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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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風の力

 俺達はセルガ達に回り込むように移動を行う――ちなみにネルも普通に魔法を使用。まあこの程度は天使だから余裕か。


「ルオン様、役に立つこととは?」


 山の中腹まで来て、ソフィアが問う。ここからだと肉眼で巨大な魔物の姿を確認できるな。


「上位三人の戦いぶりを使い魔で観察して……思い立ったことがある」

「それは?」

「どうして彼らは強力な魔物に対抗できるのか……ソフィアのように魔王に挑めるほどの実力とは少し違う、戦術を持っていると思ったんだよ」

「戦術、ですか」

「ソフィアと俺は言わば万能型。いかなる状況でも応じられるようにしているわけだが……今回の三人はそれこそ何かしら特化した能力を持っているんじゃないかと」

「その考えは正解ね」


 ネルが話し出す。


「情報によれば、それぞれが何かしら技術を持っているようね。けれど、万能型のルオンさん達に役立つかしら?」

「それは見てみないとわからない……が、今後の戦いの参考になるかもしれない」


 俺の方は色々と問題もあるし、戦術によりそれを少しでも改善できれば……という考えもある。それと、


「ロミルダも、単純に矢を撃つだけではまずそうだし」


 名を呼ばれた彼女はキョトンとなる。


「決してロミルダの力を否定しているわけじゃないよ。ただ、これまでの敵は全て持ちうる力でどうにかしてきたけど、今回の相手は堕天使。正直何をしでかすかわからないし、俺が常に近くにいれるかもわからない。だから、色々と考えておくべきだ」

「確かに、そうですね」


 ソフィアが賛同する。ロミルダはこちらの言葉に気を引き締めた様子だ。


 さて……セルガがどうやら魔物の存在を完全に認識したようで、移動を始める。どうやら俺達と同じように移動魔法――ただその後ろにクオトとディーチェも森を抜けた。


「お、セルガさんだな」

「の、ようね」


 鉢合わせに近い状態で両者は遭遇したわけだが、それに驚くことなく二人とも前にいるセルガを見据える。


「あの様子じゃあ、魔物がいたな。追うか」

「足手まといにならないでほしいわね」

「こっちのセリフだ。順位が一つ上だからといって、舐めるなよ」


 やや喧嘩腰のクオトは、それ以上言及せず走る。俺達が使う移動魔法とは違う。地を蹴り跳ぶように移動する。

 一方ディーチェはセルガと同様移動魔法――さて、ここからどうなるか。


「共闘、という雰囲気だな」

「まあ私達もいるから、邪魔し合うなんてことにはならないでしょう」


 ネルが言う。


「クオトさんがちょっと反発しがちだけど……ま、許容範囲かしらね」

「そういえばネルさん、もし俺達が誰かを引き入れた場合、残る面々はどうするんだ?」

「堕天使打倒後も、この大陸の秩序維持に協力してもらうわ」

「そっか」


 会話の間にセルガが恐竜のような四本足の魔物の真正面に到着した。耐久力のありそうな相手に対し、セルガはやや距離を置いて魔法を使おうと――


「おっと、ちょっと待ってくれよ!」


 クオトが叫んだ。セルガは動きを止めたが、視線は魔物から外さない。


「どうせなら三人でやろうじゃないか。同じ天使に認められた者同士、仲良くやろう」

「……その言葉に反し、ずいぶんと雰囲気が硬質だが」

「ははは」


 笑うクオト。不安になるな。問題にならなきゃいいけど。


「ま、それなりに強そうな魔物だし……いいだろ?」

「私は構わない。ただし魔法を使う際は退避しなければ巻き込まれるぞ」

「そのくらいはわきまえているさ……ディーチェさんもそれでいいだろ?」

「構わない」


 剣を抜き、セルガの前に立つ彼女。前衛は任せろといった感じか?


「クオト、お前のやり方は知っている。私はそれに合わせて守勢に回る故、好き勝手やればいい」

「お? いいのか? 譲ってくれると?」

「私は基本、待ちが多いしそれでいい」


 ……口ぶりからすると、カウンター狙いか? それにしてもこんな巨大な魔物からカウンターを狙うとは、尋常じゃないぞ。


「そっか。なら、こっちは好きにやらせてもらうぜ!」


 言葉を発し、彼は走る。


 次いで跳躍した――のだが、そのジャンプ力は規格外だった。何せ、巨大な魔物の上部まで一気に到達したのだから。


「風の力ですね」


 ソフィアが述べる――同時、魔物がクオトの動きを捉えたか、雄叫びを上げた。

 次の瞬間、魔力が湧き上がる。防衛本能のようで、何をするのか――


 すると魔物の背の一部分が発光し、膨らみ――クオトへ向け、光弾が放たれた。

 魔物が魔法を使っているように見える……この魔物が持っている特殊能力だろうか?


「おっと、ずいぶん器用なやつだな!」


 クオトが叫ぶ。それより大丈夫なのか? 光弾は真っ直ぐ彼へ向かっている。空中である彼に回避手段はないはず。

 そう思った矢先、興味深いことが起こった。


 突然彼が、空中を蹴りさらに跳躍した。光弾はその真下を通過し、彼は無傷。その動きにソフィアが口を開いた。


「空中でさらに跳躍した……?」

「というより、風を壁のように形成して跳んだんだろう」


 こちらの言葉を裏付けるかのように、彼は突然空中で立ち止まった。魔法を使えば俺も似たようなことはできるが、彼は継続して魔法を使っている様子はない。


 ――俺やソフィアが持っている移動魔法は、基本それを使ったら集中的に魔法を維持しなければ効果が途切れる。だが彼の技法はどうやらそうしたことが必要なさそうだ。

 魔物がクオトの回避を悟ったか、さらに背中に光を生み出す。それを見ながら、ネルが一言告げる。


「この魔物は、堕天使の影響を受けているかもしれないわね」

「堕天使の?」

「あくまで可能性だけど……元々背後や上に回ったら相応の対策はしていたはずよ。けれどさすがに光弾を生み出すなんて、あの魔物が発想するとは思えないし……堕天使が干渉し、何かしら能力を与えたのかも」

「そんな風に改造された魔物と戦う必要があるってことか」


 表立って活動していた堕天使はヴィレイザーだっけ? この魔物の巣で動いていたのなら、大型の魔物に対し色々実験していてもおかしくないな。


「そおら!」


 考える間にクオトが光弾を避けながら仕掛ける。風で空中を蹴りその背に斬撃を――入れた。

 直後、盛大な音と共に衝撃波が拡散し魔物が雄叫びを上げる。威力はあの魔物にも通用するみたいだな。


 すると、魔物は光弾をばらまきクオトを牽制しながら突撃を敢行した。どうやら真正面にいるディーチェとセルガの二人に目をやっている。


 まだ両者共に動かないが、魔物としては追撃があると思ったのだろう。ならば先行して仕掛ける――そういう意図があるらしい。


 単純に目の前の敵を倒すのではなく、状況を読んで動いている。思考能力は巨大故になのか、それとも堕天使が力を封じたためなのか――


「ディーチェさんは、動きませんね」


 ソフィアが呟いた。魔物が動き始めているのに、彼女の言葉通りディーチェが動かない。

 何か手があるのは間違いないが……あの巨体に対し待ちの体勢だ。宴における四位の実力を、ここで発揮するのだろう。


 彼女は剣を構えたまま動かない。クオトは魔物を追い立てるようにさらに斬撃を刻む。そして――魔物がとうとうディーチェの手前までやってくる。

 どう動く? 緊張の一瞬。俺は使い魔でも自分の目でも彼女を注視し、


 刹那、彼女の剣が、太陽の光の下できらめいた。


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