上位の狩人
馬車による移動で、俺達は該当の魔物の巣へ向かうことになったのだが……ネルがその手前の町に停泊すると言い出した。理由は、今回出会うことになる宴の参加者――上位の人間が来るから、とのこと。
「俺も一度会った方がいいのかな」
「そうね。顔は合わせておきましょうか……ルオンさん、同行者は?」
「ああ、それじゃあソフィアを……ロミルダはどうする?」
黙ったまま首を横に振るロミルダ。うん、それならやめておこう。
「なら、ソフィアと二人で……」
そこで、ネルはおもむろに御者台へと近づく。何事かと思ったら天幕を少し開けて前を覗く。
「……見えてきたわね。あれよ」
そう言って指差す彼女。俺達は彼女に続いて前を見ると、そこには――
「……ネル、山脈があるんだけど」
「ええ、そうね。あそこが魔物の巣」
……広くないか?
「渓谷もかなり大きかったと思いますが」
と、ソフィアが山を見据えながら語る。
「ここは相当な規模ですね……」
「大陸の中でも有数の大きさだからね」
「そんな場所が国の管理も無く空白地帯、ですか」
「大きすぎるから、ね。過去に何度も管理しようと頑張ったことがあったみたいだけれど、手に負える規模では無かった。半ば放置されていた、というのが答えなのかも」
……ゲームではこれだけ広大な魔物の巣はなかった。つまり、少なくとも二作目の物語でこの場所は出てこなかったことになる。
「攻略には時間が掛かりそうだな」
リチャルがコメント。
「この規模だと、上級の魔物がどのくらいいるのか……」
「だからこそ、今回上位の人間が複数人動いたのだけれど」
ネルは山脈から目を離し、述べた。
「この場所は広大であるが故に、魔物達も山の周辺から出ようとしない……というより、出る必要がないといったところかしら。よって他の巣と比べ周辺地域は安全だったりするのよ」
山脈の中で完結してしまっている、と。
「宴の主旨は魔物の討伐だから、どちらかというと被害が出ているような場所を優先的にする傾向が強かった……それでもここに踏み込む人はいたけど、一日二日では調べるのも大変だし、宴の参加者としても攻めあぐねていたようね」
「でも、今回本腰を入れると」
俺の言葉にネルは頷く。
「ええ、そうね。ただここを調べるのはさすがに数日では無理でしょうから、長期戦になるわね」
多少なりとも時間は掛かるものと考えていいだろう。
俺達はやがて馬車を降り、町へと入る。結構大きいな。
「えっと、俺達はどうすればいいんだ?」
確認のためにネルへ問い掛けると、彼女は微笑み、
「彼らには堕天使に関して事前に説明はしている。それとこの町で話をするかもって伝えているから、呼べば連絡所で会えるわよ」
「なら、ひとまずしておくべきかな……ちなみに俺達のことは?」
「まだ言ってないわ。 普通にシェルジア大陸で魔王を倒した人物だと言うつもりだけど」
……その事実を知られて不都合でもないから、それでいいか。
「あなたが実力を見定める、というわけだから何かしら箔がないとまずいでしょ?」
「ああ、そうだな……どっちかというと、ソフィアの方に目がいきそうな気もするけど」
「そうでしょうか」
小首を傾げるソフィア。あんまり自覚してないけど、魔王を実際倒したのはソフィアだからな?
「なら、早速話をするか」
「ええ、そうね。ならば連絡所に……ああ、それより前に食事にしましょう」
彼女の提案により、俺達は食事をとるべく店を探し始めた。
それから小一時間くらいして、俺とソフィアだけが宴の連絡所に入る。ちなみに他の仲間は宿で待機だ。
「来るまで、少し待っていて」
そう言い残しネルは部屋を出た……と、ここでソフィアが口を開く。
「ルオン様、現在エイナやアルトさんは天使の盾を持つに足る存在……とは、いかないですよね?」
「二人の実力を完全に把握しているわけでは無いから、断定したことは言えないけど……まあ、現在の状況だと難しいだろうな」
かといって、今回出会う人物にすぐ頼むというわけにもいかないだろうから……と、ここで俺は彼女に問う。
「何か思うところはあるか?」
「エイナについては、正直無理をしないかと不安になります」
その言い分はわからないでもないが……。
「十分な力を持っていたとしたら、俺としては頼みたい」
「そう、ですよね」
引っ掛かる物言いなのは、やはり共にいた時間が長い従姉妹だから、かな。
「わかりました……すみません、唐突に」
「いや、気を揉むのは仕方がないさ」
と、ここでノックの音が。返事をすると扉が開き、ネルともう一人の姿が。
長身の男性。見た目は二十代半ば、くらいだろうか? 全身を白いローブに覆い、肩くらいまで到達する金髪がずいぶんと特徴的。
なおかつ、顔つきは女性受けしそうなくらいで、世の女性を虜にしそうなくらい整っている。
「あなた達のことをここに来るまでに伝えておいたわ」
ネルが言う。ならばと、俺は彼に自己紹介をした。
「ルオン=マディンだ。初めまして」
「……セルガ=ライベルだ。とある学院で魔力の研究をしている」
魔力の? こちらが「そうか」と相づちを打つと、彼は礼を示し、
「多少なりとも話は聞いている。私としてはその戦いに参加することについて異論はない。よろしく頼む」
……魔王を倒した実績を評価している模様。しかし、ずいぶんと真面目だな。
「彼は宴の参加者で三位の人」
ネルが言う。三位、ってことは今回出会う中で最高位か。
「研究者だけれど、その実力は他の追随を許さないわ……参加者のうち、純粋な魔法使いは少ないけれど、その中で間違いなく最高峰の力の持ち主ね」
「私自身は、過大に評価されていると思っている」
表情を変えずセルガは語る。うーん、硬い。
「あと、魔力の研究を兼ねて今回の宴に参加したのだけれど……魔物の巣には調査するにしても色々と制約があってね。今回入り込めると知り、参加することにしたそうよ」
その話だけ聞いていると、単なる研究員という感じだけど……。
「その実力は、順位で証明されているわね」
「単に運が良かっただけだ」
至極真面目に語るセルガ。仏頂面なのだが、決して不快というわけでもない。
えっと、三位が魔法使いで、二位が騎士だったっけ。この二人はどちらかというと公的な機関と関連がある人だな。となると、もし協力を仰ぐことになった場合……手続きとかが必要になるかもしれない。
まあ天使と協力している今なら、少々無茶しても問題ないように思えるけど……沈黙していると新たにノック。ネルが返答すると扉が開き、今度は女性が現れた。
その格好は、冒険者然とした格好ではあったのだが、どこか品があった。青い髪のショートヘアで、同じように青い瞳はソフィアと比べずいぶんと濃い。黒にも見える。
得物は、背負っている長剣かな? 身長はそれなりにあるのでまあまあ様になっているが、宴の上位に位置する戦士とは見た目からは思えない。
「ああ、こちらへどうぞ」
ネルが自身の横を指差す。彼女は「はい」と応じると、ゆっくりとした足取りで彼女の隣へ座る。
「最初に自己紹介を。私はディーチェ=ロプシェル。宴の参加者で一応戦士をやっているわ」
……なんというか、立て続けに生真面目系が。もしや上位は全員こんな調子なのかと思っていると、今度はドタドタと足音が。
そしてノックがあり、ネルが返答した直後、勢いよくバン! と扉が開いた。
「天使様はここにいるのか!?」
部屋に響き渡る盛大な声……男性だがやや高い。座っているディーチェが顔をしかめるほどの声量。
……とりあえず、騒がしい人もいるらしい。そんなことを思いながら、俺は彼に席に着くよう促した。




