儀式系魔法
「二人とも、少し離れていろ」
セルガは声を発し、その両手に光が集まる。さらに彼の足下には魔法陣が。儀式系の魔法に違いないようだが、これまでと雰囲気が違う。
「準備は整った。ここで一気に片をつける」
「お、三位さんの実力を見せてもらえるのか?」
茶化すような言い方だったが、セルガは真面目に頷いた。
「ああ、見せよう」
「なら退散するぜ」
空中を蹴って魔物と距離を置く。ディーチェも後退し、魔物の動向を窺う構え。
すると、今度は魔物の足下にも魔法陣が。
それがまったく同時に発光する――結果、魔物が動かなくなった。
いや、動かないのでは無く、動けない……?
「――終わりだ」
刹那、彼の両腕がまばゆく光った。白い塊となったそれを前へと突き出し、解放する。
腕の光は彼の前方で一つになったかと思うと――まるで巨大な火柱が彼の手先から放出されるようであり――それを魔物は真正面から受けた。
途端、魔物の体を光が駆け抜ける。轟音が響き俺達がいる場所でも体に音の振動を感じるほど。ゴアアアア――と、魔物を駆け抜けながら山中を響かせるセルガの魔法は、これまでみた技法のどれよりも威力があるのは間違いなさそうだった。
やがて光が途切れる。魔物はボロボロに崩れ、最早動きそうになかった。
「……全部セルガさんに持って行かれた感じだな」
ははは、と笑うクオト。結果から見ればそうだな。ただクオトとディーチェの援護があったから魔法が使えたという見方もできるが……。
「なあセルガさん、一人で戦う場合はどうするんだ? さっき、準備は整ったとか言っていたよな? それはつまり、最後の魔法の準備をずっとしていたってことだろ?」
「そうだな……無論、一人ならばその準備方法は違う。今回は二人がいたため、少々楽なやり方に変えていた」
楽な……と思っているところへ、ネルが言った。
「一度彼らと合流しましょう」
「……わかった」
「ちなみにルオンさん、エイナさん達の動向だけど、聞く?」
「いや、使い魔で観察しているから大丈夫」
ソフィアには報告しておいた方がいいか、と思い口を開く。
「えっとソフィア、エイナ達はまだ森の中だけど、さっきの轟音で山に向かっているな」
「わかりました」
彼女の返事を聞いた後、俺達は移動を始めた。
魔物を倒した三人と合流すると、クオトが笑いながら話し掛けてきた。
「で、俺達の評価は?」
「それぞれ戦い方に個性があって面白いよ」
まずは率直な感想。次いで俺はクオトへ顔を向けた。
「クオトは風の力を利用した技法だな」
「正解だ。飛んだり跳ねたりできないかなーと思い、試行錯誤していたらこんな技法になったわけだ」
はっはっはっと笑う。理由は単純なものだけど、そこからああまで戦えるようになったのは、努力の賜物に他ならない。
「斬撃と一緒に衝撃波が拡散するのも風の力か?」
「ああ、その通りだ。風の技法を研究していた際に、こうすれば剣の威力が上がるんじゃないかと思ったんだよ。実際、それは正解だった」
風か……彼の衝撃波は剣先が標的に触れた直後、風が爆散するってことだな。
「ディーチェさんは、火属性の攻撃みたいだけど……あれだけ巨大な相手に臆することなく立ち向かっているのは、当然理由があるんだろ?」
「ああ。私は目に魔力を集め、相手の魔力量を細かく感知できる……が、他にもある」
そう言いながら彼女は自身の目を指差した。
「目による魔力探知を訓練し続けた結果……人や魔物は自身が動こうとする際に微細ながら魔力を発する。それを私なりに研究した結果、相手の動き方によってどう魔力を発するのかわかった。それにより、擬似的な未来予知を行うことができるようになった」
相手の攻撃軌道を敵が仕掛ける前にわかるってことなのか……。
「魔力を発するのであれば、この法則からは逃れられない……もっとも、気配を隠し通すような人間も存在するため、過信しているわけではない」
「ずいぶんとすごそうだが、もし通用しなかったら終わりだ。いつか死ぬぞ?」
クオトのコメント。確かにリスクがあるのは間違いない。
「死なないように動いているつもりではいるよ。見た目は危険そうだが、私なりにマージンはとっている。心配するな。それに」
「それに?」
「この剣には自信を持っている」
それが答えか……謙虚ないつもとは異なり、戦闘中は高ぶるような性格らしい。
戦いの中ではクオトよりもディーチェの方が熱いのかもしれないな……ともあれ、視覚で魔力の多寡を判別するか。その分析能力は、かなりのもので間違いないだろう。
「で、セルガさんは?」
俺は問う。するとその答えはネルからやってきた。
「大地に自分の魔力を一度格納できる……といったところかしら?」
「正解だ。さすが天使だな」
格納? 疑問に思っていると、ネルから解説が入った。
「自分の魔力を大地に一時的に流し、それを自由に体の中や外に出し入れできるといったところね」
「……大地を利用して魔力を蓄え、ああした魔法を撃ったのか」
魔法で対象者の頭上や足下から攻撃するなんてものもある。しかし、自分の魔力を自在に大地と行ったり来たりというのは俺でも無理だ。
儀式系の魔法を使う際、彼は大地に魔力をばらまいて準備をしていたんだろう。普通魔法準備というのは発動寸前まで自分の体の中で行う。それであっても俺みたいに最上級魔法で神霊を倒すなんてことができるわけだし、儀式系の魔法を使う必要性はない……のだが、彼のやり方は結構使えそうだな。
俺の魔法で同じことができれば、火力が大幅に増すだろう。彼は研究者ということもあるので、俺の魔力的な問題についても助言が得られるかもしれない。うん、町まで戻ったら話をすることにしよう。
「大きい魔物を一体倒したが、これからどうするんだ?」
クオトが問う。そこでネルは一つの山を指差した。
「あっちの方に、似たような魔物がいるようね。余裕があればそちらへ行っても……」
「倒せるのなら、処理しておくべきだな」
セルガが言う。ディーチェも合わせて頷き……なんというか、この面子ならば巨獣の魔物も楽勝みたいだな。
これが上位の実力か……確かに瞬間的な力だけを見れば俺やソフィアよりも下なのは間違いない。ただ彼らには魔物を倒すために培った技術がある。そこは参考にして、俺達も研鑽を積むべきだな。
俺達は移動を開始する――ちなみにエイナ達は別の山の麓にいる。現在のところ大型の魔物とは出会っていない。
「ソフィア、戦い方を見てどう思った?」
後方を歩く俺は隣にいる彼女に問い掛けると、
「……相手の攻撃などを読む、というのはかなり有用ですよね」
ディーチェの能力に思うところがあったみたいだな。
「今回は敵がどの程度力を持っているのか不明瞭です。私自身戦えるのかどうか……それを確かめるには、色々な手段で相手の力量を察する能力を持っていた方がいいかもしれません」
と、ソフィアは生真面目な顔で語る。彼女のほどの技量なら、全力で当たれば分析の必要もない……普通の魔物ならば。ただ今回の相手は未知の力を持ち――さらに言えば、今後戦っていく相手は神と呼ばれる存在。分析能力がどの程度通用するかわからないが、ディーチェのように訓練すれば他の能力にも波及するだろうし、やっておいて損はない。
そしてロミルダは……彼女は無言で三人の戦いぶりを見ていた。思うところはあったはずなので、観戦はよかったかな。
「さて、進みましょうか」
ネルが言う――同時、俺の使い魔は新たな情報をキャッチする。
――エイナ達が、大型の魔物を発見した。




