単なる様子見で、ネルさんが囮になっても動かない場合だってある……ただ、誘い出すために何度もそんなことをしていては、相手にもわざとやっているのだと気付かれるし、こういう作戦ができるのは一度限りだろうな」

「そうね」


 口元に手を当てるネル。一方、大型の魔物達は俺達を見定めたか、唸り声を上げ始めた。


「……一応訊くけれど、堕天使と戦う覚悟はある?」


 誰もが天使を見返す――言わずもがな、というわけだ。

 準備など万全とは言えないが……姿を現す可能性があるのなら、こちらとしては少しでも早く決着をつけたいし……やるしかないな。


「……わかったわ。まあ堕天使と戦うのなら、いずれこういうことになるだろうと予想はしていたし」

「予想、していた?」


 こちらが聞き返すと、ネルは笑みを浮かべた。


「私が囮になるってことが、一番堕天使をおびき出すのに良い方法なのは私自身よく理解しているわよ。ならば、やりましょう……堕天使が出てこなければ、別の策を考えるってことで」

「わかった。俺やソフィアが近くにいて、護衛をする。他の面々はひとまず魔物を倒してくれ」

「了解した」


 セルガがいち早く返事をして、魔物達へ向き直った。


「誰が前に立つ?」

「俺とディーチェさんでいいだろ」


 やる気を見せるクオト。エイナとアルトは一度互いに顔を見合わせ、


「わかった。私達は迷惑にならない程度に頑張ろう」

「そっちも掲示板に名が載っているんだ。別に遠慮する必要はないと思うぜ?」


 にこやかに言うクオト。エイナ達からすれば彼らの能力もわかっていない状況。一度彼らの戦いぶりを見たいところだろう。

 ここから俺達は二手に分かれる。俺とソフィア、そしてロミルダは囮となるネルの護衛を行う。


「ルオンさん達はこの巣において、全力を出したわけでもない」


 ネルが周囲を見回しながら語る。


「私の周辺にいたとしても、それほど警戒しないのではないかしら」

「そうかもな……セルガさん達から離れ、色々と山の中を動き回り誘い出してみようか」

「ええ、そうしましょう」


 ネルは俺の言葉に従い、俺達はセルガ達と離れる。魔物の数は多いが、彼ら自身引き際はわかっているようだし、大丈夫だろう。

 そういうわけで、俺達は彼らと離れ行動を開始する……もし堕天使が監視しているのなら、いつ動き出してもおかしくない。


「今回の敵、ヴィレイザーだと思って間違いないのか?」


 俺の問い掛けに、ネルは「おそらく」と返答する。


「断定はできないけれど……他に可能性があるとするなら、アンヴェレートがちょっかいをかけている、といったところかしら。けどここにはヴィレイザーが魔物を生み出していたこともあるし……彼だってテリトリーに踏み込まれたくはないでしょう」

「消去法で、ヴィレイザーの可能性が高いと」

「ええ」


 頷いた直後、俺の使い魔が新たな魔物を発見。またも大型の魔物であり……こっちに向かっているな。

 その動きは明らかに俺達を狙っている。ふむ、どうするか――


「ここは任せてもらおうかしら」


 ネルが言う。ということは――


「私も少しくらいは働かないといけないわよね」

「実力、しかと拝見させてもらいます」


 ソフィアの言葉に、ネルは苦笑。


「そう大層なものではないけどね……それじゃあ、見ていてもらおうかしら」


 魔物が近づく。するとネルが魔力収束を始めた。


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