炎の剣
魔物と相対するディーチェの剣が……一瞬のうちに真っ赤に染まり、爆ぜた。
火属性の魔導技――みたいだが、彼女は眼前に迫る巨大な魔物に対し容赦なく炎を浴びせる。火――というより炎の帯とでも言えばいいだろうか。剣の延長線上に鋭い炎が生まれ、それを勢いよく振り抜き業火を魔物に浴びせている。
魔力の刃を形作りそこへ炎を乗せているようで、リーチの長くなった剣により魔物を押し返しているな。そして彼女の技は――
「たぶん、オリジナルだな」
ディーチェの剣は魔物を大きく弾き、のけぞらせることに成功した。
「彼女の能力は、大型の魔物も平然と押し返すその攻撃力か」
威力はクオトを超えている可能性が高そうだな……と、ここでクオトが追撃の衝撃波。さらにダメージを与えるが、耐久力はなかなかのもので魔物はいまだ健在。
そこへ、畳み掛けるようにディーチェのラッシュが始まった。炎をさらに噴き上げ剣戟を決める。魔物にどれほどダメージを与えているのかわからないが、悲鳴を上げているということは相応の傷を負わせているはずだ。
その時、俺は彼らの戦いぶりから一つ理解した。
「……この大陸は魔物の巣が多い。だからこそ、魔物に対して有効な手立てを編み出しているな」
「魔物に、ですか?」
ソフィアが声を上げる。
「ああ。特にディーチェなんかは、あの炎について明らかに自分よりも巨大なものを相手にすること前提で技を出している風に見える」
「確かに、言われてみればそうですね」
「クオトも風の力は回避能力などに応用できるとは思うけど、空中を飛んで仕掛けるなんて少し派手だし、人間に対する戦法じゃないだろうな」
となると、セルガもまた――そう考えた時だった。
彼の周囲に魔力が生じる。魔法を放つのだと理解した直後、その魔力が突如、地面に宿った。
次いで一挙に魔物の足下を魔力が包む――動きを拘束するのか、それとも攻撃魔法か。
「――逃げなければ、死ぬぞ」
セルガは声を発した。直後、クオトとディーチェは後退し、魔物の足下に光が生まれる。
そして一挙に弾けるような音を奏でながら魔物を包んだ。
その光、どうやら雷属性の魔法みたいだ……と、さらに天へと昇っていこうとしていた雷光、突如意思を持ったがのように軌道を曲げ、魔物の背中を大いに打った。
これには魔物もさらなる悲鳴……と、ここでソフィアが発言。
「ルオン様のような最上級魔法、でしょうか?」
「いや、違うと思う。魔法陣が形成されているってことは、普通の攻撃魔法とは異なる。儀式系の魔法かもしれない」
――儀式系の魔法とは、道具や設備などによって生み出される魔法のこと。その分強力な魔法だが、デメリットも大きい。それは――
「ああいう魔法は隙がでかい。今回はクオト達もいるのでカバーにいくらでも入れるけど、単独行動ではそうも行かない。けど上位三人に入っているということは、隙を補う手があるって話だろう」
雷光が途切れる。魔物はなおも健在だが、ダメージは確実に蓄積されているのか動きがやや鈍くなっている。
「このまま一気に決着、でしょうか?」
ソフィアの問い掛け。
「セルガさん達にすれば、その方がいいかもしれないけど……」
魔物の耐久力がわからないからな。現時点でどこまでダメージを与えたのか確証がない限りは、慎重に対処するべきだ。
ここまでは彼らは連携というより好き勝手やって魔物にダメージを与えてきた。魔物の様子からこのまま押し切ることは可能だろうけど……今後共に戦う場合、どうするかは考えないといけないか?
思案する間にクオトが動いた。ただ他の二人は動かない。何か別の目的があるのか――と、今度は相当な高さへ。そこから衝撃波が雨あられと魔物へ向け降り注がれた。
それは言ってみれば、自分の力を誇示するようにも見えた……ここで魔物の悲鳴。長くはなさそうだ。
そこへ続けざまに動いたのがセルガ。今度は地面ではなく、空中に魔法陣が生まれた。それは魔物を標的としており、瞬きをする程度の時間の後、魔法陣が解放した。
さっきの雷光ではなく、放たれたのは炎。魔法陣から生み出されるのは火球であり、それが魔物へ容赦なく降り注ぎ周囲に爆音をもたらす。
これもまた、儀式系の魔法に分類されるはず。見た目が派手で強力な魔法に違いはないが、デメリットも大きいためこうした魔法ばかりを扱うのは結構危険な気がするけど……。
すると、魔物はさらなる突撃を開始した。その狙いはディーチェやセルガみたいだが、
「無駄だ」
火炎を伴ったディーチェの斬撃。巨体に衝撃が駆け抜け、魔物の突進が止まる。
「……彼女の火力は相当なものだな」
俺の言葉にソフィア達はこちらに注目する。
「あれだけの大きさの魔物を押し留めるには、生半可な攻撃力では無理だ。けれど彼女は平然と対処している……」
「――ディーチェさんは、基本専守防衛という感じですよね」
ソフィアが口を開いた。
「それは相手の攻撃を避け、反撃を行うという戦法なのかと思いましたが……このやり方は、非常に危険だと思います。よほど自信があるのでしょうか」
「昨日の発言とは真逆の戦い方よね」
ネルが続く。確かに慎重になるべきだという彼女自身の発言に対し、戦い方はあまりに大胆。
「上位五人に名を連ねる以上、彼女には何か確信的な考えがあるんだろう」
俺は使い魔を通して目を凝らし、続ける。
「発言内容とあの戦法から考えるに、魔物の突撃に応じられる手段があると思う。例えば目に魔力を宿し相手の膂力を分析する……あえて待つのは、距離があるとその力が使えないから、ってことかな? 敵が接近してこないと扱えないのかもしれない」
「ふむ、自分のやり方に確固たる自信を持っていると」
ネルは語りながらじっとディーチェ達の戦いぶりを眺める。
「もし通用しないと判断した場合はどうするのかしら?」
「武器にリーチがあるし、やり方は色々とありそうだが……ともあれ、クオトとディーチェさんなら、ディーチェさんの方が攻撃力は高いみたいだな。実際、彼女の斬撃の方が魔物によく効いている」
クオトはなおも上空から接近しては剣戟をその背に叩き込んでいる。衝撃波は確実に魔物の鱗を抉っているが、真正面から切り刻むディーチェの方が魔物は明らかにたじろいでいる。
「ただ、あの魔物の耐久力も結構あるな。あれだけ食らっているのにまだ健在とは」
「私やルオン様のような力は引き出せない、ということでしょうか?」
「むしろあなた達と肩を並べるのは生半可なことではない、ってことじゃない?」
ネルが言う……まあ魔王と殴り合いができるレベルだからな。俺達と彼らでは、実力に差が存在しているんだろう。
「とはいえ、クオトやディーチェさんはあの様子だと単独でも魔物を倒せそうだな」
と、ここで魔物は口を大きく開けた。ブレスみたいだ。
魔物がはき出したのは、光弾と同じ白いブレス。狙いはディーチェ――すると、彼女はやおら剣を地面に突き立てた。
刹那、彼女の真正面に白い壁が生まれる――魔力障壁を一瞬で形成。ブレスを見事防ぐ。
「防御もなかなかだな」
そう評した瞬間、クオトが上空から一気に魔物へ接近する。風の壁を用いて急降下し――剣を突き立てた。
直後、爆発が起こる。それは魔物の背中全体に波及するほどの範囲で、ブレスの勢いも弱まった。
「少しは援護しないと」
「必要ない」
ブレスが途切れディーチェはクオトに返答しながら障壁を解除――すると、今度はセルガが動いた。




